第十章 反乱
Ⅱ  皇太子即位の儀は、アルデラーン宮殿王室礼拝堂大広間で執り行われることとな った。地球史における英国のプリンス・オブ・ウェールズ叙任式にあたる。  豪華絢爛たる装飾品、正面には祭壇と大きなパイプオルガン、天井には美しい装 飾画がある。  吹き抜けとなっている二階部分には、大きな円柱がありその間隙に各放送局のT Vカメラと報道陣がずらりと並んでいる。 「アレクサンダー王子ご入来!」  宮廷衛視が発令すると、騒めいていた礼拝堂内が一斉に静かになった。  パイプオルガンが荘厳な音楽を奏でる中、紫紺の絨毯の敷かれた中央回廊をアレ クサンダー王子が進みゆく。  祭壇には、第一皇女にして摂政を務めるエリザベスが待ち受けている。その脇に は侍従が携える【皇位継承の証】である深緑に輝くエメラルドの首飾り。  一般的な王位(皇位)継承では、王冠を継承者に被せる戴冠式が行われるが、銀 河帝国では【皇位継承の証】を首に掛けることで、皇位を継承したことを知らしめ ることとなっている。  ちなみに地球古代史における日本国の天皇における、立太子の令がこれに相当する。  その頃、共和国同盟の各地域にも、皇位継承の儀式の模様が生中継されていた。  当然、ガデラ・カインズの駐留するタルシエン要塞やゴードン・オニールが守る アルサフリエニ方面の基地でも生中継を視聴していた。 「皇帝の即位式じゃなくて、皇太子なんですね」  参謀のパティー・クレイダー少佐が呟いた。 「そりゃそうさ。死んだと思われていた皇位継承者が突如として現れたのだ。いき なり皇帝というのも、貴族たちが納得しないだろ。まずは皇太子というところから はじめて、少しずつ浸透させてゆくのだろうさ」 「皇太子とは言っても、すでに皇帝が崩御されているから、実質上の皇帝ですよね」 「まあ、そこの所が継承者問題で荒れている証左なんだろうな」  儀式が終わって、記者会見の模様も中継された。  数多くのマイクが立ち並んだ机の前に座り、記者の代表質問に答えるアレクサン ダー王子。 「殿下は、共和国同盟を解放なされましたが、銀河帝国皇太子として、その処遇を いかがなされるおつもりでございましょうか?」  その質問は、ほとんど銀河帝国の政策一丁目一番地とも言うべき質問だろう。  帝国皇太子にして、共和国同盟の最高指導者たる人物なのだ。  タルシエン要塞。  皇太子即位の儀の中継放送が流されていた。 「帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国 に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配 する」  その発言を聞いて驚く、共和国同盟の諸提督達だった。 「なんてことを!?これでは、バーナード星系連邦から銀河帝国に植民政権が移っ ただけじゃないか」  提督の中でも一番憤慨したのは、ゴードン・オニールだった。  アレックスとは、士官学校からの親友だっただけに、その心変わりに信じられな いという表情であった。  しかし、TV中継では、はっきりと明確に帝国領とすると発言しているのである。 疑う余地がなかった。  アルサフリエニ方面軍において、アレックスに対する反感が沸き上がっていた。  それから数日を経て、ゴードン・オニールを首班とするアルサフリエニ共和国の 独立宣言がなされた。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v
小説・詩ランキング 11