銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅰ
2021.02.13

第十一章 帝国反乱




 ウェセックス公国のロベスピエール公爵率いる摂政派の貴族たちが反乱の狼煙を上げた!

 衝撃的なニュースが飛び込んできた。
 顔を見合わせるマーガレット皇女とジュリエッタ皇女だった。
 以前からきな臭い情勢だったのだが、共和国同盟内の反乱鎮圧に、アレクサンダー皇太子と両皇女が留守にしている間に、これを機会にと決起したのであろう。
「ハロルド侯爵は?」
「無事です」
 マーガレットが答える。
 ハロルド侯爵はアルビエール侯国領主であり、アレックスとマーガレットの叔父にあたる人物である。
「自治領艦隊百万隻と第二・第三の駐留艦隊総勢百五十万隻が守っています」
「うむ。摂政派も連邦もすぐには仕掛けてこれないな」
「しかし帝国本星は摂政派が押さえてしまいました」
「サセックス侯国のエルバート侯爵は、従来通り中立を保っているようです」
「国境を接するバーナード星系連邦に対する守りの方が重要だからな。内戦には参加しないのも当然だろう」
 連邦に対する守りであることを、摂政派も皇太子派も十分承知しているので、自派に取り込もうとはしない。
「帝国へ戻るぞ」
「御意にございます」

『内憂外患状態なのに、皇太子は何しているのだ?』
 と、思われないためにも、一刻も早い帰国が必要だった。

 アレックスは、ウィンディーネ艦隊をディープス・ロイド准将に預けて、急遽帝国へと向かった。

 押っ取り刀で、アルビエール侯国に戻ると、ハロルド侯爵が笑顔で出迎えた。
「おお、無事でしたか。心配していましたぞ」
「ご心配おかけしました」

 アレクサンダー皇太子を迎えての晩餐会が始まった。
 交わされる会話はもちろん摂政派の動向である。

 ロベスピエール公爵は、ジョージ親王の皇太子擁立が皇室議会で決定されていたことを根拠に、息子を帝位に就けると同時に皇太子派の貴族たちを次々と拘禁しはじめた。
 配偶者であるエリザベス第一皇女が摂政を務めていただけに、内政については正常に回っているように見えた。
 改めてジョージ新皇帝の戴冠式を執り行い、神聖銀河帝国の樹立を宣言したのだった。

「神聖銀河帝国ねえ……分裂も止むなしと考えたのだろうな」
「認めれば、バーナード星系連邦との分裂以来三度目となります」
 かつてのソートガイヤー大公が専制君主国家アルデラーン公国を起こし、孫のソートガイヤー四世によって全銀河を統一して以来、最初の分裂がトリスタニア共和国同盟の独立だった。そして二度目、軍事国家バーナード星系連邦が分離独立を果たした。
 神聖銀河帝国は防衛面から考えれば、侵略国家である連邦に対して、エセックス侯国及びアルビエール侯国が防壁となる位置にある。
 摂政派は、連邦のことは考慮に入れなくてもよいと考えているようだ。
 連邦の侵略を防ぐためにも、エセックス侯国自治領艦隊は動かせない。
 よって、摂政派と対峙できるのは、アルビエール侯国自治領艦隊だけとなる。

 摂政派の軍勢は、第二・三・六皇女艦隊を除く全軍三百万隻ほど。
 皇太子派の軍勢は、皇女艦隊百四十万隻とアルビエール侯国艦隊百万隻、合わせて二百四十万隻ほどである。
「数は多くても戦闘の経験のない艦隊では、正直相手にならないかと」
「そうやって油断していると痛い目を見るぞ。一頭の羊に率いられた百頭の狼の群は、一頭の狼に率いられた百頭の羊の群に敗れる、という諺がある」
「ナポレオンですね。でも、摂政派軍に狼に匹敵するような指導者がいるかが疑問ですが……」
「隠れた逸材はどこにでもいるよ。ただ、それを見出し活用できるかが問題なのだ」
「ニールセン中将のように、たとえ有能でも自分の意にならない士官を最前線送りするようでは駄目ということですね」
 チャールズ・ニールセン中将は、共和国同盟軍統合参謀本部議長であって、上位の大将が空席だったために軍最高司令官となっていた。
 赤色超巨星べラケルス宙域決戦において、三百万隻の艦隊とともに消え去った。

「殿下、お見せ致したいものがあります」
 ジュリエッタ皇女が話しかけてきた。
「見せたい? 何かね?」
「艦隊駐留基地格納庫にお越し願えませんか? ご覧になって頂きたいものがあります」
「分かった」
 ジュリエッタに案内されて、格納庫へと訪れたアレックス。
 そこで目に飛び込んできたのは、
「ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式六番艦です」
 見慣れた艦の雄姿だった。
「六番艦? 六番艦があったのか?」
「はい。廃艦が決まった折に、建造途中のこの艦を譲り受けたのです」
「五隻の他に、建造中か……」
「技術者にも来ていただいて、この艦を完成させました。この艦を、殿下に献上したくご案内した次第であります」
「この艦を私に?」
「ウィンディーネを失われた今、艦隊運用にも支障が出ておられましょう。その補充に最適かと」
「本当に良いのか?」
「もちろんでございます。この艦は相当なじゃじゃ馬だとお聞きします。殿下か配下の提督しか乗りこなせないでしょう」
「そうか……ありがたく頂戴しておくよ」

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2021.02.13 12:26 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅺ
2021.02.12

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 それから数日後。
 アレックスの前にレイチェルが意見具申に訪れていた。
「ところで司令」
「なんだ」
「部隊の女性士官の制服なのですが、やぼったいという意見が非常に多く、デザイン変更の要望書が数多く提出されております」
「ま、またかよ……ここの部隊は女性上位もいいところだな。それで……今度は何だよ」
「はい。独立遊撃部隊を名乗っている以上、それにふさわしい制服が欲しいという声が上がっています」
「早い話しが新しい制服をくれということだな」
「はい。軍規などをつぶさに調べてみましたが、士官の制服のデザインについて、明確に規定された銘文はございません。現在着用されております制服においては、国防省内務通達規定によって約五十年前に採用されたものです」
「ま、指揮統制をはたし、機能性のあるものなら、何だっていいわけだよな」
「その通りです」
「ま、いいか。どうせ、我が部隊は同盟軍のはぐれ者だ。自由の証である五色の旗印の下、好き勝手やらせてもらっても構わんだろう。軍規に抵触しない限りね」
「その通りです。司令」
「で、手回しの良い君のことだ。制服のデザインとかは、すでにいくつか候補を持っているのだろう」
「はい。先程、司令もおっしゃられておりましたが、『自由の証である五色の旗印』であります旗艦・準旗艦のシンボル、火・水・木・風・土の各精霊達。赤・青・緑・白・茶などの彩色を取り入れる意見が候補にあがっております」
「とにかく、そういうことは。当事者である女性士官達の選択に任せよう。君が責任を持って対処したまえ」
「はい。では、そのように致します」
「一言いわせて頂けるならば……」
「何でしょうか」
「司令官としてではなく、一人の男性の希望として……できれば、ミニのタイトスカートにして欲しいな」
「考慮しましょう」
「うむ。よろしく頼む」

 それから程なくして、制服制定委員会が発足した。
 レイチェルが委員長となり、パトリシアとジェシカが副委員長として補佐する。
 他のメンバーには、ウィンディーネからシェリー・バウマン少尉、ドリアードからパティー・クレイダー少尉、シルフィーネからバネッサ・コールドマン少尉、ノームからサラ・ジオベッティ少尉。そして衣糧課の人々。
 もちろんデザイナーであるアイシャ・ウィットマン少尉も参加している。
「というわけで、司令の希望であるミニのタイトスカートという案は、第一優先です」
「本当に司令がおっしゃられたのですか?」
 パトリシアが怪訝そうな表情でたずねた。
「そうですよ」
「ううん……」
「まあ、そう怪訝な顔はよしなさいな。我が艦隊にあって、自由な風潮が守られているのも、司令の意向によるところがあるのだから。少しは希望を適えてあげないとね」
「そうは言っても……」

 サラマンダー  赤
 ウィンディーネ 青
 ドリアード   緑
 シルフィーネ  白
 ノーム     茶

「……と以上のごとく旗艦の旗印を象徴する五色を基調としたデザインにすることに、皆の意見が一致しました」
「色を区別して制服を制定するのはいいですが、その着用区分をどうなされるのでしょう。階級別ですか?」
「部隊の所属別はどうかしら。旗艦部隊は赤で、第一分艦隊は青という具合に」
「いいえ。制服は全員を統一したほうがいいわ。階級別とか部隊別に色を分けるのは賛成できない。赤が嫌いな人、茶色が嫌いな人、それぞれいますし、服が違えば対抗意識が芽生える素地となってしまいます。全員が納得できるように、一つの制服としてこの五色をバランス良く配置させるようにするのよ」
「五色も使うとなると、ちょっとカラフル過ぎるのではないでしょうか?」
「それを上手にデザインするのがあたし達の役目よ」
「わかりました。大尉のおっしゃるとおりにします」
「そうですね」

 第十一章 了

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2021.02.12 06:40 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅹ
2021.02.11

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 その頃、アレックスはオフィスでゴードンと対面していた。ドアの所にはゴードンの副官のシェリー・バウマン少尉が控えている。
「どういうことだ、ゴードン。君の配下の者が命令違反を犯すとは」
「申し訳ありません」
 スハルト星重力ターンでの帰投命令を無視し、追い掛けてきて戦列に復帰してきた艦艇と艦長のリスト。その十二隻すべてが第一分艦隊所属、ゴードンの配下であった。ゴードンの分艦隊は高速性が優先されているために、防御壁が脆弱で耐熱性に弱い艦艇が多かった。ゆえに脱落艦も多数出てしまったのである。それを突きつけられて恐縮しているゴードン。
「スザンナは帰投命令を出していたはずだ。そうだな」
「はい。間違いありません」
「今回の奇襲作戦の主旨からいっても、一部の者の身勝手によって部隊全滅の危機にさらすことになったことは、君にも理解できるだろう。作戦コースを外れた場所でコース変更を行えば、敵の重力加速度計に探知されるのは周知の上だったはずだ。その上敵の哨戒機に発見されなかったのはたまたま運が良かっただけだ。違うか?」
「その通りです」
「敵艦隊には特殊任務を帯びていたらしく、索敵とかには無頓着だったみたいだから、幸いにも作戦自体には影響はなかったが……。その上、彼らのおかげで退却し逃げ出す寸前の敵将を捕虜にできたことは幸運だが。結果は問題じゃない。行為そのものが問題にされていることは理解できるだろう」
「はい」
「それらの艦長全員に対して、二ヶ月間の限定階級剥奪と謹慎処分を命ずる」
 厳かに処分を言い渡すアレックス。
 女性士官専用居住区の設定や、ランジェリーショップの許可など、色々と乗員の為に福利厚生などには、十分すぎるくらい配慮しているものの、艦隊の危機を招くことになる命令違反は重大であり、厳罰をもって処分しなければいけない。
「監督不行き届きとして、君にも厳罰を与えねばならないが」
「覚悟しております」
「うん……。給与の二割減棒及び二週間の謹慎処分だ。いいな」
「わかりました」
 今回の命令違反は、指揮官としてゴードンも重々承知しており、一言の弁明も反論もしなかった。ただ粛々として処分を受け入れるしかなかった。
「話しは以上だ。下がって良し」
「はっ」
 敬礼し、表情を強ばらせたまま退室するゴードン。

 通路に出たところでシェリー・バウマン少尉が話し掛けてきた。
「少佐殿に対する処分は、ちょっとひどすぎると思いませんか」
 自分の信奉する上官に下された処分に、憤懣やるかたなしといった様子だ。
「彼らのおかげで、逃げ出す寸前の敵将捕獲に成功したのですよ。いわば功労者ではありませんか」
「確かに結果的にはそうかもしれない。がしかし、いかな戦果をあげたかではなく、いかに行動したかが問われているのだ。司令代行のベンソン艦長は、帰還命令を出した。司令から全権を委ねられた以上、彼女の判断と命令は、司令自らが下したものと同じなのだ。それを無視したことは、軍法会議にかけられても致し方ないものだ。司令訓告だけですませてくれただけも有り難いと思わなくては」
「しかし……長年の友人なのに……」
「いいんだ、シェリー。中佐の取られた判断には間違いはない。戦いに友人も何もないさ。あるのは上官と部下であり、命令と服従なんだよ。私情は禁物さ。ここで彼らを許しては、今後も同様の命令違反を犯す者が出てくる。そうではないかな?」
「は、はい……」
「逃げ出す寸前の敵将を捉えたのだ。本当は勲章を与えてもいいくらいなのだが……結果を誉めるよりも、行動を懲罰する方を選んだのだよ。心を鬼にしてね」
「はあ……そうですね」
「とにかく、彼らに会うとしよう。ウィンディーネに戻るぞ」
「はい」

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2021.02.11 13:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅸ
2021.02.10

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 およそ三時間後。
 戦闘は圧倒的勝利で終わった。
「長い道のりだった割には簡単に終わってしまいましたね」
「敵の背後から急襲できたし、相手はまったく油断していたみたいだからな」
「搾取した艦艇ですが、いかがなされますか?」
「そうだな……」
 と考え込んでいるアレックス。
 今回の戦闘でも五百隻ほどの艦艇が白旗降参し、これを拿捕することができたのだった。これまでは拿捕した艦艇は、そのまますべて部隊に編入し、艦隊を増強してきた。
「いや、今回は止めておこう。捕虜を収容したら全艦撃沈処理する」
「え? いいのですか?」
「戦闘の前にも言っただろう。罠かも知れないと」
「え、ええ。確かにおっしゃいましたが」
「あまりにも事が簡単に運び過ぎた。これがブービートラップではないという保証はないじゃないか」
「でもシステムの総入れ替えをすれば」
「システムだけじゃない。艦内のどこかに探査できないように施された爆薬などが仕掛けられていたらどうする? あるいは艦隊の位置を逐一知らせる発信器でもいい」
「まさか……」
「考えてもみろ。我々の帰還コース、同盟軍の勢力圏内で行動しているにも関わらずろくな索敵もせず、まったくの無防備状態でいる艦隊がいると思うか? まるで襲ってください、拿捕してくださいとばかりに、目の前に置いてあった感じだ。おそらく拿捕した艦艇を編入してきた私のこれまでを考えて、罠を仕掛けてきたと考えても道理だと思うが、どうだ?」
「そう言われればおかしな点が多いですね」


 その頃、バーナード星系連邦タルシエン要塞基地。
 司令官室を行ったりきたりしながら、いらいらしているスピルランス少将。
「信号が跡絶えました。全艦撃沈されたもようです」
 静かに報告をするのは、深緑の瞳を持ったスティール・メイスン大佐だ。
「降伏し拿捕された艦もか?」
「はい。すべての艦艇です」
「そんな馬鹿な……。そんなことはあるはずがない……」
「どうやら閣下の思惑が外れたようですね。二千隻の艦艇が宇宙の藻屑と消え去り、六万余人の将兵が無駄死にし捕虜になったわけです」
「言うな!」
「ランドールという男、なかなかしたたかな相手です。これまでの経緯なら拿捕した艦艇を自らの艦隊に加えて、兵力を増強してきましたのに、今回に限っては閣下が仕掛けた罠に気づいて艦を残らず撃沈させるとは」
「ええい。言うなというに。出ていけ!」
「はっ!」
 うやうやしく頭を下げて退出するスティール、そして扉を閉めると同時にため息をついて嘆くのだった。
「自軍の艦艇や将兵達をただの駒のように扱ったあげく、ただ作戦が失敗したことを悔やんでいるだけとは……。無駄に死んでいった将兵のことなんか少しも気にもとめていない。あれじゃあ、死んだものが浮かばれない」

 サラマンダー兵員食堂。
 アレックスとパトリシアが仲良く食事を取っている。
「まあ、何にしても今回のスザンナの働きは賞賛に値するな。それだけははっきりとしている」
「そうですね……」
「どうした浮かない顔だな」
 せっかく忘れようとしていたのに思い起こされてしまったという表情のパトリシア。
「いいえ。何でもありません」
「そうか……。ところでパトリシア」
「何でしょう?」
「今、どんな下着を着ている?」
 周囲を気にしながら、パトリシアの耳元でひそひそ声で尋ねるアレックス。
「はあ……?」
 突拍子もない質問をされて唖然としている。
 いくら夫婦生活にある間柄とはいえ突然のこととて、さすがに答えに窮してしまう。
 その戸惑っている様子をみて、
「い、いや。いいんだ。忘れてくれ」
 と前言撤回した。
 丁度、その時だった。
「中佐殿。探しましたわ」
「レ、レイチェル!」
「巡回査察がまだ途中です。続きを致しましょう。おいで下さいませ」
「なあ、巡回はもう済んだということにしないか?」
「だめです。前例を作ることを許したら、今後も逃げ口上に使われるのでしょう」
「レイチェルには、かなわないな……」
 この時ほど、レイチェルが鬼のように感じたことはなかった。
 渋々と立ち上がるアレックス。
 そんな二人の会話を聞きながら、怪訝そうなパトリシア。優柔不断な態度のアレックスと毅然としたレイチェル。いつもの二人とまるで様子が違っていたからだ。
「ああ、そうだ。パトリシア」
「何でしょう?」
「スザンナに、スハルト重力ターンで脱落した艦艇とその艦長のリストを作成してもらって、オフィスに届けておいてくれ」
「スザンナ艦長の帰投命令を無視して戦列に復帰した艦艇ですね」
「そうだ。それとゴードンも呼んでおいてくれないか。1700時がいいな」
「かしこまりました」
「じゃあ、頼むね」
 巡回査察再開のために、レイチェルと共に食堂を立ち去って行くアレックス。
「アレックスらしくないわねえ。たかが巡回査察に、レイチェルさんと、一体何があるのかしら……」
 女性居住区という女性達の憩いの場に、踏み込まなければならないアレックスの心境を、女性であるパトリシアが理解するにはまだ経験が浅かった。

 それから数時間後、巡回査察を終えたレイチェルとパトリシアが並んで歩いている。
「なんだ。そういうことだったのね」
「アレックスとしては女の城に入り込んで行くにはやはり相当な勇気が必要だったみたいね」
「アレックスらしいわね」
「で、悩殺下着なんかプレゼントされたらどうする? 彼のために着てあげる?」
「その時になってみなければ判りませんよ。アレックスのその時の態度次第じゃないですか。やだあ……。こんなこと言わせないでくださいよ」
 と真っ赤に頬を染めてしまうパトリシア。
 二人の会話が示すように、レイチェルが二人が夫婦である事を知っている数少ない理解者であると、パトリシアは知っている。だから親しみを込めてすべてを話し合っている。
「で、今日はどんな下着を着ているの?」
「もう……秘密ですよお」
「にしても今回はスザンナに先を越されちゃったわね」
「参謀の面目丸潰れというところかしら」
「あの作戦プランは、わたしも考え付いてはいたのだけど、あのまま脱出した方が理にかなっていたから言わなかったの」
「まあ、考え方の違いってことね」

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2021.02.10 07:36 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十一章・スハルト星系遭遇会戦 Ⅷ
2021.02.09

第十一章・スハルト星系遭遇会戦




 六時間後、第一艦橋に全員の姿が揃っていた。
「さてと……、敵艦隊との接触推定時刻は?」
 アレックスが尋ねるとオペレーターから答えが返ってくる。
「およそ三十分後です」
「敵艦隊の動静は? こちらには気づいていないか?」
「あれから変わった動きは見せていません。こちらには気づいていない模様です」
「これだけ近づいても気づかないなんて、敵は何を考えているのでしょうか?」
 パトリシアが首を傾げている。
「完全に油断しているか、それとも罠か……のどちらかだな」
「罠……ですか?」
「しかし今更後には引けないな。ここまで来たらたとえ罠でも戦うしかない」
「そうですね。通常航路上で大幅な進路変更すれば重力探知機に反応しますから、さすがに敵も気づくでしょう。転進して来る敵に背後を取られることにもなります」
「その通りだ。ジェシカに連絡、艦載機全機発進準備だ」
「はい」
 艦載機などの航空兵力はすべてジェシカの配下にあった。
 その航空兵力の正式な名称は、第百七航空兵団という共和国宇宙空軍の組織の中にある一部隊だった。宇宙空軍から宇宙艦隊への派遣という形で配備されている。ゆえに空軍と艦隊の階級も呼び慣わし方が違う。よく知られているのが「キャプテン」という呼称である。空軍では大尉であるが、艦隊では大佐の階級として呼称されている。

 空母セイレーン、艦載機発進デッキ。
 艦載機に駆け寄り搭乗するパイロット達。
 一人ゆっくり歩きながら愛機ファルコン号に向かっているジミー・カーグ大尉がいる。先のカラカス基地攻略で一階級昇進していた。
「頼むぜ、相棒よ」
 隼のイラストが描かれているその機体を平手で軽くぽんと叩く。
「キャプテン、今度の会戦で勝てばついに少佐も夢じゃないですね」
 ファルコン専属の整備士が話し掛けてきた。
 もちろん整備員がジミーを「キャプテン」と呼んだのは、空軍での大尉の呼称であるのは周知の通りだ。
「バーカ。一般士官の俺らが佐官になれるわきゃないだろ。名誉勲章ばりの戦績をあげなきゃ無理だよ」
「名誉勲章ですか? 例えばランドール司令のように?」
「そうだよ。そもそも俺達は上からの指令に従って戦う駒にしか過ぎないから、よほどの事でもない限り名誉勲章はないさ。例えばカラカス基地攻略のように、戦闘機だけで敵要塞を攻略するような作戦で勝利した場合のようにな。つまり少佐にはなかなかなれないようになっているってことさ」
「でも宇宙艦隊と違って、宇宙空軍には少佐になるのに、佐官昇進査問委員会や試験がないだけ楽なんでしょう?」
「まあな、俺達はどんなに階級が上がっても、動かせるのはこの戦闘機一機だけだが、宇宙艦隊で少佐になるということは、部隊司令官になって、数百隻の艦艇と数万人の乗員の生命を預かるということだからな。それだけ少佐への昇進は難しい……。のだが、この艦隊はどうも特別らしいな。中佐は無論、オニール少佐もカインズ少佐も簡単に昇進しているよ」
「劇的な功績を上げていますからね。それに何せ、特別遊撃部隊というくらいですから」
「ジミー、いつまで話し込んでいるつもりなの。他の乗員は全員搭乗しているわよ」
 艦内放送が名指しで注意勧告していた。ジェシカの声だった。
「おやおや、やかましの航空参謀殿がお叱りだ」
「キャプテン、いいんですか?」
「なにがだ?」
「だって、相手は中尉です。階級が下の参謀にあんなに言われて」
「知らないのかい? 我が部隊は階級じゃなく能力主義なんだよ。能力のある者が、階級を越えて指揮を執ることが可能なんだ。スザンナ艦長だって、多くの参謀達を差しのけて今回の作戦を立案し、ついさっきまで指揮を執っていたじゃないか。それにキャブリック星雲会戦での作戦失態による功績点の返上がなければ昇進していたはずだし。何にしても航空戦力の用兵の妙は、ランドール司令をも上回るとさえ言われている航空参謀殿だからな。俺達が戦功を挙げられるのも彼女次第という場合もあるしな」
「そりゃそうですが……いつも不思議に思ってたんですが、司令が任命した者なら皆素直に従っている。何故なんでしょうねえ」
「ああ、ただの二等兵にだって能力さえあれば指揮官になれるし、従わない者はいないさ。それが司令の信頼されている由縁だな」
「そんなもんでしょうか……」
「まあな。さて、再度のお叱りがこないうちに搭乗するか」
 と梯子を昇りはじめる。
「ご武運を」
 それに答えるように親指を立てるジミー。
 シートに着席すると同時に、通信が入った。
「遅かったじゃないか。何話し込んでいたんだよ」
 ハリソン・クライスラー大尉だった。
「ちょっとな……」
「まあ、いいさ。まもなく発進だぞ。エンジン始動して待機だ」
「判った」

 サラマンダー艦橋。
 警報が鳴り、メインスクリーンパネルの映像が切り替わった。
「前方に敵艦隊! 索敵レーダーに捉えました」
 次々と敵艦隊を示す光点が増えていく。
「敵艦隊の後ろにつきました」
「敵艦数およそ二千!」
「いよいよですね」
「そうだな……。
 呟いてから、
「全艦、戦闘準備! 粒子ビーム発射準備! 艦首魚雷装填! 艦載機は全機発進!」
 と矢継ぎ早に指令を発した。
 その指令をオペレーター達が全艦に伝達指示する。
 次々と発艦をはじめる戦闘機群。
「艦載機、全機発進完了しました」
「ようし! 全艦魚雷一斉発射!」
「魚雷発射します」
 一斉に発射される魚雷。
「突撃開始、艦載機は母艦に追従せよ」
 遠回りしてきた道のりの末に、ついに戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。
 やがて前方に魚雷による無数の爆発の光が輝いた。
「粒子ビーム砲、三十秒間一斉掃射の後、艦載機は全機突入せよ」

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2021.02.09 08:11 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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