第二章
Ⅳ レマゲンの橋  惑星トゥーロンの周囲に待機する公国艦隊。 「編成完了しました。何時でも出撃可能です」  タスカー大将が報告する。 「追従する帝国艦隊七百隻も準備完了です」  とは、ラインホルト・ブルーメンタール准将だった。  『レマゲンの橋』を航行するには、水先案内人が必要だった。  公国艦隊には、橋を渡った経験のある者はいなかったからだ。  その時、帝国艦隊のブルーメンタール准将が名乗り出た。 「『レマゲンの橋』には難所が幾つかあります。案内人なしでは座礁は必定です。我 が艦隊が水先案内人となりましょう」  惑星リモージュに着き次第、解放されることを条件に案内役を名乗り出たのである。  ブルーメンタール准将の艦は航行不能なので、惑星トゥーロンに残して自らは戦艦 デボンシャーに乗り込んでいた。 「全艦、進撃開始! 進路、レマゲンの橋の向こう岸、惑星リモージュ!」  厳かに命令を下す公王アレックス。 「微速前進! レマゲンの橋を渡る」  タスカー大将が復唱する。  静かに動き出す公国艦隊五万隻。  レマゲンの橋へと進入する艦隊。  橋の中は重力が乱れていてワープを行うことができず、亜光速航行で行くしかない。  『船の墓場』と呼ばれる空域の存在もあり、間違って入り込んだら脱出も困難とな る。  各分艦隊ごとに帝国の艦が水先案内人として付いている。  レマゲンの橋を渡り終えて、銀河系渦状腕の一つであるオリオン腕へと、ついにた どり着いたのであった。 「オリオン腕か……。人類発祥の地である地球と、我らが祖先のトラピスト星系連合 王国のあった地でもある」  アレックス公王が感慨深げに呟いた。 「そしてケンタウロス帝国の本星のある地でもありますね」  タスカー大将も同様の感想を抱いているようだった。 「最寄りの惑星リモージュは四十七光秒のところにあります」  ブルーメンタール准将が教える。 「うむ、案内してくれか?」  アレックス公王が言うと、 「お任せください」  ブルーメンタール准将が答える。  やがて惑星リモージュが見えてくる。 「ご覧ください。あれが惑星リモージュです」  と、指さすブルーメンタール准将だった。  恒星ブレスト系第三惑星リモージュは、レマゲンの橋の一端を守る拠点の星だった。 駐留艦隊七万隻が守っていたが、公国の侵略を受けて橋の反対側へと移動していた。 「前方に帝国艦三百隻!」  電探手のグレゴリー・クロンプトン少佐が報告する。  三百隻は、レマゲンの橋の両端が同一国の平常時の惑星に対する標準的な艦数であ る。惑星防衛というよりも、宇宙事故の対応や密輸などの犯罪を取り締まる警備隊と しての組織である。当然、戦闘など経験がない。  そんな三百隻しかいない艦隊が、二百倍近くの艦隊が相手では尻込みするだけだろう。 「准将、相手に呼びかけてみてくれないか」  ブルーメンタール准将に指示するアレックス公王。 「かしこまりました。無線借ります」  通信端末を操作して、敵艦に連絡を取る准将。 「惑星リモージュ警備隊へ。私は、守備艦隊参謀長ギーゼブレヒト大将付き副官ライ ンホルト・ブルーメンタール准将である」 『ギーゼブレヒト大将の副官? それが何で敵艦隊にいるのだ?』 「守備艦隊十四万隻は全滅し、惑星トゥーロンも陥落した」 『十四万隻が全滅だと?』 「今、こうして公国艦隊がやってきていることが証明だ」 『惑星トゥーロンも落ちたのか?』 「そうだ。速やかに公国の支配下に入ることを要請する」  しばらく無言が続いた。 『いいだろう。我々は降伏するが、下の連中は直接交渉してくれ』 「分かった」
     
11