第五章 独立遊撃艦隊
V 「司令。全艦、戦闘準備が整いました」  パトリシアが復唱してアレックスに伝える。 「よし、全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ。艦載機は母艦に追従」  ついに戦闘訓練が開始された。  艦橋オペレーターが復唱しながら指令を全艦に伝達する。 「了解。全艦、最大戦闘速度で、戦闘想定宙域に突入せよ」 「艦載機、母艦に追従せよ」 「全艦、粒子ビーム砲準備」  次々と矢継ぎ早に指令を出し続けるアレックス。 「これより原子レーザー砲の試射を行う。準旗艦の各艦は発射体制に入れ!」  旗艦サラマンダー以下の準旗艦、ウィンディーネ、ドリアード、シルフィー、ノー ムのハイドライド型高速戦艦改造U式の五隻のみ、原子レーザー砲が装備されている。  その火力性能は未知数であり、後々の実戦のために把握しておく必要がある。  現在、原子レーザー砲の調整担当として、フリード・ケースンが科学技術部主任と して乗艦している。  天才科学者であるフリードにとって、設計図を見ただけでおおよその性能を見極め てしまう。が、製作者が設計者の意図通りに工作するとは限らない。  例えば、砲の材質を粗末なものに落として、浮いた材料費を自分の懐にしまい込み、 挙句に砲を撃った途端に自壊してしまった、ということもよくある話だ。  軍部の腐敗体質というものは、どこの国・時代問わずに発生する。  現場においては常に、自分に与えられた武器の最大性能を引き出すための努力を惜 しんではいけない。  原子レーザー砲の全責任者であるフリードがてきぱきと、機関部員に指令を出して いる。 「原子レーザー砲への回路接続。レーザー発振制御超電導コイルに電力供給開始」 「BEC回路に燃料ペレット注入開始します」  着々と発射準備が進んでいく。  艦隊の目前に、戦闘想定宙域が現れた。  パラキニア星系の最外郭軌道上を浮遊するゲーリンガム小惑星群であった。それら の小惑星を敵艦隊に見立てて、戦闘訓練を実施する予定であった。  アレックスの元へ、 「原子レーザー砲、発射準備完了」  というフリードからの報告が入る。  すかさず砲撃開始の指令を出すアレックス。 「全艦、宙域に突入と同時に想定目標に対し粒子ビーム砲を百二十秒間一斉掃射。艦 載機は直後に突撃開始せよ」 「全艦、粒子ビーム砲、発射!」  全艦が一斉に粒子ビーム砲を発射する。  続いて原子レーザー砲の番である。 「サラマンダー及び準旗艦。原子レーザー砲発射!」  小惑星がレーザービームを受けて粉々に砕け散って宇宙空間にその残骸が漂う。 「ほうっ」  という驚きの声が漏れる。  通常の光子ビームではありえないような破壊力をまざまざと見せつけていた。 「各艦の粒子ビーム砲、残存エネルギー有効率以下に降下。再充填開始します。次の 発射まで三分ないし七分を要します」 「艦載機、突撃開始!」  小惑星群に突入、飛散した残骸に対して攻撃体制に入ったジミー・カーグ率いる艦 載機の編隊。 「全機へ、これより攻撃を開始する。アタックフォーメーション・TZに展開せよ」 「了解。TZに展開」  艦載機が突撃を開始する。艦載機は小惑星から飛び散った残骸を、敵戦闘機と見立 てて片っ端から攻撃撃破しつつ、小惑星に接近してミサイルを打ち込んでいく。 「ようし、全艦、想定目標にたいして突撃開始。往来撃戦用意。高射砲は射程に入り しだい攻撃開始」  およそ十分が経過した。 「よし、そろそろいいだろう。艦載機を収容しろ。五分後に戦線離脱する」 「了解」 「全機撤収準備。母艦に戻れ」  艦載機発進デッキに一機また一機と艦載機が着艦してくる。  最後にジミー・カーグの隊長機が着艦した。 「艦載機、全機帰還しました」 「よし。艦尾発射管より光子魚雷を連続発射、弾幕を張りつつ戦闘宙域を離脱する。 全艦全速前進!」 「全艦、戦闘宙域より離脱しました」 「戦闘体勢解除だ。巡航速度に戻してパラキニアに向かえ」 「はっ。戦闘体勢解除します」 「巡航速度でパラキニアに向かいます」 「パトリシア。一時間後に各編隊長を作戦分析室に集合させてくれ。今回の作戦報告 と今後の検討をする」 「了解しました」 「それまで、自室にいる。スザンナ、後をたのむ」 「はい」  アレックスは自室に引きこもり、スザンナが代わって指揮官席に座った。艦長は通 常自艦の運営しか任されていないが、旗艦の艦長に限っては戦闘以外の巡航時のみ艦 隊を動かすことができるのだ。その間の旗艦の操艦は副長に替わっている。 「旗艦艦長スザンナ・ベンソン中尉だ。司令官の指令により、これより私が運航の指 揮をとる」  スザンナは指揮官席から伝達した。 「巡航速度を維持。進路そのまま」
     
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