第九章 共和国と帝国
V  共和国軍の規定により中将への昇進を果たしたアレックス。  銀河帝国への帰国を前に、共和国同盟軍の組織編制の大枠を発表した。 「それでは、新人事を発表する。名前を呼ばれた者は前に出てきてパトリシアから 任官状を受け取り給え」 「フランク・ガードナー。貴官を共和国同盟暫定政権軍令部総長及び絶対防衛圏守 備艦隊司令官に任じ、残存艦隊を適時再編成して全軍を統制させる。中将に任命する」 「ありがとうございます」  と言ってウインクしてから、パトリシアから任官状を受け取って、元の席に戻る。 「ゴードン・オニール」 「はっ!」  すくっと席を立って、アレックスの前に出る。 「ゴードン。貴官をアル・サフリエニ方面軍最高司令官に任じ、少将の階級を与え る。カラカス基地に第五艦隊、クリーグ基地に第八艦隊、シャイニング基地に第十 一艦隊、以上の三個艦隊を配下に治め、旗艦艦隊として直下の独立艦隊を正式に新 生第二艦隊として発足させる。なお、銀河帝国客員提督として同等の地位と待遇を 与える」 「引き受けました」  銀河帝国客員提督の地位と待遇には、帝国と同盟を行き来できる自由と、帝国艦 隊を動員できる資格を与えられるということである。 「ガデラ・カインズ」 「はっ」 「カインズ。貴官をタルシエン要塞駐留艦隊司令長官に任命し、少将の階級を与え る。直下の独立艦隊を新生第一艦隊として再編成させ配下におく。またゴードンと 同様に、銀河帝国客員提督の地位と待遇も与える」 「ガデラ・カインズ、謹んでお受けいたします」  アレックスの配下となって以来、常にゴードンに先んじられ悔しい思いをしてき たカインズであるが、同時に少将となりほぼ同等の地位を与えられたのである。  それを聞いて参謀のパティー・クレイダー少佐が小躍りして喜んだのは言うまで もない。ゴードンの参謀である同僚のシェリー・バウマン少佐との出世競争がから んでいたからでもある。彼女もまたカインズと同じ思いをしていたのである。  なお、カラカス以下の三基地は、本来カインズの領分だったが、性格的に防御が 主体の要塞司令官に任命して、攻撃主体のゴードンと交代させたのである。 「リデル・マーカー」 「はっ」 「貴官には、絶対防衛圏守備艦隊艦政本部長としてその内の三分の一を統制してい ただきたい。階級は少将です」 「かしこまりました」  フランク・ガードナーの片腕であるリデル・マーカー准将も順当に昇進を果たした。 「最後に、パトリシアには連合軍統合作戦本部長の任についてもらう。准将として 作戦面での活躍を期待したい」 「ほー」  という感嘆の声が一斉に漏れた。  女性将軍がついに誕生したからである。  新生共和国同盟軍として、今度の人事によりアレックスを筆頭にして、中将二 名・少将三名・准将七名の提督が元解放軍から、順当におさまったのである。  しかし提督全員が任意退役してしまった旧総督同盟軍百万隻が再編成を待ってお り、少なくとも少将三名・准将十四名が空位という勘定となっていた。  功績点において、准将への昇進点に達している大佐達は、もちろん自分がいずれ 艦隊司令官に任命されているものと信じているはずだった。  少将昇進点に達しているオーギュスト・チェスター准将だけは、将官で定年まで 五年以内の者は昇進から除外されるという定年期限により現役昇進からはずされて、 退役後に名誉少将を授けられることになった。 「申し訳ありません。出来ればあなたには、もっと働いていただきたかったのです が……規則には従わなければなりません」  アレックスは恐縮して、謝った。 「いえ。私は、提督の下で働けた数年間は、武人として誇りに思います。ありがと うございました」 「といっても定年までまだ三年あります。後進の育成も大切な役目です。残りの時 間を有意義に使ってください」  軍人が出世するには、実力以上に運が伴うことも非常に多い。武勲を独り占めす るような上官や、気に入った部下にだけ重要な職務を与えて、気に入らない部下に は閑職しか与えないといった司令官の下にいては、永遠に出世できないことになる。 オーギュストも悲運な武官といえるであろう。  アレックスが准将となり、トライトンの後を継いで第十七艦隊司令官になった時、 軍人生活の最後の五年間で、アレックスという最上の上官を得て、ついに花開かせ て素晴らしい功績を残し、惜しまれて去っていこうとする。
     
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