梓の非日常/第九章・生命科学研究所(一)生命科学研究所
2021.04.14

梓の非日常/第九章・生命科学研究所


(一)生命科学研究所

 生命科学研究所付属芳野台病院というプレートが掲げられたゲートをくぐるファンタムⅥ。
「久しぶりね。ここに来るのは」
「そうでございますね」
 今日は、ハワイでの航空機事故の後遺症がないかを、確認する為にやってきたのだった。二三日入院して念入りに診察がされることになっている。
 病院の敷地に併設されて生命科学研究所がそびえている。
 病院の玄関前に停まるファンタムⅥ。
 研究所の方には重症患者のICU(集中治療室)しかないので、病院の方で入院手続きすることになっている。
「受付けして参ります」
「研究所の方、ちょっと見てくるね」
「研究所員の邪魔にならないように気を付けてください」
「わかった」
 と確認しあって、麗香は病院内へ、梓は研究所へと向かった。

 生命科学研究所。
 以前病院の屋上から垣間見たことがあるだけだった。
 陽電子放射断層撮影装置(PET)や、核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの最新設備を誇る生命科学研究所には、近隣の病院からも診断のために患者が運びこまれてくる。ただし通常として、交通事故現場や各家庭などから救急患者が直接運ばれることはない。ここはあくまで研究施設であり、各救急医療センターが手の施しようのない重症患者や、PETなどの診断を必要とした場合、研究対象としての治療を行うことを了承した場合に限って引き受ける。
 なお、日本で最初の倫理的な性転換手術が行われた埼玉医大総合医療センター病院も、車で十分としない距離のところにある。
 広大な敷地にそびえ立つ研究所だが、その地下には二万キロワットもの巨大な超伝導蓄電実験施設があるという。ただしこのことは一切公表されてはおらず、梓だけに極秘理に知らされているだけだった。

「あれ?」
 梓の振り向いた先には、見知った女性がいた。
 それはかつての自分、長岡浩二の母親だった。
 すっかり忘れ掛けていたが、まだ記憶の端に残っていた。
 交通事故の後、退院した際に母に連れられて長岡邸を見舞ったあの日。自分の記憶にある長岡浩二はイメージだけだと悟ったあの時のこと。
 もはや自分自身の母親という意識はなかった。今の梓の母親は渚一人、母娘の絆もしっかりと築かれていた。
「なんでここにいるのかしら……」
 長岡母は(渚と紛らわしいからこう呼ぶことにする)玄関から施設に入っていく。
 どうも気になるので後を追ってみることにする。
「ええと……どこに行ったかな……。あ、いた」
 丁度玄関から駐車場添いの通路の先の角を曲がるところだった。
 あわてて後を追い、角のところまで来たが、
「あれ、いない……?」
 その先の通路にはいくつかの研究室の扉と階段があった。
 研究室に入ったか、階段を使ったか?
 研究室に入るわけにはいかないし、階段は上か下か判らない。広大な施設だから下手に探しまわっていたら迷子になってしまう。
「うーん……。ここに来ているということは、家族に何かあって入院しているのかなあ……」
 もはや縁は切れているとはいえ、やはり気になるところだ。
 麗香に頼めば調べてくれるかも知れないが、どう説明する? 麗香は梓の人格が入れ代わっていることを知らない。そのことに気づいたのは幼馴染みの絵利香だけだ。
「あの……。何かご用がおありでしょうか?」
 後ろから声を掛けられた。
 振り返るときれいなお姉さんが微笑みながら立っていた。受付係のネームプレートを胸に付けていた。そういえば受付けを通らずに入ってきたから、追い掛けてきたのというところ。
「あれ? あなた……もしかしたら、梓お嬢さま?」
「はい、そうです」
 研究所の者なら誰しも梓の顔を知っている。いや、知っていなければ研究所員とは言えないだろう。研究所概要書には写真入りで載っているし、ここの所長室や会議室にも額入りで飾ってあるからだ。
「やっぱりでしたか。今日は検査でお見えでしたよね。ですが一応付属病院の方で手続きを……」
「ああ、いいの。手続きは麗香さんがやってくれているから。それより、さっきここを四十代くらいの女性が通ったでしょう?」
「長岡さまかしら……?」
「そうそう、その長岡さん。ここには何の用で来ているのかしら」
「申し訳ございません。その件に関しましては、守秘義務によって来院者さまのことは申し上げる訳には参りません。例えお嬢さまであってもです」
「そうなの……残念ね」
 確かにその通りなのだろう。医師や類する研究者が守秘義務を守らなければ、患者は安心して身を任せられない。
 長岡母のことは気になるが、今の段階ではどうしようもない。
 忘れなくちゃとは思うのだが……。


 そこへ麗香が迎えにきた。
「お嬢さま、こちらにいらしたのですか。診察がはじまりますよ」
「早かったのね。手続きを待っている患者さんはたくさんいるんでしょ?」
「既に予約は入っておりましたし、お嬢さまのことですから……最優先で処理されたのでしょう」
 麗香に代わって受付係りが答えてくれた。
「例によってⅥP待遇というわけね」
「その通りでございます」
 いつものことながら、どこへ行ってもⅥP待遇なのよね。たまには庶民の暮らしを体験してみたいもの。本来なら十八年間長岡家で暮らしていたのだろうが、記憶がない以上体験とは言えない。

「それじゃあ行きましょうか。まずは問診からですよ」
 麗香に案内されて、問診室かと思ったが、別の診察室に入った。
 そこには女医さんが控えていた。
「ありゃあ! やっぱり女医さんか……」
 旅行の時の副支配人もそうだが、何かにつけても梓を応対するのはいつも女性だった。
「男性医師に診られるのは恥ずかしいでしょうから……」
「ま、どうでもいいけどね……」
「担当医の不破由香里でございます。よろしくお願いします。それではお嬢さま、まずは問診からはじめますね」
「うん……」
「事故の後、頭が痛いと感じたことはありますか?」
「ないわね」
「身体がだるいと感じたことは?」
「うーん……。ない」
 という具合に、問診表にそって質問と解答が繰り返される。
 およそ二十問の問答があってから、
「以上で問診は終わりです。続いて触診しますので、上着を脱いでいただけますか?」
「う、うん」
 女医の指示通りに上着を脱いでブラジャー姿となったところで、
「ブラジャーはそのままで結構ですよ。それでは……」
 健康診断で良く見られる打診や聴診器による診断がはじまった。さらに肝心ともいうべき首筋あたりの触診に入った。
「痛かった言ってくださいね」
 押したり叩いたり、頭をぐりぐり回して首筋の動きとかに異常がないかを確認している。
「それにしてもこんな大きな事故を続けて二度も経験されるとは、お嬢さまもよほどついていないですね」
「二度め?」
 そうか……。飛行機墜落事故は、慎二のせいだと思っていたが、もしかしたら誰かによって巧妙に仕組まれていたのかも知れない。自動制御装置にコースを逸脱するようなプログラムをインストールされていたとしたら? 慎二はたまたま居合わせただけかも知れない。いくら重量(ペイロード)問題があったとしても、たかだか八十キロ前後の重量オーバーくらいで、あれだけの巨体のDCー10ジェット機が燃料切れをおこすはずがない。
 やはりUSA太平洋艦隊司令長官のドレーメル大将の言う通りにスパイが紛れ込んでいる可能性がある。

 問診が終わって、診断装置の準備が整うまで特別の応接室に通される梓と麗香。
 二人きりになったのを機に尋ねてみる。
「ところで麗香さん、例の件の調査は?」
「申し訳ありません。スパイがいるとして証拠隠滅されないように、極秘理に調査を進めていますので、まだ時間がかかりそうです」
「そう……。なんにしても、あたしの身の回りに命を狙う組織がいるとぞっとするわね」
「ボディーガードを、おそばにお付けしましょうか?」
「いらないわよ。葵さんみたいにぞろぞろ黒服を連れているのを見ていて、あまり印象が良くないのを知っているから」
 梓の言う葵とは、真条寺家の本家である神条寺家当主の跡取り娘である。社交界などで会った時などには、何かと本家ということを鼻にかける、梓にとってはいけすかない同い歳。
 まあ、そのうちにまた会うことになるだろう。

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11
梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件(十一)寄港
2021.04.13

梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件


(十一)寄港

 やがて炎上する敵駆逐艦のそばに浮上する潜水艦。
 司令塔甲板に姿を現わす艦長と見張り要員。
『まだしつこく浮かんでいるな。魚雷長、一発ぶち込んでやれ』
『了解』
『撃墜されたパイロットのものと思われる救難信号がいくつか出ています』
『うむ。救助艇を出して助けてやれ。海賊は放っておいていいぞ』
『了解。救助艇を出して、救助に向かいます』
 数分後、艦首より二筋の軌跡が、敵艦に向かって走る。そして火柱が上がり大音響とともに敵艦は海のもくずと消えた。
『敵艦を三隻とも撃沈させてよかったのですかね。敵艦に乗り込んで素性を調査することもできたのでは?』
『敵は海賊なんだぞ、それを許すと思っているのか。近づいた途端に、自爆してこちらを道ずれにするのは目に見えている』
『しかし甲板や中にまだ取り残されている乗員もいたのではないでしょうか』
『国籍を隠蔽した海賊船に、法や情けは無用だ。アメリカ国家と国民に対する攻撃は、いかなる理由に関わらず断じてこれを許さない。これは大統領の強い意志であり、アメリカの権威なのだ』
『そうですね。お嬢さまもこの艦も、アメリカ国籍でした』
『艦長。護衛艦が到着しました。十一時の方向から』
『パイロットの収容は?』
『全員救助して帰還中です』
『よし。収容が完了次第、浮上したまま基地に帰還する。出航準備。星条旗と我々の旗をあげろ』
 ポールに星条旗と、米国海軍旗、第七艦隊旗そしてARECの社旗がするすると上がる。
 艦体に接舷する救助ボートからパイロットが上がってくる。
 労をねぎらうために艦長みずからが出迎えに出ていた。
『CVWー11航空団所属、キニスキー大尉であります』
 以下、次々と自己申告するパイロット達。
『当艦の艦長のウィルバートだ。諸君らのおかげで敵艦隊に攻撃のチャンスが生まれ、これを撃沈することができた。ご苦労であった、礼を言う。ゆっくりと静養してくれたまえ。以上だ』
『はっ!』
 最敬礼をするパイロットを後にして艦内に戻る艦長と副長。
『お嬢さまに、戦闘が終了したことを知らせましょう』
『おおそうだな。よろしく頼む』

 居住ブロックの梓達。
 戦闘終了の報告を受けて、一斉に喜びの声を上げる。
「一時はどうなるかと思いましたよ」
「ねえ、梓ちゃん」
「なに?」
「もう少し艦内の自由を与えてくれないかな」
「そうなんです、おトイレに行くのも不自由してます」
「トイレ?」
 部屋にいるのは女性ばかりなので、遠慮なく話している。
「おトイレに行くのに監視がつくんです。一応女性隊員ですから、まあよしとすべきなんでしょうけど」
「艦長に相談してみる。他に何かある?」
「それじゃあ、小銭の両替お願いします。そこの自販機、アメリカコインでないと使えませんから。ドル紙幣は持ってますけど、小銭までは用意していませんでした」
「わかった」

 統合発令所。
『判りました。お嬢さまがそうおっしゃるなら、居住ブロック内に限っての自由を与えましょう。ただし乗員のプライベートルームがありますので勝手に入らないようにお願いします』
『当然です。個室が判る目印はありますか?』
『扉に部屋番号がついているのがそうです』
『判りました』
『ところで、米海軍太平洋艦隊司令長官が、ぜひお嬢さまにお会いしたいと言ってきておりますが、いかがなされますか』
『お会いしましょう。今回の件ではおせわになりましたからね。断るわけにはいかないでしょう』
『では、手配いたします』


 ハワイ諸島。
 パールハーバーに入港する資源探査船。
 沿岸に集まった野次馬が、その巨大な雄姿に見とれている。
 合衆国が所有するすべての戦略・攻撃型原子力潜水艦より、装備を強化した戦闘艦として、さらに深海資源探査船としての装備をも合わせ持った、水中総排水量四万八千トンという世界最大の原子力潜水艦である。
『見ろよ。原子力潜水艦だぜ』
『それにしてもでかいが、海軍の潜水艦じゃないな。司令塔の脇に識別艦番号が記されていないし』
『潜水艦の場合は、その秘匿性から艦番号を表示しないことが多いんだよ。その代わりに変な文字があるぞ』
『ありゃあ、中国の漢字とかいうやつじゃないか』
『じゃあ、中国の潜水艦か?』
『原爆保有国だから、原潜を所有してても不思議ではないが……そんな技術あるか?しかもこんな巨大艦』
『うーん。どうなんだろ。中国軍は公式発表しないからな』
『バーカ。中国軍がパールハーバーに入港できるわけないよ』
 彼らの意志には、日本という言葉がないようだ。核廃絶を唱える国家だから眼中にないといったところ。
『おまえらどこ見てんだよ。星条旗と第七艦隊の旗を掲げているんだぞ。中国軍のはずないだろ。間違いなく合衆国の潜水艦だよ』
『そういえば、司令塔のポールに……』
『ああ! おい、見ろよ。あの旗を』
『え、どれ?』
 司令塔のポールに掲げられた旗を指差す野次馬。
『真条寺家のシンボルマークだよ』
『じゃあ、真条寺家の潜水艦か?』
『そういえば真条寺グループ傘下の資源探査会社が深海資源を探査する船を開発したっていう記事を読んだことがある。たぶんそれじゃないか?』
『じゃあなんで第七艦隊の旗が? 星条旗だけなら納得できるが』
『わからん……』
 野次馬が理解できるはずもなかった。真条寺家と合衆国海軍との間で極秘理に調印、運用されている潜水艦なのであるから。

 太平洋艦隊司令長官オフィス。
 梓と司令長官のドレーメル大将が対面している。麗香もドアの所で待機している。
『いやあ、お嬢さまの乗られた航空機が不時着したと聞いた時は、心配しましたよ。要請があればいつでも救助に迎えるように、近くを航行中の空母エイブラハム・リンカーンに準備をさせていたのですが。その上に潜水艦までが攻撃を受けたと聞いた時には驚きましたよ』
『そのお気遣いだけで充分です』
『ところで、あなた方を襲った駆逐艦ですが、当方でも色々な方面から情報を集めましたが、依然として不明のままです』
『そうですか……』
『潜水艦を拿捕しようとしたのか、それとも真条寺家の後継者であるあなたを亡き者にしようとしたのか……』
『え? それは、どういうことですか? あたしを亡き者って』
『考えてもみてください。潜水艦を拿捕するのが目的なら、FA戦闘機が逸早くスクランブル発進で攻撃してきた時点で、太平洋艦隊の擁護下にあったことが判明し、諦めて撤退するのが常識でしょう。にもかかわらず執拗に攻撃しようとしてきた。となると、潜水艦に乗艦している重要人物を狙ったものと考えるのが自然です。そしてそこには真条寺家後継者のあなた様がいらっしゃった』
『まさか……』
『太平洋の孤島にお嬢さまの乗った飛行機が不時着したという情報、及び資源探査船が救出に向かったという情報が漏洩しているようですね。それがあなたを亡き者にしようとしている組織に流れ、駆逐艦部隊が派遣されたと考えるべきでしょう。あの駆逐艦はどう考えても正規の軍隊です。おそらく一国の軍隊の一部を買収して海賊行為を行わせるだけの資金と権力を持ったかなり大掛かりな組織のようですね』
『情報が洩れている……』
 親指の爪を唇に当てて、少し顔を伏せ加減でじっと考え込んでいる梓。
『麗香さん!』
『はい!』
『あたしがあの島にいることを知っている部署は判りますね』
『はい』
『信じたくありませんが、真条寺グループの中にスパイが紛れ込んでいるのかも知れません。極秘理に調査をしてください』
『かしこまりました』
『一応こちら側でも調査を引き続き行います。軍の上層部にもお嬢さまの不時着の件が伝わっています。こっちから流れた可能性もありますから』
『お願いします』
『そうそう。大統領からの言付けがありました。いずれ機会があればお食事でもしながらお話ししましょうとのことです』
『はい。その時は喜んでお受けいたしますと、お答えしておいてください』
『かしこまりました』
『それと、大統領専用機が現在空いておりますので、それでお帰りくだされても結構です、とのことですが』
『そこまでして頂かなくても結構ですわ。自家用機がありますので』
『そうですか。それでは、向こうに着いたら横田基地をお使いください。お屋敷に一番近い空港ですから。基地司令官には、到着予定時間帯に滑走路を空けておくように連絡を入れておきます。あんなことがあったばかりですからね。警備上はるかに安全です。できればそうしてください』


 長官との面談を終えて、ワイキキビーチで水着姿でくつろぐ梓達。その一方で、パスポートを持たない慎二は、不法入国者として強制送還の処置をとられ、一歩もハワイの地を踏むことなく空路日本に送り返されることとなった。
「覚えてろよー」
 という捨てぜりふとともに。

「ねえ、梓ちゃん。あの艦の艦長さんだけどさあ」
「なに?」
「肩章に星二つだったわ。つまり上級少将ということ。普通艦長というのは、佐官クラスの将校が任命されるものよ。それが提督クラスの艦長が乗艦しているってことは、通常とは違う特別任務が与えられているはずよね」
「そ、それがなにかな……」
「多分、戦略核兵器が搭載されているんじゃないかな。梓ちゃん、何か聞いてない?」
 さすがに感のいい絵利香だ。状況証拠を分析し判断する能力値は高い。
「き、聞いてないよ。だって、オーナーになってることだって、初耳だったんだから。みんなお母さんがやってることだもん」
「そうだよね……そもそもあの艦を島に逸早く回航させてくれたのも渚さま」
「そうそう……」
 冷や冷やどきどきの梓。渚から極秘と言われているので、答えられないもどかしさ。
「ま、いいか……直接的には、わたしたちには関係なさそうだから」
「それからね、飛行機の回収がはじまったようよ」
 話題を変える梓。
「早いわね。三日後って言ってたから、明日じゃなかったの?」
「たまたま早く着いちゃったみたいね」
「あんな大きなものどうやって回収するの?」
「分解して回収するみたい。一応日本の飛行機だから、日本に持って返って事故調査委員会の調査を受けてから、篠崎に返されるようよ」
「そうか、だとすると、慎二君。また槍玉に上げられるってことね」
「当然のことなんじゃない」
「冷たいのね」
「いい勉強になるわよ。何事もよく考えてから行動することを学習できるでしょ」

 横田航空基地。
 戦闘機の護衛を受けながら基地滑走路へ進入をはかるジャンボ機。その尾翼には真条寺家のシンボルマークが輝いている。
 滑走路を滑りながらジャンボ機は、管制塔近くに着陸した。タラップが掛けられ、その周囲に米軍士官達が立ち並んだ。
 ジャンボ機のドアが開いて、梓達がタラップを降りて来る。一斉に士官達が敬礼して歓迎の意を表す。その先に横田基地司令官、肩章に星二つのドワイト上級少将が待ち受けている。司令官は軽く敬礼すると、右手を差し出して握手を求めて来る。握手に応える梓だが、その手の大きさの違いにとまどっている。
『長官からは、大切にお出迎えするように言われております』
『申し訳ありませんねえ。話しが大袈裟になってしまって』
『海賊船に襲われたというじゃありませんか。念には念をいれるのは当然でしょう』
 タラップのそばに並ぶ士官達が小声で囁きあっている。
『なんだよ。どんなやからが降りて来るかと思ったら、女と娘じゃないか』
『だがよ。そのやからは、あのジャンボ機を自家用機にしてるんだぜ。それだけでもただ者じゃないことがわかるぜ。しかもお出迎えの車が、ロールス・ロイス・ファンタムⅥときたもんだ』
『今司令官と話している娘が、どうやらプリンセスのようだな。後の二人は付き添いみたいだ』
『しかし……』
『なんだよ』
『可愛い娘だな』
『ああ……』

 その後の飛行機墜落事故調査委員会からの報告がなされ、飛行機の自動運行プログラムと燃料計が、何者かによって改変されていたことが明らかになった。
「つまり、慎二君のせいだけではなかったということね」
 絵利香がため息のような声を出した。
「あ、あたしは信じていたよ。ほ、ほんとだよ」
 焦ったような表情をして弁解する梓。
「たった八十五キロ程度で、飛行機が落ちるわけないじゃん。慎二をちょっとからかっただけだよ」
「はいはい、そうでしょうとも」
 絵利香も深くは詮索しなかった、
 そして顔を見合わせてほほ笑むのだった。

第八章 了

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11
梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件(十)反撃開始
2021.04.12

梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件


(十)反撃開始

 居住区。
 敵駆逐艦が出しているソナー音が響いている。
「この音は、もしかしてソナーじゃない。戦争映画でよく聞く音だわ」
 絵利香が誰に聞くともなく言った。
「そのようですね」
 平然と答える麗香。
「梓ちゃん。この船は調査船じゃなかったの」
「調査船だよ。でも、戦闘艦でもあるの」
「どういうことなの?」
「わたしからご説明します」
 麗香が代わって説明をはじめた。ほとんどが梓がビデオで聞いたことと同じであるが、さすがに原子力船と核弾頭搭載の件は伏せていた。実際の潜水艦を数多く見た軍事オタクなら、その大きさから原子力ということも判断出来るだろうが、全員ずぶの素人のために判るはずもない。
「音が次第に大きくなるわ」
「もう真上に来たんじゃない」
 言うが早いか、激しい振動と爆音が鳴り響いた。
「きゃあ」
「爆雷だわ!」
 全員耳を塞ぎわめいている。
「心配いりません。この艦は一万メートル級の深海にも潜れる耐圧船殻を持っています。通常の爆雷程度ではびくともしません。もっとも内部配管などが、振動で破損することはあるでしょうが」
「それじゃ、同じ事じゃない。バラストタンクに空気を送る配管などが破損したら、浮上できなくなるんだよ」
 梓が確認するように尋ねる。
「内部配管なら修理は可能です」
「どうかなあ……」
 いくら信頼する麗香の言葉とて、爆雷の衝撃を経験すれば懐疑的になるのは当然であろう。

『三百フィートまで潜航』
 慌ただしく機器を操作するオペレーター。
『潜蛇、二十度』
 爆雷の衝撃がしばらく続いた後に、ソナー音が小さくなりやがて静けさが戻った。
『敵艦、離れていきます』
『やり過ごせますかね』
『無理だな。相手は対潜駆逐艦だ。速力は向こうが上回っている。すぐに引き返して追い付いてくるさ。しかもフォーメーションを組んでくるから、息つくひまも与えてくれないし、今度は魚雷攻撃もしかけてくるぞ』
『高々深度航行で逃げましょう。爆雷も届きません』
『いや。ここで奴等を見逃したら、またどこで攻撃を受けるかも知れん。逃げるわけにはいかん』
『艦長。水中聴音器に爆音らしき音が入ってきてます』
『どれ、聞かせてみろ』
 オペレーターからヘッドホンを受け取って、聞き耳を立てている。
『援軍の戦闘機が攻撃を開始したようだ。沈んでいる。一隻撃沈だ』
 やった!
 という声が飛び交う。
『静かに!』
 その一声で再び静寂が戻る。
『敵艦は戦闘機の攻撃で、回避行動を取っている。奴等が我々を見失っている今のうちに、ハープーンミサイルを撃てる距離まで離れるんだ。副長、潜望鏡深度まで浮上。最大戦速、進路そのまま』
 艦長の命令を副長が復唱しながら乗員に下令する。
『潜望鏡深度まで浮上。機関全速。進路そのまま』
『潜望鏡深度へ。メインタンク、ブロー』
『機関全速』
『進路そのまま』


 海面に潜望鏡とアンテナが突き出ている。
 艦橋から戦闘用潜望鏡(Attack periscope)を覗いている艦長。それは、スコープ内の目標にロックオンすれば、自動的に魚雷の発射制御装置に対し、距離や雷速などのデータが入力されて、発射ボタンを押すだけになるという、最新の装備を付加したものである。
『潜望鏡では、まだ視認できない。衛星からのデータは受信しているか』
『はい。AZUSA 5号B機からのデータによれば、後方七マイルの地点をこちらに向かって接近中です。二隻です』
『どうやら、二隻撃ちもらしたようだ』
『第一次攻撃隊は全滅したのでしょうか?』
『たぶんな。最近の駆逐艦は対空装備が充実しているからな」
『はい。例のデヴォンシャー型には、対空兵器としてシースラッグ三連装備とシーキャット連装が各一基ずつ搭載されています。さらに備砲として11.2cmと8cm砲がそれぞれ四門ずつあります。一筋縄では撃沈できませんよ』
『しかし、おそらく第二波攻撃がエイブラハム・リンカーンより出撃していると思います』
『だが、我が軍の攻撃より先に敵の魚雷攻撃の方が早い。これ以上、お嬢さまを脅えさせるわけにはいかないんだ。こちらから先制攻撃をかけるぞ。ハープーンミサイル発射準備』
『ハープーンミサイル発射準備』
『攻撃指揮装置に、AZUSA 5号B機からの敵艦の位置データを入力』
『発射管扉、開放します』
 ディスプレイに敵艦の位置と、刻々と変化するミサイル制御数値が表示されている。
『ミサイル発射準備完了』
『発射!』
『発射します』
 ガス・蒸気射出システムによって打ち上げられたミサイルは、海上に出たところで自身のロケットエンジンに点火され、敵艦に向かっていく。発射時からエンジン点火してもよさそうに感じるだろうが、それだと噴射ガスの高熱や圧力によって射出口が損壊して次弾を撃てなくなる。それを防ぐために考案されたのが、ガス・蒸気射出システムである。
『ミサイルの発射を確認。敵艦に向かっています。到着時間一分十二秒後』
『発射管扉閉鎖』

「爆雷攻撃があってからずいぶん経つね。逃げきれたのかしら」
 絵利香が、天井を見つめながら言った。
「まだじゃないかな、戦闘が終了すれば連絡があるはずだし」
 それに梓が応える。
「次の攻撃があるとしたら、魚雷戦になると思います」
 そして麗香である。
「魚雷!」
「そうです。それもホーミング魚雷ですから、たやすくは逃げられませんよ」
 麗香が解説する。
「そんなあ……」
「麗香さん。みんなを脅えさせるようなこと言わないでよ」
「ですが、事前に心の準備をしておくのも肝要ですから」
「あ、そう……」

 敵駆逐艦が、迫り来るミサイルに対し迎撃発砲している。
 誘導兵器を攪乱する、チャフやフレアがランチャーから一斉射出されてはいるが、一向に効き目がない。それもそのはず、衛星軌道上のAZUSA 5号B機によって、誘導されているのであるから、攪乱兵器が通用するはずがない。

 そして着弾。みるまに爆発炎上する駆逐艦。

『敵駆逐艦、完全に停止。沈黙しています』
『よし、接近して確認する。微速前進だ。艦首魚雷の発射準備もしておけ』
『微速前進』
『艦首魚雷発射準備』

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