銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 Ⅵ
2021.07.09

第七章 反抗作戦始動




 第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブル。
 正面スクリーンでは、総督軍に対して攻撃を開始した第四艦隊と第五艦隊が映し出されていた。
 戦闘の経験のない艦隊であるが、逃げ腰の総督軍に対しては十分なくらいの戦力と言えた。
 それを眺めていたホレーショ・ネルソン提督が意見していた。
「皇太子殿下が後退を続けていた意味が、今になって判りましたよ」
「申してみよ」
「はい」
 ネルソン提督は一息ついてから自分の考えを述べ始めた。
「殿下は、後退することによって時間を稼いで援軍の到着を待つと共に、戦闘域を後方へと移動させたのです。そして本来後方支援だった艦隊を戦場へと引きずり込んだのです。戦場となれば本国の指令より、戦場の最高司令官に指揮権が委ねられます」
「その通りです」
 嬉しそうに頷くジュリエッタ皇女。
 信奉する兄の功績を、配下の武将に認められることが一番の喜びだったのである。

 第二皇女艦隊でも同様の具申が行われていた。
 トーマス・グレイブス提督が述べていた。
「戦場においては戦場の司令官が指揮を執る。帝国軍規を良く理解した上での作戦でした」
「共和国同盟の英雄と称えられていた才能が証明されたということです」
「誠にございます。銀河帝国の全将兵が皇太子殿下の足元に傅くことでしょう」
「殿下は銀河を統一したソートガイヤー大公の生まれ変わりと言っても間違いないでしょう」
 アレックスの特徴ある瞳の色、エメラルド・アイがそれを証明するであろう。
 そして類まれなる指揮能力と作戦巧者は疑いのないものとなる。
「殿下よりご命令です。総督軍の左翼へ艦載機攻撃を集中させよ」
「グレイブス!」
「御意! 総督軍の左翼へ艦載機攻撃!」
 艦橋オペレーター達は小躍り状態で全艦隊へ指令を伝達した。


 さらに三時間が経過した。
「敵艦隊より降伏勧告が打診されています」
 通信士が報告するも、マック・カーサーは無視を続けていた。
 しかしながら、総督軍は総崩れとなり、残存艦数は五十万隻にまでに減じていた。すでに完全なる消耗戦となり、時間が経てば経つほどのっぴきならぬ状況へと陥っていく。
 それに対して包囲攻撃を続けるアレックスの艦隊にはほとんど損害を被ることはなかった。
 勝算はまるでなく、逃走もかなわない状況がはっきりしている。
 総督軍は完全に戦意喪失となり、総司令官の新たなる判断を待ち続けていた。

 それは【降伏】の二文字しかなかった。

「司令官殿、そろそろご決断すべきだと思いますが」
 参謀の一人が意見具申を出した。
「決断とは何のことかね」
「もちろん降伏です。この情勢ではそれしかないでしょう」
「馬鹿を抜かすな! ここまで来て降伏などできるか!」
「では徹底抗戦なさるとおっしゃるのですね?」
「当然だ!」
「おやめください!」
「何を言うか! おめおめと生きて恥をさらすくらいなら、敵の総大将と刺し違えても相手を倒すのみだ。それが武人の誉れというものだろう」
「何が武人の誉れですか。それはあなたの自己陶酔でしかありません。これ以上戦いたいのなら、あなた一人で戦いなさい。もはやあなたに数百万もの将兵の命を委ねることはできません」
「ええい、うるさい! 反転して敵の旗艦、サラマンダーに体当たりしろ!」
 誰も沈黙して動かなかった。
「あきらめて下さい。もはや提督の命令を聞くものはおりません」
「貴様らそれでも軍人か!」
「軍人だからこそ、命を粗末にしたくないのです。お判りいただけませんか?」
「判るものか」
 もはや何を言っても無駄のようであった。
「生きて戻ったら軍法会議を覚悟しろよ」
 と叫ぶと艦橋を飛び出していった。
「提督!」
 オペレーターが後を追おうとする。
「追う必要はない! 総司令は指揮権を放棄した。よって指揮権は私が引き継ぐ」
 参謀は言い放つと、全艦に指令を出した。
「全艦戦闘中止! 機関停止して降伏の意思表示を表す」
 オペレーター達は安堵の表情を見せて命令を復唱した。
「全艦戦闘中止」
「機関停止」
 エンジンが停止して音を発生するものがなくなり、艦内を不気味なまでの静けさが覆った。
「国際通信回線を開いて、敵艦隊と連絡を取れ」
「了解。国際通信回線を開きます」
 それはS.O.Sなどの非常信号や降伏する時のための通信回線である。


 サラマンダー艦橋。
 通信士が報告する。
「敵艦隊より、降伏勧告を受諾するとの返信がありました」
「敵艦隊、全艦機関停止して戦闘中止したもよう。間違いありません」
 艦内に歓声が沸き起こる。
「勝ったんだ!」
「我々の勝利だ」
 口々に叫んで喜びを一杯に表していた。
 それも当然だろう。
 戦いの前は、艦隊数で完全に負けていた。
 それをひっくり返して勝利したのだから。
「よし。全艦戦闘中止せよ」
「全艦、戦闘中止」
 深いため息をついて、椅子に座りなおすアレックス。
「おめでとうございます」
「見事な作戦指揮でした」
 オペレーター達が立ち上がって賞賛の拍手で、アレックスを褒め称えた。
「戦艦フェニックスのガードナー提督より入電です」
「繋いでくれ」
 正面スクリーンにフランク・ガードナー少将の姿が投影された。
『おめでとう。君なら勝てると思っていたよ』
「ありがとうございます。それもこれも先輩のおかげです」
『君が銀河帝国軍を率いて総督軍との決戦に赴いたことは報道などで知っていた。遠き空の彼方から応援するしかないと思っていたが、意外にも援軍要請の特秘暗号通信をもらって驚いたよ。まさかタルシエン要塞を空っぽにすることになるのだからな』
「確かにその通りなのですが、タルシエンの橋の先のバーナード星系連邦は革命が起きたばかりで、要塞を空にしても攻略にはこれないだろうと判断しました」
『しかし、そうそう空にしておくわけにはいかないだろう。この後我々は、タルシエン要塞に引き返す。共和国同盟の解放は君に任せることにする』
「任せておいてください。共和国同盟の解放は私の使命ですから」
『そうだな……。それでは短い挨拶だが、これで失礼するよ』
「お気をつけて」
『うむ』
 こうしてガードナー提督との通信が終わった。
 その後、ゴードンやカインズそしてジェシカなどの腹心達との交信が行われた。
 やがてアル・サフリエニ方面軍艦隊はタルシエン要塞へと引き返していった。
 銀河帝国軍と総督軍の決戦において、アル・サフリエニ方面軍が自陣を空にして援軍に向かったという情報は、バーナード星系連邦側にも流れているだろうから。
 バーナード星系連邦が革命途上にあるとはいえ、一個艦隊なりをタルシエンの橋を渡ってやってくることは十分ありうる。
 一時も早くタルシエン要塞に戻って防御を固めねばならないことは必然のことだった。


 ここに銀河帝国軍と総督軍との決戦は幕を閉じることとなった。
 しかし休む間もなく次の戦いがはじまる。
 共和国同盟の解放が成し遂げられたのではない。
「戦後処理は第四艦隊と第五艦隊に任せて、我々はトランターへ向かう」
 投降してきた総督軍の対処に構っている暇はない。
 第四艦隊と第五艦隊は後方支援としてやってきたのだ。彼らに任せるのは利に叶っている。
「総督軍の総司令のマック・カーサー提督は、自室で自害されたとの連絡がありました」
 通信士が報告する。
「そうか……。共和国解放戦線最高司令官の名で、弔意を表す電文を送っておいてくれ」
「かしこまりました」
 アレックスは一息深呼吸すると、新たなる命令を発令した。
「全艦全速前進。トランターへ向かえ!」
 熾烈なる戦いのあった宙域より離脱して、共和国同盟の解放のためにトランターへと目指す。
 懐かしき故郷の地へと。

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2021.07.09 11:49 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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