第五章 アル・サフリエニ

 ゴードンの心は荒んでいた。
 その背景には悲しい物語があったのである。

 ゴードンには妹がいた。
 その妹を残して、トリスタニア共和国同盟首都星トランターを旅立って、アル・サフリエニ方面に赴任したゴードン。
 やがてバーナード星系連邦が攻め寄せてきて、トランターは陥落した。
 すぐさまバーナード星系連邦憲章に基づく占領政策が行われた。
 共和国同盟軍は解体されて、新たに共和国総督軍が設立され、徴兵制度によって兵役年齢にある男子はすべて徴兵された。
 各地に授産施設が開設され、妊娠可能年齢にある女性のすべてが強制収容された。
 授産施設。
 それはバーナード星系連邦にあって、人口殖産制度による『産めよ増やせよ』という考えにもとずく政策の一つであった。
 女性は、子供を産んで育てるもの。相応の年齢に達したら、授産施設に入所して妊娠のためのプログラムに参加する。
 スカートは女性のみが着るものだ。
 と、社会通念として教育されれば、誰しもがそう思い、男性はスカートを着てはいけないと判断する。それが自然なのだ。
 連邦に生まれた女性達は、幼少の頃からそう教えられ育てられたために、何の疑惑も持たずに殖産制度に従って、妊娠し子供を産みつづけている。
 もちろん妊娠し母となった女性達には、政府からの手厚い保護が受けられて働く必要もなく、養育に専念できるようになっている。
 占領総督府は、この授産施設による人口殖産制度を、共和国同盟の女性達にも適用したのである。
 そもそも共和国同盟憲章による教育を受けた同盟の女性達には、授産施設の何たるかを知るよしもないし、自分の意志によらない妊娠など問題外であった。
 子供は愛し合った男性と結婚して授かるものであって、授産施設で不特定の男性をあてがって妊娠させようなどとは、絶対に受け入れられない制度であった。
 地球古代史に記録のある、旧帝国日本軍が占領下の女性達に対して行なった強制慰問婦問題と同じではないか。
 しかし自分達の国家の制度は正しいと信伏する総督府によって、人口殖産制度は推し進められたのである。
 女性達は無理やり強制的に授産施設に連れてこられて、言うことを聞かないと逃げ出さないように裸にされて一室に閉じ込められ、毎日のように連邦軍兵士の相手をさせられた。
 抵抗する女性は手足を縛られて無理やりに犯された。かつて同様のことを行ったハンニバル艦隊の将兵達のように。
 当然として女性達は妊娠することになる。
 おなかの中にいるのは、身も知らぬ連邦軍兵士の子供。
 人工中絶は認められておらず出産するしかない。
 ここで女性達は二つの選択肢を与えられることになる。
 妊娠し子供を産み育てることを容認すれば、授産施設から解放されて自由になれる。少なくとも子供が十四歳になるまでは、次の妊娠を強要されることはない。
 もう一つは、密かに避妊ピルを服用しつつも、兵士達の相手をしながら耐え忍ぶことである。連邦軍には避妊ピルを知る者がいなかったからである。差し入れと称して授産施設の女性達に配られていた。
 ゴードンの妹も、そんな女性達の中にあった。
 そして妹は、第三の選択肢を選んだのである。
 妊娠したことを知った妹は、授産施設を抜け出し、自殺の道を選んだ。