第二十章 タルシエン要塞へ
[  タルシエン要塞中央制御室。  要塞内に鳴り響く警笛。 「敵艦隊発見!」 「方位二○四、上下角三四。距離十七・八光秒」 「艦数、約七万隻」  次々と報告される戦況。 「どこの艦隊だ」 「第十七艦隊だと思われます」 「そうか、やっと到着というわけか……フレージャー提督を差し向けるか」 「しかし、フレージャー提督はランドールと相性が悪いですからね。毎回撤退の憂き 目に合わされています。今回はどうでしょうか?」 「ううむ……雨男というわけだな。そのとばっちりを受けて、こっちまで雨に降られ るのは御免だが……逆に発想すれば、ランドールの猛攻を交わして生き延びてきた運 の良い提督という言い方もできる。これまでどれだけの提督が全滅や捕虜になったか ……」 「なるほど、そんな考え方もできるんですね」 「よし。フレージャーに迎撃させろ」  共和国同盟軍第十七艦隊への迎撃命令を受けたフレージャー提督。 「なんでこうも、私にばかりお鉢が回ってくるんだ」  頭を掻きながら、指揮官席に腰を降ろす。  これで何度目の対戦だったかなと、指を折って数えている。 「フレージャー提督。今度こそ、これまでの仇を討つチャンスだと思います」 「だと良いんだがな。そもそものけちの付き始めが、あのミッドウェイ宙域会戦。ヤ マモト長官より預かった第一機動空母艦隊の主力旗艦空母を多数撃沈され、提督も四 名戦死し、ナグモ長官も自決した。その責任をとってミニッツ提督は、艦隊司令を降 りられたのだが……」 「アカギ・カガ・ヒリュウ・ソウリュウが撃沈。壊滅的というべき悲惨な状態でした ね。引責退任されたミニッツ提督にはもう少し現役で活躍されることを希望していた のですが。それにしても当時少尉だったランドールも今や准将、一個艦隊を率いるま でに昇進しています。たった二年でここまでくるなんて尋常ではありませんね」 「ミッドウェイ宙域会戦での功績による、前代未聞の三階級特進があるからな。その 後もカラカス基地奪取をはじめとして奇抜な作戦で同盟軍を勝利に導いてきた実績を 持っているからな。クリーグ基地攻略においても、シャイニング基地を放棄して第八 艦隊の援護に駆けつけた奴等に背後を突かれて、撤退を余儀なくされた」 「閣下も重傷を負われたのですよね」 「ああ、運がよかったのだ。ヨークタウンは辛くも撃沈を免れたものの帰還途中に機 関部に誘爆を生じて航行不能に陥った」 「そのヨークタウンも閣下が退艦したあとに、漂流中を敵ミサイル艦に撃沈されまし たね」 「何にしても、これが最後の戦いになるだろう。勝つにしても負けるにしてもだ」 「どういうことですか?」 「ランドール提督が、この要塞に対する攻略戦を仕掛けてくるということは、それ相 応の自信と覚悟を持ってのことだろう。これまでのランドールの攻略戦を分析すれば、 作戦途中での撤退などあり得なかった。カラカス基地攻略戦がその良い例だ。背水の 陣を強いての強行突入による軌道衛星砲の奪取から始まる劇的な幕切れ。今回もおそ らくは……」  と、その作戦を思い浮かべようとするフレージャー提督。 「だめだな。私のちんけな脳細胞では、ランドールの考えることが思い浮かばない」 「この堅固な要塞を落とすには、奇襲を掛けて潜入し内部から破壊するしかないでし ょう。しかし、こうして迎撃艦隊が張り付いている現状では、侵入など絶対不可能で す」 「絶対不可能という言葉を使うものではないさ。所詮人間の作ったものだ。どこかに 落とし穴があるかも知れない。ランドールは必ずそこを突いてくる」 「あるんですかね……落とし穴」 「俺達の貧弱な脳細胞では考えも付かない穴がな」 第二十章 了
     ⇒第二十一章
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