第一章
Ⅶ 迎撃艦隊  戦闘が始まってから五時間が経過した。  公国艦隊は、射程ギリギリの位置に留まって、遠距離攻撃に徹して距離を縮めるこ とはしなかった。  惑星トゥーロンの艦隊参謀室。  ギーゼブレヒト大将がイライラしていた。 「こちらの方が、艦艇数で四万隻も有利なのに、何故撃ち崩せないのだ!」 「戦闘経験の差ではないでしょうか」 「素人だというのか?」 「そうではありませんか。我艦隊がこの惑星に駐留してから、一度も戦闘を行ったこ とがありません。しかし、敵艦隊はここへ来るまでに何度も戦闘を重ねてきました。 経験を重ねてきているんです」  苦虫を嚙み潰したような表情のギーゼブレヒト大将。 「大変です! およそ五千隻の艦隊が『レマゲンの橋』に向かっています」  レーダー手が叫んだ。 「なんだと! 別動隊か?」  驚愕するギーゼブレヒト大将。 「このままだと、対岸の恒星ブレスト第三惑星リモージュが占領されるかもしれませ ん」  副官のラインホルト・ブルーメンタール准将が焦った口調で諭す。  公国の侵略の前、平常時の惑星トゥーロンと惑星リモージュの首尾は、それぞれ七 万隻だった。  どちらの惑星もケンタウロス帝国の領土内であり、駐留艦隊を置く必要がないほど だった。  だが、かつて初代アレクサンダー公王の少年時代に、民間船でタルシエンの橋を通 過して惑星リモージュに到達したという事件がおこり、防衛の重要性が問われて艦隊 を駐留させるようになった。  またフォルミダビーレ号もタルシエンの橋を渡ったことで、さらに駐留艦隊の強化 が行われた。  また当時の惑星トゥールーズからトゥーロンへと改名もされた。 「惑星リモージュには駐留艦隊はいません。全部こちらへ回されましたから」  公国艦隊が侵略を開始してから、やがて惑星トゥーロンへ向かって来ることは明白 の事実。防衛の要であるこの惑星は死守しなければということで、惑星リモージュの 艦隊をこちらへ移送したのだ。 「やつらを行かせてはならん! 左翼の高速艦隊二万隻を迎撃に回せ! 素早く迎撃 して、速やかに戻ってくるのだ」  惑星トゥーロンの防衛艦隊から二万隻が離脱して、別動隊の迎撃に回った。  別動隊を追う二万隻の迎撃艦隊。  旗艦ブランデンブルクの艦橋。  司令官のジークムント・ハイニヒェン准将が指揮する。 「たかが五千隻、軽く捻って本隊に戻るぞ」  別動隊に斜め後ろから接近してゆく迎撃艦隊。 「まもなく射程距離に入ります」 「射程に入り次第攻撃せよ」 「射程に入りました!」 「撃て!」  攻撃を開始する迎撃艦隊。  それに応じて、別動隊が反撃する。 「おかしい……」  ハイニヒェン准将が首を傾げている。 「何がですか?」  副官のヒルデブラント・リヒテンベルガー少佐が尋ねる。 「奴らの攻撃が単調すぎる。まるでプログラムされているみたいだ」 「そうでしょうか? 自分には分かりませんが」  戦闘経験の薄い副官には分からなかったようだ。 「すぐに分かる。敵艦を拡大投影してみろ」 「分かりました」  ビデオカメラを超望遠にセットしてモニターに映した。 「何ですか? これは!」  異様な風袋を晒した敵艦隊が映し出された。  前方部分と後方部分に分かれており、後方は前方に曳航されている。  後方は電源ケーブルを通じて動力を供給されて兵器類が動いているようだ。前方は というと動力源は生きているようだが、艦体のあちこちに穴があいたままだ。  まさしくガラクタと言うべき艦艇が動いている。 「敵艦隊は無人のようです。自動操舵で動いているもよう」 「守備力を削るために、こんなガラクタを使うとは、何を考えているか。こんなもの に時間を取られる訳にはいかんぞ」 「放っていてもいいと?」 「人間が乗っていないのに、仮にレマゲンの橋を渡り終えても何ができる? いずれ 恒星ブレストの重力に引かれて消滅するだけだ」 「なるほど」 「引き返すぞ!」 「了解!」  その時だった。 「右舷後方に感あり!」  レーダ手が叫ぶ。 「なんだと!」  思わず振り向いてしまうハイニヒェン准将だった。
     
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