第二十五章 トランター陥落

                 I  バーナード星系連邦の首都星バルマー。  連邦軍統合本部の作戦会議場。 「タルシエン要塞に、共和国同盟軍の精鋭艦隊が続々と集結しております」 「ますますもって、同盟への侵攻が困難になってきたというわけだな」 「タルシエンの橋の片側を押さえられてしまったのですから。どうしようもありませ んね」 「橋の道幅は狭い。ここを通って行くには、例え大艦隊であっても一列に並んでと言 う状態だ。出口付近に散開して待ち伏せされると、各個撃破されて全滅するしかな い」  議場は悲観的な雰囲気に包まれていた。  あれほど強固な要塞が落ちるとは、みなが落胆し精気がなくなるのも当然と言える であろう。  その時、声をあげて息まく士官がいた。  スティール・メイスン少将である。 「さっきから何を非建設的な意見を言っていらっしゃるのですかねえ。今が絶好の機 会だというのに、これを逃すおつもりですか?」 「何を言っているか、スティール」 「ですから敵の精鋭艦隊がタルシエンに集結している今がチャンスだと申しておるの です」 「どういうことか? 説明しろ!」 「それでは……」  といいながら立ち上がるスティール。 「先程からも申している通り、今が共和国同盟に侵攻する最大のチャンスです。同盟 はタルシエン要塞に第二軍団の精鋭艦隊を集結させており、本国の防衛が手薄になっ ております。第二軍団以外の戦力が恐れるに足りないことは、かつて敵にハンニバル 艦隊と言わしめた後方攪乱作戦において実証済みであります」 「タルシエンの橋の片側を押さえられていると言うのにどうやって同盟に進撃すると いうのだ」 「なぜタルシエンにこだわるのですか? 我々には銀河の大河を渡ることのできるハ イパーワープエンジン搭載の戦艦があるじゃないですか」 「しかしハイパーワープエンジンで大河を一瞬に渡っても燃料補給の問題がある。ハ イパーワープは莫大な燃料を消費する。ぎりぎり行って帰ってくるだけの燃料しか搭 載できないのだぞ。同盟内に入り込んで戦闘を継続するだけの燃料はない。敵勢力圏 では足の遅く攻撃力のない補給艦を引き連れていくわけにはいかんぞ。万が一の撤退 のことを考えれば実現不可能と言える。後方撹乱作戦のように現地調達もできないだ ろう。片道切符だけで将兵を送り出すわけにはいかない」 「それにだ。仮に燃料の問題が解決したとしても、将兵達を休息させることなく、最 前線での戦闘を強要することになる。ハイパーワープで飛んだ先は、ニールセン率い る五百万隻の艦隊がひしめく、絶対防衛圏内だ。休んでいる暇はないから、士気の低 下は否めないぞ。これをどうするか?」 「手は有ります。図解しながら説明しましょう。パネルスクリーンをご覧下さい」  スティールが端末を操作するとパネルスクリーンに一隻の戦艦が表示された。 「まず、これが同盟に侵攻する戦艦ですが、この艦体の後方に三隻の戦艦をドッキン グさせます」  表示された戦艦に、別の戦艦が三隻接合され、まるで補助ロケットのような形状に なった。  この時点で感の良い者は、スティールが言わんとすることを理解したようであった。  作戦を概要すると、 1、後方の三隻をブースターとしてハイパーワープエンジンで大河をワープして渡る。 2、前方の戦艦は、ペイロードとなって後方の三隻に送り出してもらい、その間将兵 達は休息待機に入る。 3、ワープが完了して向こう岸に渡ったら、ブースター役の三隻の戦艦はそのまま引 き返す。 4、燃料満載、将兵休息万全の前方の戦艦は、侵略を開始する。  というシナリオである。  全員が、スティールの奇策に目を丸くしていた。 「しかし合体した状態で無事にワープできるのかね?」 「そのためのエンジン制御プログラムを使用します」 「君のことだ。そのプログラムもすでに開発しているのだろう?」 「もちろんです。でなければ提案しません」  懐疑的な上官たちに、自信満面で解説するスティールだった。 「万事うまくいけば、燃料補給と将兵の休息の問題が解決するし水と食料の消費もし ない、Uターンしたサポート軍はそのまま、自国の防衛にあたれると、つまり一石四 鳥が解決するというわけだな」 「そうです」 「よし、決定する。メイスン少将の作戦案を採用することにする。これ以上手をこま ねいていれば、あのランドールがさらに上に上がって、ニールセンと同等以上に昇進 すると、もはや侵攻は不可能になる。ニールセンとランドールとの間に軋轢のある今 のうちがチャンスだからな」  一堂の視線がメイスンに注がれる。 「判りました。誓って、共和国同盟を滅ぼしてみせましょう」  キリッと姿勢を正し敬礼するスティール。
     
11