あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-10
2020.01.16

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-10

「呼んだか?」
 突如として、天駆ける戦車にヴィーナスが姿を現した。
「危ない!」
 重量が偏るように増えたので、戦車が揺れて落ちそうになる。
 ディアナが天馬の手綱を操作して、体勢を立て直した。
「危ないじゃないか、ヴィーナス」
「わたしを呼んだだろう?」
「呼んでねえよ」
「いや、確かにわたしの名を呼ぶ声が聞こえたぞ」
「相変わらず地獄耳だな。おまえは」
「神なのに地獄耳とはこれいかに、だな」
「確かに呼んではいないが、名前が挙がったのは確かだ」
「酔っ払って寝込んでたんじゃないのかよ」
「人の口に戸は立てられない、っていう諺があるだろう。たとえ眠っていても耳に入れば
目が覚める」
 呆れ返る弘美とディアナ。
「来てしまったのは仕方が無い。邪魔だけはするなよ」
「判っている。もちろん事情はすべて理解している」
「ならいい」
 改めて、ラピュタに向けて帆を上げる一行だった。
「天空城な。解説が間違えるなよ」
 あ、すいません……天空城です。
「どっちも同じだろうが」
 天駆ける戦車は、天空城に向けて一直線に進む。
「ところで、弘美」
「なんだよ」
「女の子らしくしろと、いつも言っているだろう。なんだ、その男の言葉は」
「地の言葉で悪いか」
「悪いわい。その女の子の格好で、喋る言葉じゃない」
「女の子?」
 改めて自分の姿を見る弘美。
 学校帰りの女子校生の制服姿だった。
 学校から直接ファミレスに向かい、着替えてウエイトレスの仕事をして、終了後に再び
制服に着替えて、家に帰る途中に誘拐事件に遭遇したのだった。
 大慌てでヴィーナスの元に駆けつけたものの泥酔状態、困ったところにディアナが登場
して、その格好のまま追撃戦に参加していたのである。
「その可愛い女子校生の制服姿が似合う君なら、やはり可愛い声で優しく喋るのが本筋と
いうものだろう」
「勝手に女の子に変えておいて、よく言うよ。俺は男なんだぜ」
「違うぞ!」
 と、鼻同士がくっつくぐらいに顔を近づけて警告するヴィーナス。
「そもそも、君は女の子として生まれるはずだったんだ。運命管理局のちょっとした手違
いで男の子になってしまったのだ」
「そこは違うな。こいつの酒癖が原因だよ。プロローグを読めば判る」
 ヴィーナスを指差しながらディアナが横槍を入れる。
「こほん!」
 咳払いをして話を続けるヴィーナス。
「と、とにかく。弘美、あなたは女の子として生きるしかないのです。あなたが一人前の
女の子として生まれ変わるためなら、このヴィーナス全精力を賭けるぞ」
「ことわる!」
 拒絶する弘美。
 これまで男として生きてきたのだ、神の手違いだとしても、今更として女の子にはなれ
ないであろう。
 ことあるごとに男に戻せと言うしかない弘美だった。
「さてと……だ」
 ディアナが話題を変えるように話し出した。
「アポロの前に出ても、その男の子言葉でいる気かな?」
「アポロ?」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-9
2020.01.15

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-9

 やがてファミレスから二人の後を追うように黒服が出てくる。
「あ、あいつだ」
 飛び出そうとするのを、止めるディアナ。
「なぜ止める!」
「言っているだろ。すでに起きてしまった過去に干渉するなと」
「だからって黙って見ているのかよ」
「そうだ。おまえが出て行けば、おまえが二人になるってことだ。これが判るか?」
「う……」
 図星をつかれて、しどろもどろになる弘美。
 そうこうするうちに、黒服が愛をさらって行く。
「よし、いいだろ」
 というと、手のひらを上向きにして何やら呟くと、その上に小さな天使が現れた。
「あの、黒服が抱えている女の子を追いなさい」
「はあい」
 かわいい声で返事をすると、ぱたぱたと羽ばたいて黒服を追い始めた。
「エンジェルに尾行させるのか?」
「ああ。あの子は、黒服には見えないからな」
「なるほど」
 やがて黒服も小さな天使も空の彼方に消え去った。
「で、これからどうするんだ?」
「なあに大丈夫さ。これがある」
 と、スマートフォンを取り出した。
「スマホか?どこに隠し持ってたんだよ」
「秘密のポケットがあるのさ」
「ドラ〇モンかよ」
「これで天使と連絡を取れる」
「神でも電話するのか?」
「神を馬鹿にするなよ。天上界にはパソコンもインターネット環境も揃っているぞ」
「なんだよ、それ。エンジェルもスマホ持ってるのか?」
「彼女とは探偵バッチで通話できるぞ」
「少年探偵コナンかよ」
「ついでに天使の位置情報を表示することができるぞ、ほら」
 と見せ付けるスマホの画面には、赤い点滅が表示され動いていた。
「眼鏡レーダーじゃないんだな」
「そこまではパクレないわよ」
 スマホ画面を見つめる弘美とディアナ。
 と、突然スマホから音声が、
「あーあー。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
 聞こえた。
「なんだ?近くにハム無線局でもあるのか?」
「彼女からの通信だよ」
「あ、そう」
「感度良好だよ。何かあったか?」
 スマホに話しかけると、答えが返ってくる。
「今、黒服が大きな雲の塊の中に入っていきます」
「追えるか?」
「任せてください」
 通信が途絶えた。
「大きな雲の塊ねえ……」
 と空を仰ぐ弘美。
 すでに黒服と天使の姿は見えない。
 真っ青な空に雲一つ見えない快晴。
 なのだが、場違いとも思える巨大な雲塊がゆっくりと流れていた。
「入道雲じゃないな。どうやら、あの雲みたいだ」
 ディアナの言葉を受けて、
「もしかしたらラピュタか?中に城があってさ」
 弘美が推測する。
「うむ、そうかもな。アポロの居城があるのかも知れない」
 意外にも同調するディアナ。
「どうやって、空の上の雲に行く?」
「大丈夫さ。これがある」
 と突然姿を現したのは、ディアナの愛機。
天駆けるあまかける戦車だよ」
 古代ギリシャで使われていた、馬が戦車を引くアレだが、ソレは空を飛べる天馬が繋いであった。
「ソレで近づいたら、アポロに気づかれないか?」
「なあに、アポロは女以外は興味がないし、全知全能のゼウスの息子だ。たかが一般職の神相手には目もくれないさ」
「一般職ってなんだよ」
「知らないのか?」
「知るかよ」
「アポロから見れば、わたしはただの時間管理局の局長だし、ヴィーナスは運命管理局の局長だ」
「なるほど。ゼウスが国王とするならば、アポロは大臣で、ヴィーナス達は各省の政務次官というところか」
「そうなるな」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-8
2020.01.14

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-8

「で、どうやってアポロの元へ行くんだ?」
「わからん」
「わからんって……なんでやねん」
「ああ、アポロは居所をちょこちょこ変えるし、隠れ家なんかもあるからね」
「じゃあ、どうやって探すんだよ」
「愛を連れていったのは使徒だ。そいつを追いかければ判る」
「何言ってるの。そいつはとっくに空の彼方だ」
「わたしを誰だと思っている」
「天空の女神だろ」
「で、能力を知っているか?」
「天空を駆け巡り、時を操る……って、おいまさか!」
「そのまさかよ。愛が誘拐されるその時限に遡り、使徒の後を隠れて追いかけ、アポロ
の居場所へ案内してもらうのさ」
「なるほどな」

「では行くぞ」
「おうともよ」
 ディアナが手を前に突き出すようにして、
「ゲート、オープン!」
 と言うと、目の前に扉が現れた。
「なんだ?どこでもドアか?」
「ドラエ〇ンではないぞ」
 扉には【過去への扉】という札が掛かっていた。
「なんだよ、この札は」
「君にも理解できるようにしたつもりだが」
「そうか。では、ノックしてから入るのか?」
「なぜそうする?」
「部屋に入るときは扉をノックするのが礼儀だろう」
「その必要は無い」
 というとディアナは扉のノブを回した。
 目の前には、どこへ続いているか判らぬ暗黒の闇が広がっていた。
「着いて来い!」
 扉の中へと入ってゆくディアナに続いて、弘美も恐る恐る入る。

 暗い扉を抜けた先は雪国、ではなくて弘美が働いているファミレスの前だった。
「なんだファミレスじゃないか」
 行き交う人々の中に、見知った人物がいたので声を掛けようとすると、
「待ちなさい。ここは過去の世界だ、干渉することは許されない」
「未来が変わるとか、パラレルワールドに突入するとかか?」
「それもあるが、アポロに気づかれるかも知れぬ」
「触らぬ神に祟りなしか」
「まあ、そういうことだ。そもそも我々の姿はこの世界の人々には見えない」
「なんだ」
 ファミレスから弘美と愛が楽しそうに出てくる。
「ふうっ!疲れたあ」
 大きく伸びをする愛。
「それにしても……あの人、なんだろうね」
「例の客?まだ食べているのかな」
「ううん……どうかな。もう食べ終わってるんじゃない?」
 談笑しながら帰り道を歩く二人。
「同じこと喋ってるな」
「当たり前だろ」

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