あっと!ヴィーナス!!第一章 part-1
2019.09.26


あっと! ヴィーナス!!


第一章

「うわー!」
 ベットで飛び起きる弘美。汗びっしょりである。
 回りを見回している。
 自分の部屋にいるのを確認して安堵している。
「ゆ、夢か……。まったく変な夢を見ちまったよ。この俺を女に変えるなんてね」
 まだ外は暗いので、そのまま再びベットにもぐり込む弘美。

 夜が明けて窓辺から差し込む光。
 まどろんでいる弘美。
 と、突然。
「こらー! 起きろ。いつまで寝てるんだよ」
 弘美を起こしているのは、一つ上の兄の武司だ。
 弘美は五人兄弟の末っ子だった。
「もう少し……」
「起きろ!」
 弘美の布団を引き剥す武司。
 そして、弘美の寝姿に驚く。
「な、なんだー!」
 そこには、半裸に近い姿の、しかも豊かな胸、ほっそりくびれた胴体、正しく若々
しい女の子の姿をした弘美が横たわっていたのである。
「お、お、お、おまえ……」
 驚きのあまりに、言葉を失っている武司。
「う……ん。なんだよ」
 目を擦りながらも、自分の身体の異変にまだ気づいていない弘美。
「か、母さん! 母さん!」
 叫びながら部屋を飛び出す武司。

 どたどたどたどたー!

 大きな音が響いてくる。
 どうやら階段から足を踏み外して転げ落ちたようだ。
「なんだよ……。何を驚いて……」
 とベッドから縁に腰掛けるようにして起き上がるが、顔の前にふわりと長い髪が被
さってくる。
「ん……え?」
 はじめて自分の異変に気がつく弘美。自分はこんな長い髪をしていない。
 髪だけではない、その胸元には昨日まではなかった二つの膨らみがあったのだ。
「なんだよ! これは?」
 そっと触ってみる。
 しっかりとした弾力があって、感触がちゃんとあるところをみても、本物の乳房以
外の何物でもなかった。
「ま、まさか……?」
 あわてて股間に手を当ててみる。
「な、ない……」
 あるはずのものがなくなって、ないはずのものがある。
 これってつまり……。

 女の子になっちゃったー!

 どこからどう見ても女の子だよ。
 なんでこうなっちゃったの?
 きのう何か変なもの食べ覚えもないし。
 あーん。いくら考えても判らないよお。

 部屋の外から、どたどたと昇ってくる多数の足音が聞こえてきた。
「や、やばいよ!」
 この姿を見られた武司から事情を聞いて家族が確認にきたようだ。
 この姿を見られるわけにはいかなかった。
 弘美の部屋には鍵が付いていないし外開きだから、ドアから侵入してくる者を防ぐ
手だてがない。
 あわてて布団に潜り込む弘美。
「弘美、入るわよ」
 母の声がしたかと思うと、ぞろぞろと家族が入ってきた。
「ほんとに女の子がいたのか?」
「いたさ。それも弘美にそっくりな女の子。最初は、弘美が女の子を連れ込んだかと
思ったけど……。間違いなくなく弘美だよ」
「弘美が女の子になったというわけね」
「そうだよ。この目に間違いはない。視力は、1.5」
 ベッドを囲むようにして家族が話し合っている。


11
あっと!ヴィーナス!!プロローグ・後編
2019.09.25


プロローグ・後編

ナレーション
ここは運命管理局センター。地球人類の運命を司る天上界にある機関の一つである。
人類の誕生から死までの運命を管理しているうちの、誕生を管理する部門の最高責
任者がヴィーナスなのだ。
地球人類も70億を越えるようになり、その膨大なデータを処理するために、コン
ピュータシステムが導入されている。
え? 神がコンピューターを使うのかって?
そんなことどうでもいいじゃありませんか。

ヴィーナス
どうです。見つかりましたか?

オペレーター
お待ちください。もう少しで判明します。

ディアナ
ヴィーナス、どうした。どじでもふんだか?

ナレーション
突然現われたのは、時間管理局長官である天空の女神ディアナである。天上界では、
ヴィーナスの同僚であるが、その美貌にかけて、常日頃から張り合っている。

ヴィーナス
ディアナ

ディアナ
ふふん。図星のようだな。

ヴィーナス
ファイル-Zが行方不明になったのよ。

ディアナ
なんだとー!
ファイル-Zと言えば、おまえどうなるか判っておるのか。

ヴィーナス
だからこうして、今全力をあげて捜索中ですよ。

ディアナ
オペレーター。システムを時間管理局のラインに接続しろ。大至急だ。バックアッ
プさせる。

ヴィーナス
ディアナ

ディアナ
酒ばかり飲んでるからこんなドジ踏むんだよ。
ふふん。
本来ならきさまの手助けなどしたくはないのだがな、ファイルーZとなればそうも
いかないだろう。

オペレーター
発見しました!

ナレーション
注目する二人。ヴィーナスの表情に少し安堵の様子がうかがえる。

暗転 ナレーション
さて、ところかわって地上。
ここは講堂館の青畳の上。おりしも中学柔道選手権試合の決勝戦が行われていた。
応援する人々、その中に、双葉愛の姿も見える。組み合う二人、そして見事な背負
い投げが決る。
審判員A
一本! それまで!

ナレーション
大歓声に包まれる講堂館。一斉に駆け寄ってくる同校のクラブ員達。胴上げされる
少年。この少年こそこの物語のヒロインである相川弘美その人である。
え? 少年なのにヒロインなのかって?
それは物語を読み進めていけば判る。

ところ変わって、大通りに面した歩道を弘美が歩いている。
とその目前に現れる愛と美の女神ヴィーナス
弘美、ヴィーナスに気づいて立ち止まる。

ヴィーナス
探しましたわよ。

弘美
探しましたって、あなたは一体。

ヴィーナス
私は、愛と美の女神ヴィーナス。(突然あたりの景色が消え、真っ暗になる)

弘美
な、なんだ? いったいどうした! ここはどこだ?(きょろきょろと当りを見回
している)

ヴィーナス
ここは、時間と空間を超越したところにある、天空の女神ディアナの支配する世界
です。

弘美
時間と空間? 天空の女神ディアナって、ローマ神話に登場する最高神で、たしか
男性形名をヤヌス、英語で1月を意味するJUNUARIUS はこの人に由来するという、
あの神か? ローマ神話のほとんどがギリシャ神話に置き換えられてしまったのに、
唯一ギリシャ神に対応するものがないことで何とか生き残ったという。

ヴィーナス
よく御存知でしたね。でもそんなことはどうでもよろしい。私があなたのところへ
遣わされたのは、ファイル-Zのあなたを本来生まれるべき姿に戻すためです。

弘美
ファイル-Z? 本来生まれるべき姿に戻すってどういう意味だ?

ヴィーナス
ファイル-Zに選ばれた以上、あなたは女性でなければならないのです。それが手
違いで男性に生まれてしまった以上、今ここで女性に戻す以外にないのです。

弘美
ちょっと待て! 俺を女に変えるというのか?

ヴィーナス
その通りです。これからは女性としての人生を歩くことになります。

弘美
冗談じゃない! ことわる。

ヴィーナス
これは運命なのです。

弘美
やめてくれ!

ヴィーナス
ヴィーナスの名においてこの者を本来生まれるべき女性の姿に戻したまえ・・・

弘美
うわー!(突然、足元から下へと落ちはじめていく)


11
あっと!ヴィーナス!!プロローグ・前編
2019.09.24


プロローグ・前編

ナレーション
天上界に優雅にそびえ立つヴィーナスの神殿。豪華に飾られたその神殿内の執務室。
神子達が忙しく動き回る大広間の奥の高座の金銀財宝の散りばめられたソファーに
横たわりながら酒を飲んでいるこの人物こそ、この世のありとあらゆる美しさをた
たえた女神。そう、この人こそこの物語において重要な役処を務める……

ヴィーナス
ヒロイン役のヴィーナスです。

ナレーション
と本人は申しておりますが実は……

ヴィーナス
だからヒロインのヴィーナスです。タイトルを見ていないのですか?

ナレーション
えっと……ヒロインのヴィーナスだそうです。

ヴィーナス
ちょっと投げやりなんじゃありませんこと?

神子 A
ヴィーナス様。この書類に目を通して頂けますか?

ナレーション
唐突にも、物語は始まる。

ヴィーナス
こら! 逃げるな!

神子 A
ヴィーナス様。どなたとお話になっておられるのですか?

ヴィーナス
え? ああ、なんでもありません。(書類に目を通して、渡す)

従者A、一礼して退く。

ヴィーナス
うん? (床に落ちているDVDディスクを拾い上げて、神子を呼 び止める) デ
ィスクが落ちていたわ。運命管理局に渡しておいて。

神子 B
かしこまりました。(ディスクを受け取って運命管理局へ)

ナレーション
再び酒を飲みはじめるヴィーナス。この世のすべての美を持っている天上界の神の
一人なのだが、酒が大好きで暇さえあれば飲んだくれているというどうしようもな
い女神だ。

ヴィーナス
聞いていれば、好き勝手いいやがって。

ナレーション
わたしはナレーションだ。ここでは神より偉い!

ヴィーナス
あのなあ……

ナレーション
ほれほれ、物語は進んでいるよ。

神子 C
ヴィーナス様。ファイルーZを受け取りに参りました。

ヴィーナス
ファイルーZ? なんだそれ……。

神子 C
とぼけないでくださいよ。ゼウス様からお預かりになられたDVDディスクに収め
られたファイルですよ。

ヴィーナス
ああ……、忘れていた。それならここに……。(と酒の瓶が並べられたガラステー
ブルの上を見る)
な、ない!(急に、青ざめる)

神子 C
ないって……。どういうことですか?

ヴィーナス
確か、テーブルの上に置いていたんだ。(思い出す)
ああ! そうだ。さっきの神子に渡した。

神子 C
神子に渡したってどういうことですか? ファイルーZは特別扱いで、担当である
私だけが処理できるものなんですよ。

ヴィーナス
そんなことより、ファイルーZだ。(ちょうど通りかかった神子Bを呼び止めて)

神子 B
え? それでしたらとっくに運命管理局のほうに回しましたが?

ヴィーナス
そ、それで、どっちの方に回したの? 男? 女?

神子 B
(きょとんとしている)どっちって……? 私は男性担当ですからそちらに……。

ヴィーナス
遅かったか!


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