陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊
其の伍 葬式  阿倍野女子高では、自校の生徒が被害にあったことを受けて、父兄を加えた全校集会が 講堂で行われた。  警察からの捜査状況を受けて、父兄や生徒達への注意伝達事項が、壇上の校長から発表 された。  殺人犯が明らかになるまでの間、放課後の即時帰宅とクラブ活動の自粛など。 「うそー!」 「なんでやねん!」  などという女子高生達のブーイングが広がる。 「犯人が見つかっていないんだからしょうがないじゃん」  極力保護者が送り迎えするようにとの要望も加えられた。 「いっそ、休校にしてほしいわね」 「賛成!」  その中にあって、一年三組の生徒達の面持ちは暗かった。  さもありなん、被害者の中にクラスメートの金城聡子が含まれていたからである。しか も犠牲者第一号であった。  数日後。  金城聡子の自宅にて厳かに通夜と告別式が執り行われた。 「ご愁傷さまでした」  お決まりの挨拶が交わされ、淡々と式は進行してゆく。  蘭子達も、高校の制服姿で参列している。  冠婚葬祭いずれにも着用できる、万能な高校制服は便利なものだ。  蘭子にも焼香の順番が回ってくる。  陰陽師という職業柄、何度も死体と出くわし、経験を積み重ねているので、感慨無量と いう観念からは解脱している。  たとえそれが同級生であってもである。  遺体の胸元辺りには、守り刀と呼ばれる模造刀が、足元に刃先を向けるようにして置か れている。  模造刀なのは銃刀法からである。  一般的に仏教では人は死後、四十九日かけてあの世へと到達し、成仏(仏に成る)する とされている。  そして死後から仏に成るまでの存在を「霊」と位置付け、中途半端で迷いの存在と位置 付けられている。  元々仏教には遺体をケガレた(汚れ・気枯れ)存在とする風潮はなかったが、遺体をケ ガレたものとして忌み嫌う神道の影響を受け、中途半端で迷いの存在である霊の期間を、 ケガレた存在と見るようになった。  その為死者のケガレが生者に害を及ぼさないように、或いは死者のケガレが更なる外的 なケガレ(悪鬼・邪気)を呼ばないようする為の手段として、「守刀」が置かれるように なった。  その他にも  ・邪気を払う (特に猫は遺体をまたぐと化け猫になると信じられていた為、光り物を置いて、動物が近 づくのを防いだ。)  というのもある。  ・鉄により死者の肉体に魂を沈める (死者のケガレた魂が生者に乗り移ったり、祟を防ぐ為)  蘭子は思う。  自分自身が死亡し、葬儀の対象となった時は、あの御守懐剣「長曽弥虎徹」を守り刀と されることを祈ろう。  なお浄土真宗においては、人は死後に阿弥陀様のお力により、即座に成仏すると言われ ている(即身成仏)。  その為、あの世までの道中のお守りとしての守刀や、上記のような土着信仰から来るケ ガレがケガレを呼ぶ風習の一切を否定しており、守刀は不要である。  同じ理由で死装束(旅支度)や野膳(道中のご飯)、また会葬者が塩を使って身を清め るなどの行為も不要。
     
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