第六章 カラカス基地攻略戦

                  II  アレックスと女性参謀達との一回目の作戦会議から数日後。  改めてゴードン達を交えての作戦会議が執り行われた。  作戦室のパネルスクリーンに惑星周辺概図が映されている。  副官のパトリシアが議事進行を務めている。 「惑星を占拠するには空母からの艦載機によって制空権を確保したのち、軌道上から 戦艦のビーム砲で惑星地上の軍事施設を破壊します。そして揚陸部隊を地上に降ろし て占拠にいたる。というのが本筋ではありますが、そこで問題になるのが、惑星を守 る守備艦隊約七千隻と軌道上にある十二基の粒子ビーム砲です。粒子ビーム砲は無人 で、地上の管制塔からコントロールされます」 「うーむ。守備艦隊はともかく、粒子ビーム砲がやっかいだな。戦艦に搭載されてい るのとは桁違いの出力があるからな」 「仮に守備艦隊を撃滅しても、あの粒子ビーム砲を叩かない限り、味方の戦艦を接近 させることができない」 「そこで今回の作戦には、あえて守備艦隊を相手にしないで、粒子ビーム砲の制御装 置のある地上基地を直接攻撃します」 「まさか、どうやって!?」 「それには、あれを利用させてもらう」  とアレックスは、パネルスクリーンの一角を指差した。  そこには一条の軌跡を描いて移動するバークレス隕石群が映っていた。 「拡大投影しろ」  スクリーン一面に隕石群が拡大される。 「揚陸戦闘機による攻略部隊を組織して、この隕石群に隠れて惑星に近づいて潜入、 敵基地に接近攻撃を加える。どうだ、いい作戦だろ」 「戦艦の援護なしに揚陸戦闘機だけで地上攻撃を敢行するなど自殺行為です」 「まあ、くわしい説明をするから聞き給え。ウィンザー少尉、よろしくたのむ」 「はい」  パトリシアが進み出る。 「丁度、バークレス隕石群の軌道上をこの惑星が最接近する時間が、宇宙時間033 1から0346時にかけてです。  まず艦隊から、空母を主体とする遊撃部隊を組織し隕石群の到来する方向のX地点 に展開させます。そこで揚陸戦闘機を全機発進させたのち、母艦はY地点へ移動して 待機します。揚陸戦闘機は隕石群に隠れるようにしながら、目標に接近を試みます。 作戦の当日はバークレス隕石群を母体とするナビア流星群の極大日にあたり、夜側か ら流星群にまぎれて大気圏に突入すれば惑星の対空レーダーに探知されることなく、 無事に地上に降下できることと思います。一方本隊は、遊撃部隊の行動を悟られない ため、この方面よりわざと敵レーダーに捕捉されるような相対位置を取りながら接近 します。  揚陸戦闘機は、大気圏内に突入後、軌道粒子ビーム砲の制御装置のある中央コント ロール塔を制圧します。続いて軌道粒子ビーム砲を使って守備艦隊を叩きます」  アレックスが発案した作戦案に一同は驚くばかりで、ため息を付くしかなかった。  初めて聞かされたパトリアとレイチェル、そしてジェシカとて作戦が成功するかど うか疑問だった。  しかし、それを納得させるだけの信頼がアレックスにはあった。そうでなければ、 今ここにこうして独立遊撃艦隊の一員として作戦遂行に参加しているはずもなかった のである。 「成功すれば、奴等驚くだろうな。いきなり背後から襲われることになるのだから」 「私の希望としては、敵艦隊を撃滅させるよりは、降参させたいものだ。こっちの損 害も少なくて済むし」 「まあ、挟み撃ちになれば敵も動揺してあっさり降伏するのではないでしょうか」 「そうあってほしいね」 「私としては、机上の空論でないことに賭けるしかありませんね」 「空論? これは作戦だよ。情報参謀のレイチェルが集めたカラカス基地詳細図面を 元に、航空参謀のジェシカが原案を出してパトリシアがまとめたものだ」 「はん。どうして艦載機だけで行動するのかと思ったら、やはりジェシカの作戦立案 か。参謀が優秀だと司令官は楽でいいですねえ」 「まあね。俺は実行するかしないかを決断するだけだからな」 「ですが、作戦の骨子を考えられたのは司令自身ですよ。私達三人を呼び寄せるなり、 『あのバークレス隕石群を利用した、揚陸戦闘機による惑星攻略を考えてくれ』です もの。しかも揚陸戦闘機の手配まで完了してあったんですよ」
     
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