第二章
Ⅰ 軌道戦!  旗艦デヴォンシャー艦橋。 「オルコック少将が、敵を降伏させました」  艦隊参謀長のランドルフ・タスカー大将が報告した。 「よし、こちらも負けられないな。現在の戦力は?」 「敵勢力はおよそ十万隻、こちらは八万五千隻です。損害率では、敵二万隻に対して 味方一万隻です」 「2対1か。とは言っても、のんびりしていられないな」 「そうですね。問題として、向こうは弾切れも燃料切れも起こさないですからね。い くらでも補充が利きますから」 「弾の切れ目が運の切れ目ということだ」 「それに『レマゲンの橋』を渡って増援が来る可能性もあります」 「そうだな。いっちょやるか!」 「いいですね。やりましょう」 「戦列艦を外側にして突撃だ!」  戦列艦とは、地球歴大航海時代に建造された帆船の舷側に多くの大砲を並べた戦艦 である。敵味方が舷側を向けて撃ち合った。  紡錘陣形で中央突破攻撃する時に、絶大な威力を発揮する。 「これより紡錘陣形に移行する。戦列艦は外側へ移動!」  タスカー大将が艦隊陣形の指揮を執る。  次第に纏(まと)まってゆく陣形。  敵艦隊は鶴翼の陣形を取っているのに、紡錘陣形にするのは不利なのであるが、何 か策があるのであろう。  しかも中央突破してもそこには惑星があり行き止まりである。  誰もが不安を抱くことなく指令に従っていった。  突撃する公国艦隊。  前面の戦艦が敵艦隊に穴を開けて、すかさず突入した戦列艦がその穴をさらに広げ てゆく。  包囲陣を敷こうとした鶴翼陣が、あっさりと突破されようとしている。 「中央突破成功しました!」 「よし、減速して衛星軌道に入れ!」 「減速します」  機関長のアルフィー・キャメロン中佐が復唱する。 「衛星軌道へ移行します」  操舵手のジャレッド・モールディング少佐。  減速して衛星軌道に入る公国艦隊。  回頭して後を追う帝国艦隊だった。 「敵が追ってきます。衛星軌道を追従しています」 「思う壺だ。これで後方は安全だ」  衛星軌道上での戦闘は、重力や磁気を上手く利用することだ。  ミサイルなど質量のあるものは、重力に引かれて予定コースを外れる。  荷電粒子など電荷のあるものは、磁気によって弾かれる。  衛星軌道上での速度は、惑星重力と高度に依存する。軌道上で加速しようとすると より高高度の軌道へと移り速度も落ちる。逆に減速しようとするとより低軌道に移り 速度が上がる。加速のエネルギーは位置エネルギーに変換されるということだ。  先に衛星軌道に入った公国艦隊だが、後方の敵艦隊は遅れていた。  回頭したり隊列を整える時間と、軌道上戦闘に慣れていなかったのだろう。敵艦隊 の位置から公国艦隊を攻撃することはできなかった。丁度、惑星地上が射程に入って いるので、撃てば地上を攻撃することになるからである。  公国艦隊には、しばしの余裕ができていた。 「軌道爆雷で地上基地を破壊する」  艦底の爆雷投下口が開いて軌道爆雷が投下される。  次々と炎を上げて炎上する地上基地。  地上基地を叩いておけば、揚陸作戦もスムースに進められる。  そうこうするうちに、目前に敵艦隊が現れる。  低軌道を回る公国艦隊が、高軌道を回り始めた帝国艦隊に追いついたのである。 「よし、お尻に火を点けてやろう!」  アレックス公王が言うと、 「全艦、光子魚雷装填!」  タスカー大将が指示を出した。 「光子魚雷、装填完了!」  魚雷長のブルース・パクストン少佐が返答する。 「魚雷、発射!」 「発射します」  艦首魚雷発射口から飛び出す光子魚雷。
     
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