第九章・犯人を探せ
[ 「もう一度現場を一回りしてみるか」  というわけで、アスレチックジムに戻って来た。  死んでいた器械はもとより、周囲をじっくりと調べて回ったが、証拠となるものは 何も出てこない。  殺害現場は、ミシェールのいた宿房である可能性が高い。  そこからここまで、どうやって遺体を運ぶか……。  それが判ればすべてが解決するはずだ。  何か見落としていることはないか?  遺体の移送ルートをじっくりと考えてみる。  まず宿房を出て右へ向かって、ランジェリーショップの前を通ってエレベーターの 前に出る。左へ向かっても、もう一つのエレベーターに出られるが、ジムまでの距離 が遠くなり過ぎてしまう。やはり最短距離で運ぶのが当然だろう。  エレベーターを降りて右へ向かえばアスレチックジムだ。 「丁度、このジムの真上に宿房があるんだよね……」  まてよ! もしかしたら……。  コレットの脳裏に閃いたものがあった。 「考えが正しければ、あるはずだ」  コレットは、壁伝いに歩いて、それを探しはじめた。  それは、器械置き場にあった。 「やっぱり、あったわね」  コレットが探していた物。  それは、ダストシュートだった。  宿房の方にも端末のそばにダストシュートがあった。  エレベーターとの位置関係から、丁度この真上に宿房があるはずだった。 「やはりこれを使ったのね。これなら誰にも気づかれることなく遺体を運べるし、ミ シェールの膝に擦過傷ができた理由もわかるわ」  ダストシュートの蓋を開けて覗きこむコレット。  ミシェールは小柄な身体だ。ダストシュートの間口は、遺体を通せるほどの十分な 広さがある。膝の傷はダストシュートを出し入れする時に負ったものだろう。 「よし、もう一度ミシェールの宿房に行って確認しよう」  コレットが再びミシェールの官房に戻ってきたとき、部屋の扉が何者かによって開 けられた形跡があった。誰にも気付かれないよう封印しておくために張り付けておい た透明シールが取れて落ちていたからである。  コレットは腰からブラスターを引き抜き、セーフティーロックを外した。侵入者が まだ中にいるかもしれない。IDカードを挿入してドアを開け、身構えて部屋の中へ 入っていった。  耳を澄まし気配を探った。  侵入者はすでに退去した後であった。  ブラスターをホルダーにしまい込んで、 「一体、何をしに入ったか……」  コレットは改めて室内の捜査を開始した。以前と違うところはないか、一つ一つし らみつぶしに調べていく。 「これは!」  ミシェール個人の引出を開けた時であった。  大粒のエメラルドを中心に小粒のダイヤモンドを配した首飾りが、上段の引出から 発見されたのである。  情報部で研修した彼女の宝石に対する鑑識眼は、それが本物であるかイミテーショ ンであるかを瞬時に判定していた。  調べればこの首飾りの持ち主が誰であるかは容易に判明するであろうが、これが犯 人に繋がる手掛かりとなるのかどうかは、今の時点では判らない。  少なくとも犯人が捜査の進行を惑わそうとしているのは確かなようであった。  取り敢えずは証拠物件として鑑識に回すことにした。 「犯人の指紋が検出することはないだろうがな……」  侵入者を推測してみる。 「この部屋は閉鎖されていて、先住者達は移動してここにはもう入れない。わたしか 中佐しか入れないはず。中佐は男子禁制のこのブロックには入ってはこれない。とな ると、コンピューターに不正アクセスしてここの扉を解錠したか……いや、そんなこ としなくても簡単に侵入できるじゃないか」  ダストシュートである。  重力の小さな艦内において、アスレチックジムからダストシュートを伝って登って くれば容易い。それが小柄な身体ならなおさらである。  そばの端末を起動して居住区の見取り図を開いてみる。  推測通り、この宿房とアスレチックジムとはダストシュートで繋がっている。 「やっぱりね。あれ?」  意外な事に、さらに上の階にはランドール中佐の居室があったのだ。 「そうか! これだったのね」  すべての謎が氷解した。 第九章 了
     ⇒第十章
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