陰陽退魔士・逢坂蘭子/第一章・夢魔の標的
其の肆  放課後の帰り道。  一緒の鴨川智子が深刻そうに言う。 「蘭子、お願いがあるんだ。お兄ちゃんのことで相談したいんだけど」 「相談事?」 「うん。うちに来てよ」 「わかったわ」  というわけで、智子の家に立ち寄ることになった蘭子。  智子の自室は日の良く当たる南側にあって、窓側から少し離してベッドが置かれ、壁際 には勉強机や洋服箪笥、そして中央にはカーペットとガラステーブルが置かれている。 「ちょっと着替えるね」  女子高生服を脱いで普段着に着替え、制服をハンガーに掛けて壁際に吊るす。  ドアがノックされて母親が顔を見せた。来客のためにジュースとお菓子を持ってきてく れたのだ。気の利くやさしい母親のようだ。 「どうぞ、ごゆっくり」  甘いものには目がない智子。早速用件はそっちのけでショートケーキを頬張りはじめた。 「智子、太るわよ」  蘭子が注意するが馬耳東風である。 「これだけは止められないのよね。ショートケーキ」  最近太り気味の智子であるが、スカートのウエストが合わなくなって着れる服が少なく なって困っているという。にもかかわらず甘いものを断ち切ることができないでいるとい う。  呆れながら蘭子もショートケーキを頬張りはじめた。嫌いではないが好きとも言えない ところ。それに蘭子は武道をたしなんでいるので、これくらいのカロリーはすぐにエネル ギーとして消費されてしまうのだ。  ショートケーキを食べ終えた二人。 「そろそろ用件の方を聞かせてもらえないかしら」  本題に入ることを促す蘭子。 「ここ最近だけど追いはぎが夜に出没するようになったの知ってる?」 「知ってるわよ。若い女性を襲っては着ている服を脱がして持ち去ってしまう事件でし ょ」 「そうなのよ。しかも首筋にくっきりとキスマークも付けられているの。これが牙が刺さ った跡で血でも抜き取られていたらドラキュラなんだけど……。で警察は単なる物盗りと いうことで本腰を入れてないみたいなのよね。これでは四天王寺の事件みたいに迷宮入り よね」 「それで?」 「ここからが本題よ」  智子の表情が少し険しくなった。姿勢を正して座りなおすと、とつとつと話しはじめた。
     
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