第九章 共和国と帝国
V  アレックスは統合艦隊総司令部に全幕僚を招集した。また帝国側から、マーガレット皇 女とジュリエッタ皇女、そしてその配下の提督達を呼び寄せていた。 「ところで座ったらどうだい。マーガレット」  皇太子であるアレックスにたいしては、いかに実の兄妹であろとも最敬礼をつくさねば ならない。同盟の提督達が着席しているのもかかわらず帝国の諸氏は不動の姿勢で立って いたのだ。 「いえ。同盟の方々はともかく、我々は銀河帝国の人間です。皇太子殿下の御前において は着席を許されません。どうぞお気がねなく」 「皇太子といっても、帝国ではまだ正式に承認されていないのではないかな」 「殿下はすでに宇宙艦隊司令長官に任命されております。皇室議会での承認はまだなされ ておりませんが、これは事実上の皇太子として認められているからであります」 「宇宙艦隊司令長官は皇太子の要職だったな」 「さようにございます」 「私の皇太子の地位はともかく、共和国同盟最高指導者としての地位もあるのだ。そして ここは共和国同盟下の首都星トランターだ。帝国の法律やしきたりは無用だ」 「ですが……」 「とにかく座ってくれ。こっちが話しずらいじゃないか。トランターにある時は、トラン ターのしきたりに従ってくれ。最高司令官の依頼と皇太子の命令だ」 「は。ご命令とあらば……」  皇太子の命令には絶対服従である。仕方なしに着席する帝国の諸氏。 「それよりも、殿下。私共をお呼びになられたのは、いかがな理由でございましょうか」  マーガレットが尋ねた。 「先の同盟解放戦線では、解放軍と皇女艦隊が連携してことにあたったのだが、これをさ らに推し進めて、正式に連合艦隊を結成するつもりだ」 「連合艦隊!」  一同が驚きの声をあげた。 「誤解を招かないように先に念を押しておくが、これは連邦にたいして逆侵略をするため に結成するのではないということだ。強大な軍事力を背景にして、連邦に容易には軍事行 動を起こせないようにし、平和外交交渉の席についてもらうためである」 「ミリタリーバランスと呼ばれるやつですな」 「ところでネルソン提督」 「はっ」 「現在の帝国の正確な艦隊数はどれくらいかな」 「帝国直属の艦隊が四百万隻と、国境警備隊及び公国に与えられた守備艦隊としての百万 隻を合わせて、都合五百万隻ほどになります」 「五百万隻か……だが、五百万隻といっても、同盟・連邦が相次ぐ戦闘で次々と新型艦を 投入してきたのに対し、長年平和に甘んじてきた帝国のものは旧態依然の旧式艦がほとん どだということだが」 「さようにございます」 「しかも、乗員も戦闘の経験がほとんどないに等しいと。どんなに艦隊数を集めても、旧 式艦と未熟兵ばかりでは戦争には勝てない」 「確かにその通りですが、既存の艦隊を新型艦に切り替えるにも予算と時間が掛かり過ぎ、 また資源的にも短期間では不可能で問題外でありましょう」 「そうだな、不可能なことを論じてもしかたがないだろうが、将兵を再訓練する必要はあ るだろう。今のままでは帝国軍五百万隻をもってしても、同盟・連邦軍二百万隻にはかな わないだろうな」  アレックスの言葉は、すなわち今帝国が同盟ないし連邦と戦争する事態になれば、かな らず敗れることを断言したことになる。しかしこれまで数倍の敵艦隊にたいして戦いを挑 み勝ち続けてきたアレックスの実績を知るものには、信じて疑いのない重き言葉となって いた。ネルソンにしても、完璧な布陣で艦隊を率いていたにもかかわらず、十分の一にも 満たない艦数でいとも簡単にマーガレット皇女を奪われてしまった、その実力を目の当た りにしていては反論する余地もなかった。
     
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