第四章 皇位継承の証
XW  その時一人の従者が駆け込んできた。 「大変です。共和国同盟との国境を守るマリアンヌ皇女さまの艦隊が攻撃を受けていま す」 「なんですって!」  共和国同盟との国境にあるエセックス候国の守備艦隊として、ジュリエッタの第三艦隊 と、マリアンヌの第六艦隊が交代で任務に当たっていた。現在はマリアンヌが、その旗艦 マジェスティックにて指揮を執っていたのである。  一同は驚愕し、アレックスを見つめた。 「連邦の先遣隊でしょう。本隊が進軍する前に偵察をかねて先遣隊を出すことはありえま す。それがたまたま皇女艦隊と鉢合わせてして、交戦状態に入ったのでしょう」 「エリザベスさま。早速、救援を向かわせましょう」  しかし、アレックスはそれを制止した。 「言ったはずです。国境を越えられてから行動を起こしても遅いとね。現場まで何時間か かるとお思いですか。救援隊が到着した時には、とっくに全滅しています」 「しかし、マリアンヌ皇女さまが襲われているのを、黙って手をこまねいているわけには いかない」 「敵が攻め寄せて来ているというのに、体裁を気にしてばかりで行動に移さなかったあな た方の責任でしょう。私の忠告を無視せずに、あの時点で艦隊を派遣していれば十分間に 合ったのです」 「そ、それは……」  パトリシアが入室してきた。 「提督……」 「どうだった?」 「はい。マリアンヌ皇女さまは、ご無事です」  おお!  という感嘆の声と、何があったのかという疑問の声が交錯した。 「国境付近に待機させておいた提督の配下の者が救援に間に合ったようです。旗艦マジェ スティックは大破するも、マリアンヌ皇女さまはかすり傷一つなくノームにご移乗なされ てご安泰です」 「皆の者よ。良く聞きなさい」  それまで静かに聞き役にあまんじていたエリザベスが口を開いた。 「摂政の権限としての決定を言い渡します」  と言い出して、皆の様子を伺いながら言葉を続けていく。 「共和国総督軍が、帝国への侵略のために艦隊を差し向けたことは、もはや疑いのない事 実です。不可侵にして絶対的である我等が聖域に、侵略者達に一歩足りとも足を踏み入れ させることなど、断じて許してはなりません。一刻も早く対処せねばなりません。ここに 至っては摂政の権限として、このアレクサンダー皇子を宇宙艦隊司令長官に任じ、銀河帝 国宇宙艦隊全軍の指揮を任せます」  謁見室にいる全員が感嘆の声をあげた。  宇宙艦隊司令長官に任じたことは、アレックスを皇太子として公式的に認めることを意 味するからである。  不可侵にして絶対的なる聖域である帝国領土を、敵の侵略から守るために、共和国同盟 軍の英雄として采配を奮った常勝の将軍を、宇宙艦隊司令長官に任ずるという決定は即座 に全艦隊に伝えられた。  もちろん皇太子であることには一切触れられてはいなかったのであるが、皇太子殿下ご 帰還の報はすでに非公式ながら全国に流されていたので、皇室が皇太子殿下を正式に認知 したものとして、民衆はアレックスの宇宙艦隊司令長官就任の報に大いに歓喜したのであ る。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11