第三章 第三皇女
V  その頃、皇女艦隊旗艦の艦橋では、信号手が事態を説明していた。 「白信号が三つ上がりました。停戦の合図です」 「こちらも戦闘中止を出してください」  無益な戦闘は避けたいジュリエッタ皇女だった。  そして側に控えている将軍に尋ねる。 「ところで、後から来た艦隊の動きを見ましたか?」 「はい。しっかりと目に焼きついています。高速ターンや宙返りなどの曲芸飛行と言え る様な、戦艦がまるで戦闘機のように動き回っていました」  そう答えるのは、皇女艦隊を実際に取り仕切っているホレーショ・ネルソン提督であ る。 「どこの艦隊でしょうか?」 「おそらく共和国同盟の復興を掲げる反攻組織である解放軍ではないでしょうか。連邦 軍があっさりと撤退したことを考えると、噂に聞くランドール艦隊」 「ランドール艦隊ですか……。とにかく指揮官にお会いして、話を伺ってみましょう。 連絡を取ってください」 「わかりました」  ヘルハウンド艦橋。 「連邦艦隊が撤退していきます」 「速やかに被弾した艦への救援体勢を」  オペレーター達は、戦闘放棄して撤退する敵艦を、アレックスが追撃しないこと重々 承知していた。より多くの敵艦を沈めて功績を上げることよりも、一人でも多くの将兵 を救い出すことを心情としているからである。 「帝国艦隊より、ジュリエッタ第三皇女様がお目通りを願いたいとの、通信が入ってお ります」 「皇女様からか……。お会いしようしようじゃないか。艀を用意してくれ」  さっそくアレックス専用のドルフィン号が用意され、舷側に銀河帝国皇家の紋章の施 された旗艦へと乗り出した。  皇女艦の発着口に進入するドルフィン号。  タラップが掛けられてアレックスが姿を現わす。  すでにドルフィン号の回りには、武装した帝国兵士が取り囲んでいた。  ゆっくりとタラップを降りるアレックスの前に、人垣を掻き分けて着飾った皇女が侍 女を従えて出迎えた。 「ようこそ、インヴィンシブルへ! 歓迎いたします」  巡洋戦艦インヴィンシブルは、銀河帝国統合宇宙軍第三艦隊の旗艦であり、ホレーシ ョ・ネルソン提督を司令長官に迎えて、ジュリエッタ皇女が統括指揮する体制をとって いた。ゆえに第三皇女艦隊との別称がつけられ、艦艇数六十万隻を誇る銀河帝国最強の 艦隊である。同様に第二皇女のマーガレット率いる第二皇女艦隊と双璧を成している。 「インヴィンシブルか……」  タラップを降りた時から感じていたことであったが、将兵達の態度や身のこなし方に 指揮統制の行き届いた様子が見受けられた。まさしく第三皇女の品格と、用兵術のなせ る技というところだろう。 「共和国同盟解放戦線最高司令官のアレックス・ランドールです。どうぞよろしく」 「ランドール提督……。共和国同盟の英雄として知られる、あの名将のランドール提督 ですか?」 「そのランドールです」  周りを取り囲む将兵達の間から驚きの声が漏れた。  改めてアレックスの顔を見つめるジュリエッタ皇女だったが、 「あ……」  一瞬息を詰め、凝視したまま動かなくなった。  皇女の視線はアレックスの瞳に注がれていた。、  その深緑の瞳は、銀河帝国皇族男子に継承されてきた誇り高き皇家の血統に繋がるこ とを意味するエメラルドアイであった。 「どうなされましたか?」  側に控えていた侍女が気遣った。 「い、いえ。何でもありません」  気を取り直して、話を続けるジュリエッタ皇女。 「それでは、貴賓室でお話を伺いましょう。どうぞこちらへ」  先に立って、アレックスを案内するジュリエッタ皇女。
     
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