冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・2


メニューへ 「支度金として50Gを支払います。改めて引き受けていただけますか?」  道具屋が承諾を求めた。 「ところでだ。姉のところに届けると言っていたが、君と同じくらいの美人か?」  相変わらず女性のことしか頭にない勇者。 「いいでしょう。引き受けましょう」 「ありがとうございます。助かります」  ナタリーと道具屋の間で、依頼が決められた。 「おい!」 「道案内となるように、この国の地図を差し上げましょう」 「俺の言うことくらい聞けよ」 「地図があれば迷子にならなくて済みそうだわ。うん、できればコンパスもあれば 助かるのだけど」 「頭にくるなあ……」  二人に完全に無視されている勇者。 「申し訳ありません。あいにくと品切れしているんですよ」 「品切れなら、仕方がないわね」 「というわけで、俺は帰る!」  無視されるくらいなら、帰っちゃうかと思ったようだ。 「そうはいかないわよ。あなたにはぜがひでもこの仕事を貫徹してもらうからね」  出て行こうとする勇者の首根っこを捕まえて、身動きできないようにする。 「それで届ける期限はどれくらいなの?」 「モトス村へは普通に旅して10日ですから、12日くらいで届けていただければ 結構です」 「判ったわ。それまでには届けられるでしょう」 「それでは、よろしくお願いします」  というわけで、モトス村への荷物運びの依頼が正式に契約成立となった。 「それじゃあ、身支度を整えてモトス村へ向かうわよ」 「おう! 道中気をつけて行けや」  相変わらず空気が読めない勇者だった。 「何をふざけたことを言ってるのよ。あなたが行かなきゃ始まらないの!」 「誰がそんな事決めたんじゃ!」 「あたしよ、あたし。悪い!? いい加減にしないと、おしおきしちゃうわよ!」 「おしおき? ボンテージ姿でレザーのガーターベルトに網タイツとかをはいて、 相手をロープで縛り上げてローソクたらして、ハイヒールで頭を小突きながら『女 王様とお呼び!』とかいうやつか?」  鞭打つ様子を手ぶりで表す。 「やってあげましょうか?」 「断るね。俺はノーマルだ」  ナタリーに手のひらを向けて拒否の態度を示す。 「それは残念。とにかく! 荷物運びよ。その荷物を受け取って、モトス村へ出か けるわよ」 「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……ぶつぶつぶつぶつ……あったく、こんな女に関わ ったたのが、けちのつきはじめだ。運命の女神の悪戯じゃ」  その通り、あの時ひょいひょいと着いていった勇者が悪い。 「ほれほれ、出かける準備をしなさい」 「出かける準備?」  首を傾げる勇者。 「あなた、丸腰で旅に出るつもり? 武具を買い揃えなきゃだめでしょ。武具屋に 寄っていくわよ」  というわけで、武具屋に向かう二人だった。 「そうはいってもなあ……。ここの武具屋には、ドラゴンバスター剣1000000Gに、 ジュラルミン製盾100000G、そして炭素繊維ファイバー兜500000Gとか超高額のア イテムしか置いてないじゃんかよ」 「馬鹿ねえ。それは表通りにある大きな店でしょう。裏通りに回ればこじんまりと した何でも屋という武具も道具も売っている店があるのよ」  といいながら、城内を案内するナタリー。 「100Gで買えるような安い剣とかも置いてるのか?」 「もちろんよ!」 「しかし、ギルドのおっさんは隣村にいかなきゃ売っていないような言い方してい たじゃないか」 「それはねえ……。ああ、見えてきたわ。あの店がそうよ」  と、指差す先には本当にこじんまりとした民家のような建物があった。 「なんでえ、民家じゃないのか? 看板も掲げていないようだし」 「もぐりでやっているからよ。ちゃんと看板を掲げるには、ギルドに正式に承認さ れる必要があるのよ。そしてそれは、品質保証された剣や盾、そして薬草などの道 具を扱っているという正式な店だということよ」 「安いには安いが、ばったもんとかじゃねえだろうなあ。一度使っただけで壊れち ゃうとか」 「そんな事あるわけないじゃない。だいたいギルドから承認されるには、最初の登 録時にかなり高額の認可料、剣や武具には品質保証証明書発行料、さらに毎月売り 上げの一定率を上納金を取られるのよ。だから看板を掲げている店の値段は自然に 高くなるというわけ」 「なんでえ、なんでえ。用はギルドはそんな事やってるんか? 俺らが仕事を貰う 時には斡旋料、仕事に必要な武具はどこそこの武具屋を紹介しよう、ってたぶん紹 介料まで取ってたりするんだろうな。その武具の料金には上納金とかが上乗せされ ているってことだ」 「そうね。ギルドは一国家の規模をはるかに超える組織力を持っていて、ギルドが 発行する登録証があれば、各国間の入国審査はほとんどフリーパスだものね」 「そうなのか?」 「あなた、ほんっとに何も知らないのね」 「自慢じゃないが、生まれてこの方この国から一度も出たことがないぞ」 「まったくう……。これで勇者だというんだから、世の中間違っているわね。自慢 している場合じゃないでしょ」  呆れた表情のナタリー。  幼稚園児を相手にしている気分になっていた。 「だから何度も言ってんじゃねえか! 好きで勇者になったんじゃねえ!!」 「はいはい。とにかく中へ入りましょう」  と、扉を開けて中に入る二人だった。 「いらっしゃいませ!」  声を掛けたのは、その店の主。  店内はこじんまりとしていたが、品揃えは豊富なようだった。 「こいつに見合う剣を見繕ってよ」  と勇者を指差す。 「こいつとは何だよ。犬や猫じゃねえぞ」 「ふん。犬畜生の方がよっぽど頼りになるわよ」 「あんだと!」 「まあまあ、喧嘩は店を出てからにしてくださいね。さてと……」  と、じっと勇者を眺めてから、 「そうですなあ、そのお方に見合う剣となると……。これなんかいかがでしょうか?」  背後の棚から一振りの短剣を取り出してみせるよろず屋だった。 「これなら手軽でどなたにでも楽に扱えますよ」 「ふーむ、どれどれ」  と、短剣を受け取って振り回す。 「あ、危ないじゃない! 人がいるそばで剣を振らないでよ」 「おお、悪かったな。で、店主いくらだ?」 「50Gです。お買い得ですよ」 「ほう……。どこぞの武具屋とは雲泥の差だな。それをくれ!」 「ありがとうございます。初めてのお買い上げのお客様にはこちらの魔除けの根付 けを差し上げます。短剣に結んでおくとよろしいでしょう」  貰った根付けを素直に短剣に取り付ける。  その重さと感触を堪能していた。  もちろん、生まれて初めて持つ武器なのであろう。 「それじゃあ、あたしは旅人の服をもらうわ。確か70Gだったわよね」 「その通りでございます」 「あと30G残っているから、やくそう4個で32Gだけど、まけてくれるでしょ?」 「しかたありませんねえ……、今回だけですよ」  商談上手なナタリーに負けましたという顔の店主だった。 「おい、ちょっと聞くが、その買い物は誰の金で払うんだ? 俺の剣と合わせて 150Gだよな」 「もちろん、あなたのお金からに決まっているじゃない」 「なんでおまえの分まで俺が払わなきゃならんのだ」 「借金があるからに決まってるじゃない。それにパーティーの装備を整えるのは勇 者の責務よ」 「そんな事、誰が決めたんじゃ!」 「世間一般の常識よ」 「ところで、ひとつ聞きたいんだが」 「なによ」 「おまえが、いつパーティーに入ったんだよ」 「たった今よ」 「戦えるのかよ」 「もちろんよ。馬鹿にしないでよ。娼婦だってやる時はやるのよ。ってか、あたし は魔導師だから」 「意外だな」  これ以上議論しても詮無い事。 「さて支度も整ったし、出かけますか」 「おうよ。気をつけて行けや」 「あに抜けたことを言ってるのよ。あんたも一緒にいくのよ」 「なんでやねん」 「いいから、ついて来るの!」  と、勇者の耳を引っ張ってゆく。  城門の前にたどりついた二人。 「さあ! いよいよ冒険のはじまりよ」 「かったるいなあ……」 「ぐだぐだ言ってないで、出発するわよ」  こうして勇者は冒険の旅へと出発したのであった。  と、突然。モンスターが現れた! 「いきなりかよ」 「ほれ、あんたの出番よ」 「俺が戦うのか?」 「他に誰がいるというのよ」 「わかったよ。やればいいんだろ」 「がんばってね!」  黄色い声援を送るナタリー。 「おりゃー!」  と、叫びつつモンスターに襲い掛かった勇者。  モンスターは攻撃を簡単にかわした。  モンスターの反撃。勇者に50ポイントのダメージを与えた。 「え?」 「くそっ! これでもか」  モンスターは平気で笑っている。  モンスターの反撃。勇者に70ポイントのダメージを与えた。 「ちょっとおかしいわね」 「おなくそ」  モンスターはすばやくかわした。  モンスターの反撃。勇者に50ポイントのダメージを与えた。 「ちょっと待ちなさいよ」  と言いながら、勇者者のステータスを調べる呪文を唱えた。 「HPが999? 999もあるの?」 「そうか? 考えたことがないぞ」 「なにこれ! 素早さが1、攻撃力が1、防御力が1、魔法力が1……。HP以外 は全部1じゃない。」 「へえ、知らなかったな」 「何を落ち着いているのよ。これじゃ、こちらの攻撃があたりもしないし、相手の 攻撃を受けるだけじゃない。これじゃ、ただの体力馬鹿よ」 「体力には自信があるぞ」  とか言っている間にも、モンスター攻撃はつづく。  モンスターの攻撃。クリティカルヒット!  勇者に500ポイントのダメージを与えた」 「おお! 今のはさすがに痛かったぞ」 「悠長な言ってないで逃げるわよ」 「俺は逃げも隠れもせん!」 「馬鹿! このままだとジリ貧。すでにHP半分うしなってんじゃない」 「そうか? 俺は実感がないが……」 「もう! 逃げるわよ」  と、勇者の手を強引に引っ張って逃げ出す女性であった。  モンスターから無事に逃げ出せた。


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