第三章
Ⅶ 査察  恒星ウォルソール第二惑星ベルファストに近づくアムレス号と追従の艦隊。所属す る艦艇のうち警備艦と軽巡洋艦を国境警備に残して、駆逐艦十二隻とウォーズリー少 佐の艦艇五隻、合わせて十七隻である。  アムレス号は、これまで国家の軍に所属しておらず、軍人すらも乗船したことがな い。個人の所有する『戦える民間船』という位置づけであったが、現在はサンジェル マン軍の旗艦となり、軍人をも乗船していることから宇宙戦艦と呼ぶに相応しい立ち 位置となった。 『マモナク、惑星ベルファスト、マデノ中間点ニ到達シマス』  航海長役のロビーが報告する。  乗員のほとんどは、士官候補生あがりで自国から出たことがない。  その点、ロボットのロビーとそれに繋がるホストコンピューターには、数百年にも 及ぶ航海の記録が残っており、銀河系全体の地図(航路図)も万全だった。  当面の間は航海はロビー任せとなる。 「分かった。進路そのまま」 『了解シマシタ』 「進路そのまま!」  操舵手のジャレッド・モールディングが復唱する。 「艦長。艦内の視察などなさってはいかがでしょうか?」  軍艦となった今、アレックスの呼び名を艦長に変えていたエダだった。 「おお、そうだな。見回ってくるとするか」  立ち上がり、副官のカトリーナ・オズボーンに、 「君もついてくれないか」  と伝える。 「はい。かしこまりました」 「エダ、後を頼む」  艦橋後方のワープゾーンへと移動する二人。 「機関室へ」  アレックスが呟くと、スッと消えた。  機関室。  強大な空間の中に、核融合インパルスエンジンが横たわっている。核融合炉と粒子 加速器を合体させたような動力装置である。  そこのワープゾーンにアレックスが現れる。  ワープゾーンから一歩踏み出すと、指導教官が駆け寄ってきた。 「これはこれは艦長、わざわざお越しいただいて恐縮です」  アレックスの身分呼称は、宮廷内では陛下だったり、軍人達の間では閣下だったり、 外交官は伯爵と呼び、その時の状況によって変わるが、このアムレス艦内では艦長で 統一していた。 「査察ですか?」 「どうですか? 乗員の様子は?」 「張り切っていますよ。機器の操作も、手元にある説明パネルに表示される手順通り に行えば誰でも簡単です。もし間違っても警告音と共に指摘してくれますから」 「まあ今は見習い期間ですからね。いずれ説明書を見なくても操作できるように訓練 してください」 「まちろんです。お任せください」  続いてアレックスが向かったのは、粒子加速器繋がりで荷電粒子砲発射制御室。特 殊強化プラスチックの窓を隔てて、階下に二列の粒子加速器が並んでいるのが見える。 片方が陽イオン用、もう片方が陰イオン用の加速器である。  粒子を加速するにはイオン化する必要があるが、それをそのまま陽子砲などとして 単体で射出すると、磁場や恒星風などによって曲げられてしまう。  そこで陽子加速器、電子加速器でそれぞれ加速させて射出する前に混合させ電気的 に中性な粒子として発射すると、磁場に影響されることなく真っすぐ進んで目標を的 確に破壊することができる。  粒子には、陽子・電子対の他、陽子・反陽子対(対消滅)を使用する。  後方の円形加速器でイオン粒子を相当加速させた後、直線形でさらに加速させて射 出する。 「凄いです! 凄いです!」  頬を紅潮させて粒子加速器を指さし興奮している。 「粒子加速器が一台でも凄いのに、並列二台なんて……言葉にもなりません」  他の乗員も同様であった。 「言葉に出しているじゃないか。落ち着き給え」  教官が窘めている。 「あ! 艦長!」  一人がアレックスに気が付いて敬礼した。  一斉に敬礼する乗員たち。 「はじめて見るのかな?」  アレックスが一言尋ねると、 「もちろんであります」 「こんな超高性能な設備見るの初めてです」 「これって一発撃つだけで、都市一年分くらいの電力が必要ではありませんか?」  口々に我先にと話し出す。 「まあ、そういうことですね」  頷くアレックスに、畳み込むように、 「この艦に乗れるなら、どこまででも付いていきます」  と前屈みになってくる。 「期待していますよ」 「はっ!」  と再び敬礼する乗員達だった。
     
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