第二十三章 新提督誕生
W  自宅においてアレックスから呼び出しを受けたチェスター大佐は、長年連れ添って きた妻の前でふと言葉をもらした。 「これまで随分おまえに心配かけさせてきたが、それも今日で終わりだろう」 「やはり肩叩きですか?」 「わしより若くて優秀な人材がどんどん出てきているからな。一年で退役となる老骨 がいつまでもでしゃばっていては士気にも影響するし、後進に道をゆずれってところ だ。若くて勇壮な若者を推挙するのが本筋というものだ。誰が考えてもオニール大佐 が次期艦隊司令官となるのが妥当というものだ」 「退役までどこに配属されるのですか」 「慣例では艦隊司令本部の後方作戦本部長、もしくは艦隊士官教育局長というところ かな」 「それにしても後一年なのですね」 「よくぞここまで生き延びてこれたと感謝すべきなのだろうな。同期のものは、戦死 したり傷病で中途退役したりして、ほとんど数えるほどしか残っていないというの に」 「無事定年を迎えられるだけでも幸せといえるのでしょうか」 「ああ……しかし、将軍になれなかったのは、やはり心残りだ。そうすれば老後の生 活ももっと楽になるのだがな」 「あなた……」 「おっと、今更愚痴をいってもしかたないな。それじゃ、行ってくるよ」 「行ってらっしゃいませ」  シャイニング基地司令官室。 「チェスター大佐がお見えになりました」  アレックスが司令官のオフィスに戻ってすぐに、インターフォンが鳴り秘書官が来 訪を告げた。 「通してくれ」 「はい」  ドアが開いてチェスターが神妙な表情で入室してきた。 「オーギュスト・チェスター大佐、命により出頭いたしました」  チェスターは敬礼してアレックスの前に立った。 「椅子に腰掛けませんか」  アレックスは老体を気遣って椅子をすすめた。ここは地上である、重力の小さい艦 隊勤務の長い彼にはただ立っているだけでも重労働に値するからだ。 「いえ。ご懸念には及びません。老いたりとはいえまだ健在です」 「そうですか、結構ですね。では、早速本題に入りましょう」 「はっ」 「ご存じのように、私が第八師団総司令となり第十七艦隊司令が空席となりました。 現在貴官にお願いして代行を務めていただいておりますが、一刻も早く人事を決定し なければなりません。敵の動向もさることながら、艦隊内での士官達の統制をまとめ ることも、最重要項目です。艦内では次の艦隊司令官が誰かということで、指揮系統 に混乱が生じているふしも見られます。司令官代行として、あなたの耳にも入ってい るはずですね」 「はい、確かに」 「ウィンディーネ艦隊内では、ゴードン・オニール大佐に決定したという、まことし やかな流言もまかり通っているらしいですが、私は冗談としても一度だってそんなこ とを口に出した覚えはありません」 「申し訳ありません。私の指揮が至らないせいです」  チェスターは、代行として任にあたっているにも関わらず、流言を押さえることの できない自分の、艦隊司令としての能力を問われているのだと感じた。  やはり自分は更迭されるのだ。  誰が考えても、ゴードン・オニール大佐が艦隊司令の席に座るのが自然であり、こ れまでの実績が物語っている。仮に自分が就任することになれば、ウィンディーネ艦 隊の士官達が、こぞって反目するだろうことは目にみえている。  チェスターは覚悟した。  とはいえアレックスの表情は、これから更迭を言い渡そうとするには、笑みを浮か べて無気味に思えた。 「いや、誰が艦隊司令を務めても同じでしょう。ゴードンだったらば、ドリアード艦 隊の士官が不平を並べていたでしょうね」 「そうでしょうが……結局は、納得すると自分は思います」 「まあ、ともかく結論を出しましょう。軍令部の決定を通達します」 「はっ!」  チェスターは姿勢を正した。 「オーギュスト・チェスター大佐。本日付けをもって、貴官を第十七艦隊司令官に任 じます。階級は准将」 「え……!?」
     
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