第八章 トランター解放
X  惑星トカレフの顛末を、アレックスに報告するジュリエッタ。 「以上のごとく、殿下のご意思に反して、混乱に乗じ自身の領地を広げようと策謀した貴 族は自国に帰還させました。引き続き、同様の行為者に対し厳罰に対処します。殿下にお かれましては、心置きなくトランター解放に専念してください」  通信が途切れて、パネルスクリーンの映像が切れた。 「さてと……」  参謀達の方に向き直って、 「そろそろ始めるとするか」  と声を掛けると、 「やりましょう!」 「祖国を取り返しましょう」  参謀達はもちろんのこと、オペレーター達からも声が上がった。 「メビウスのレイチェル・ウィング大佐に繋いでくれ」  電波妨害されていたが、守備艦隊を蹴散らしたうえに、トランター軌道上までくれば、 もはや妨害は不可能だろう。 「ウィング大佐が出ました」  パネルスクリーンにレイチェルが映し出された。 「提督、お久しぶりです」 「そちらも元気なようだな」 「作戦発動ですね」 「その通りだ。準備状況は?」 「万端整っております。号令一過いつでも突撃できます」 「わかった。待機して指令を待て」 「かしこまりました」  通信が終了し、映像は途切れた。  アンディー・レイン少将に向かって、 「作戦通りに降下作戦に入ってください」 「了解しました」  アレックスの指令を受けて、レイン少将の指揮による降下作戦が始まった。  これまでトランターの防衛としての任務に当たっていた艦隊である。  惑星における連邦軍の配備状況など、すべての情報を知り尽くしているのだ。  適材適所に部隊を派遣して、次々と攻略していった。  その頃、地上ではメビウス部隊による反抗作戦が繰り広げられていた。  かつての統合総参謀本部である総督府を取り囲む艦船の群れ。  地上では戦車や装甲車が、敵地上部隊との壮絶な戦いを続けている。  その間を縫うように、モビルスーツが進軍する。  それらの戦いざまを、後方のミネルバ艦橋から指揮統制するフランソワ・クレール大尉 の元には、続々と報告が届いている。 「地上部隊、総統府を取り囲みました」  適時的確に指令を下すフランソワ。 「白兵部隊を突入させて下さい」  ミネルバには強靭な白兵部隊が編制されている。  かつての士官学校模擬戦闘において、ミリオン・アーティス率いるジャストール校が守 る第八番基地を攻略した白兵部隊。その時に従軍した士官たちが、昇進しながらもより強 い部隊へと鍛え上げてきたのである。  *参照/模擬戦闘  戦車の砲撃一発、正面玄関が吹き飛ぶ。  戦車や装甲車の後ろに隠れて進んでいた歩兵が、一斉に総統府へとなだれ込んでゆく。  空中では敵空戦部隊を壊滅して、制空権を確保したミネルバの空挺部隊から、降下兵が 舞い降りてゆく。  その一部は、総統府の屋上へと降下して、階下へと突き進む。  上からと下からと挟撃を受けた総統府は、数時間後には白旗を上げた。  ちなみに、地球日本国で白旗を上げるという正式な降伏(戦時国際法による)が認めら れたのは、江戸末期ペリー艦隊が幕府に、『開国しないなら攻撃するから、降参するなら 掲げよ』と白旗を送り付けたのが最初と言われている。  1899年、第1回万国平和会議で採択されたハーグ陸戦条約第三章第32条には、白旗を掲 げて来た者を軍使とする規定があり、これを攻撃してはならないこととなっている。
     
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