第一章
Ⅴ 防衛戦  メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン。  その後背には、渦状腕ペルセウスからオリオンへと渡る海峡『レマゲンの橋』が口 を広げていた。そこを通過すれば、その対岸ブレスト恒星系第三惑星リモージュに到 着する。リモージュもトゥーロンも橋を守るために要塞化されている。 「グロベンラーデが陥落しただと? しかも遠征艦隊の大部分が敵に寝返ったとはど ういうことだ?」  司令官ノルベルト・ギーゼブレヒト大将の怒号が艦内に響く。彼は、ペルセウス方 面軍最高司令官でもある。 「給料を倍出す、とか言われたんですかね」  副官のラインホルト・ブルーメンタール准将が揶揄する。 「馬鹿な! いくら給料が良いからって、味方を裏切るものかっ!」 「ともかく迎撃の準備を致しましょう。間違いなく、次はここにやってきますから」 「当然だ!」  どちらの方角から攻めてくるか分からないため、惑星を中心に扇状に戦列を組んで いた。戦列の両端に高速艦を配置し、いつでも直ぐに方向転換できるようにして、敵 艦隊を囲い込む態勢である。 「艦隊の配置、完了しました」 「うむ、索敵機を飛ばしてくれ。方位角十五度間隔で複数な」 「分かりました」  数時間後、索敵機が発進して、来るべき敵艦隊の捜索に出た。 「敵艦隊の勢力が分かりました。総勢十万隻です」 「十万隻だと? どこからかき集めたんだ? 遠征に出た時は三万隻だったはずだ」 「本国から呼び寄せたのでしょう」 「本国はもぬけの殻ということか?」 「そうなりますね」 「では、今すぐ艦隊を組んで攻め込めば、本国を落とせるということか?」 「どうやって行くのですか? ペルセウス方面はほぼ公国の支配に落ちました。トリ スタニア共和国側の『ルビコンの橋』を渡るしかないのですがね」 「その前に『タルシエンの橋』があるだろ」  宇宙空間を進む索敵機。  機内は三人乗りで、操舵手・電探手・機銃士である。  通信は手の空いてる者が担当。 「こちらトネ4号、サンダーバードどうぞ」  機銃士が連絡する。 『こちらサンダーバード、トネ4号どうぞ』 「こちらトネ4号、探索の終端まで来ましたが、敵艦隊は見当たりません」 『こちらサンダーバード、トネ4号帰還せよ』 「こちらトネ4号、了解。帰還します」  その時、電探手が叫んだ。 「待って! 前方に感あり!」 『トネ4号、正体を確認せよ』 「こちらトネ4号、了解」  惑星トゥーロンの艦隊参謀室。 「索敵機、トネ4号の通信が途絶えました。敵に見つかって撃墜されたものと思われ ます」  ブルーメンタール准将が報告する。 「距離は?」  ギーゼブレヒト大将が尋ねる。 「三十二光秒です。方角左十五度」 「戦列を左十五度回せ!」 「了解。戦列を左十五度回します」  これから始まるのは防衛戦である。  艦隊を前進させて迎撃に出るのは無能者がやることである。  惑星の傍で防衛戦に固執すれば、艦が損傷すれば直ちに惑星に降りて、簡単な修理 や人員補充ができる。
     
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