あっと!ヴィーナス!! 第三部 第二章 part-12
2021.01.04

あっと! ヴィーナス!!(46)


第二章 part-12

 気が付いたら、地上世界のどこかの山地の中にあるというニューサの野原へとやってきた。
「どこにペルセポネーがいるんだよ」
 辺りを見回しながら、ペルセポネーを探している。
「ところで……この作り物の羽はなんだ?」
 いつの間に取り付けたのか、弘美の背中から羽が生えていた。
「恋のキューピッドだから、羽があった方が【らしい】でしょ」
「馬鹿らしい!」
 と言って背中に付けられた羽をむしり取る。
「あーん。似合っているのに」
 ヴィーナスが甘ったれた声を出す。

「ペルセポネーがいましたよ」
 エロースが指さす先に、目指す相手がいた。
 ニュンペー(妖精)に囲まれて、美しく咲く水仙の花を摘んでいる。
 物陰から観察する弘美達。
「なあ、白雪姫のリンゴのように、騙してザクロの実を食べさせるのはどうだ?」
「だめだな。ザクロは地上で食べても何でもない。冥府で食べるからこそ禁断の実となるのさ」

「狙うなら今だよ」
 エロースが指示する。
「そ、そうか?」
 弓矢を構える弘美。
「おまえ弓道の達人だったよな」
「あのなあ、俺は柔道だ!間違えたのは、これで二度目だぞ」

「大丈夫だよ。僕の弓矢は、狙った相手は絶対外さないから。精神集中して対象物に【当たれ!】と念じればいいんだから」
「そ、そうか?」

 その時、一陣の風が吹き荒れ、ペルセポネーの衣服の裾を巻き上げた。
 咄嗟に裾を手で押さえるが、
「おおおお!」
 弘美の目にはしっかりと残像として記憶された。
「おしい!後少しだった」
「なに見てるのよ!」
「なあ、女神ってパンツ履いてるのか?」
「もちろん履いているわよ。……な、何言わせるのよ!」
「そうか……履いているのか」
 女性の下着パンティーの歴史は古く、紀元前三千年頃の古代メソポタミアの壁画に描かれた腰に巻いた布がルーツとされている。
「あのお……ペルセポネー、行っちゃいましたよ」
「あんだとお!」
 ニューサの野原にペルセポネーの姿はなく、風がそよいでいるだけだった。
「あなた女の子でしょうが!女性の下着に興味を持つなんて……やっぱり調教が必要ね」
「そんなことより、ペルセポネーはどこ行った?」
 とにかく双葉愛ちゃんの命が掛かっているのだ。
 何としてもペルセポネーを篭絡しなければならない。
 自分側の保身のために、他者を陥れるのは気が引けるが、
「そんなことはどうでもいい!」
 と、考えるのも人間の性でもあろう。

 弘美の念が通じたのだろうか、ほどなくしてペルセポネーの住まいは見つかった。
 忍び足で侵入して、ペルセポネーを探す。
 何やら水音がする。
「風呂にでも入っているのか?」
 入り口から廊下を渡った先には、オイコスと呼ばれる台所。
 水音はその隣の部屋から聞こえる。
 脱衣所と思しき部屋があって、その奥が浴室のようだ。
 弓矢を構えながら、浴室をこっそりと覗く弘美。
「脱衣所に服が脱いであったから、今はスッポンポンだよな」
 弘美の口元が綻(ほころ)んでいる。
「何を考えておるか?」
「女の裸を見て感じるのか?そんなに見たければ、自分自身を見ればよかろう。何せファイルーZに選ばれたほどの美貌なのだぞ」
「俺自身?」
「今まで気づいていなかったのか?クレオパトラも羨むほどのな」
「さあ……女にされて動転していたし、鏡すらまともに見ていなかったからな」
 意外だという風の弘美だった。
 しかし身体は女になっても、心は男のままなのだ。
 綺麗な姉ちゃん見かけたら声を掛けたくなる。

 狭い脱衣所に大勢が入り込んだせいで、身体が押されて浴室のドアが開く。
「きゃあー!」
 悲鳴を上げるペルセポネー。
「ごめんなさい。覗くつもりじゃなかったんです」
 咄嗟に言い訳を言う弘美。
 突然の乱入に驚いたペルセポネーだったが、よく見れば全員女性、そして美麗な少年だ。
 気を取り直して尋ねる。
「な、なにかご用でしょうか?」
 こうなってしまえば、取り繕うこともない。
「実は、斯々然々(かくかくしかじか)というわけでして」
 ありのままに白状する弘美。

「いやです!」
 開口一番、強い口調で断る。
「そこをなんとか……」
「わたしは、処女神でありたいのです。お引き取り下さい」
 当然の反応であろう。
 弘美が躊躇(ちゅうちょ)していると、
「こちらにも都合があるのよ」
 と、ディアナが弘美から弓矢を取り上げて、ペルセポネーを射った。

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あっと!ヴィーナス!!第三部 第二章 part-11
2021.01.03

あっと! ヴィーナス!!(45)


第二章 part-11

「アポローンへの復讐は終わったんでしょ。手助けしてあげなさいよ」
 ヴィーナスが助け舟を出す。
「だったらこうしなよ。僕の弓と矢を貸してあげるから、そこの女の子に手助けしてもらいなよ」
「女の子? 愛ちゃんのことか?」
 キョロキョロと見回す弘美。
「どこ見てんのよ、あなたのことでしょ。愛君はここから動けないんだから」
「俺?」
「他に誰がいる?」
「ああ、そうだった。俺、女の子なんだった」
「何をいまさら」

「それで、ペルセポネーはどこにいるんだ?」
「今、手下に調べさせているからしばらく待て」
「ただ待つのはいやよ。酒を出してちょうだい!」
 と、ここぞとばかりにヴィーナスが訴える。
「仕方がない奴だな」
 会議テーブルが下がり、再び食卓が上がってきた。
 エロースを召喚して貰ったゆえに、断り切れなかったのである。
 早速酒の瓶を空にしてゆくヴィーナス。

「おまえ、それだけ飲んで酔っ払わないのか?」
「ああ、こいつは蟒蛇(うわばみ)だよ」
「だがよ。俺の家では、へべれけに酔っていたではないか」
「人間の酒だからだよ。混ざりものの麻薬(デソモルヒネ)みたいなもので悪酔い
する。神の酒(ネクター)は、泥酔することはない」
「そうなんだ……」
 ヴィーナスの意外な一面を見た弘美だった。
 そうこうするうちに、二人の手下が情報を持って帰ってきた。
 アポローンを見つけて石化を解き、冥府へと連れて来た二人だった。

「ペルセポネー様の居場所を探し当てました!」
「旅の扉のビーコンを置いてきましたから、いつでも現地に飛べますよ」
「でかしたぞ!食卓の食事を好きなだけ食べるがよい」
「ありがとうございます」
「いただきます」
 早速神の食事に手をつける手下だった。
 頼もしい目つきで手下を見つめるハーデース。
「アポローンの時といい、なかなかできる奴らだ」
 そして、弘美の方に向き直った。
「さてペルセポネーの居場所が分かった。今度は君たちの番だ」
「どうすりゃいいんだよ?」
「ここに旅の扉がある。飛び込めば、自動的にペルセポネーの所へ運んでくれるぞ」
「旅の扉? ドラクエだな。大丈夫なのか?」
「無論だ。ドラクエは11Sまでやり込んだからな」
 ゲームの事はさておき、ハーデースが旅の扉の前に一行を案内した。
 それは、まさしく扉で『ニューサの野原行き』という札が掛かっていた。
「なんだよ。やっぱり、どこでもドアじゃないか」
「ここで考えていてもしようがないわね。度胸を決めて扉の向こうへ飛び込みまし
ょう」
 ヴィーナスが背中を押す。
「わ、分かったよ。じゃあ、愛ちゃん行ってくるね」
「気を付けてね」
 愛が手を振って見送る。
「一応僕もついて行ってあげるよ。大切な弓と矢だしね」
 人質ともいうべき愛ちゃんだけを残して、旅の扉に飛び込む一行だった。

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あっと!ヴィーナス!!第三部 第二章 partー10
2021.01.02

あっと! ヴィーナス!!(44)


第二章 part-10

「儂が愛君を誘拐し、弘美君を呼び寄せたのには訳がある」
 ハーデースが切り出した。
「訳だと?アポローンのゼウスに対する復讐じゃないのか?」
「アポローンの復讐は、君がここへやってきたことで、すでに成し遂げておる」
「成し遂げた!?どういうことだ?」

「実を言うと、愛君が食べたものには、冥界の果実ザクロが含まれていたのだ」
「どういう意味だ?」
「ザクロを食べたものは、地上には戻れない」
「ヴィーナス!本当なのか?」
「ああ、一応そういうことになっておるな」

「馬鹿な!ちゃんとした人間の食べ物と言ったじゃないか!?」
「ザクロは人間界にあるものと全く同じだ。だから人間の食事と言ったのだ。ただ、冥界で食べたことが問題なのだ」
「結局騙したのと同じだろう!?インディアン嘘つかないって、嘘だったのか?エピメニデスのパラドックスじゃないか」
「パラドックス?ああ、確か『クレタ人はいつも嘘つき……云々』というやつか。自己言及のパラドックスだな。が、嘘つかないという場合は違うだろ?」
「そうなのか?ええい!どっちでもいいわい!!」
「まあまあ、落ち着きたまえ」
 ハーデースが場を取り持つように発言した。
「そうだな。君たちが儂に協力してくれるというなら、地上に返すこと考えてもよいぞ」
「協力?」
「儂がペルセポネーに惚れているのは知っておろう」
「ペルセポネー?」
「ゼウスとデーメーテールの娘よ」
「と言われても分らんぞ」
「分からないなら、黙っているのね」
「だが、ペルセポネーは処女神であることを宣言して、儂のことなど眼中にないのだよ」
「でしょうね。まずは、地の底へ来ようと思う神はいないわね」
「そこで、ペルセポネーが儂の方に振り向くように策を労じて欲しいのだ」
「まさか、ゼウスの娘を篭絡することで、天地海分けジャンケンの時の復讐をするつもり?」
「ちがう!ちがう!!儂は本気でペルセポネーに惚れておるのじゃ」
「本当かしら?」
 一同疑いの目。
「頼む!協力してくれはしまいか?」
「つまり俺らに、恋のキューピッドになれということか?」
「有体(ありてい)に言えばその通りだ」
「具体的にどうすれば良いのだ」
「ここは一番愛と美の女神に手助けをしてもらおう。そのために、愛君と弘美君を餌にしたのだ」
「え?わたしですか?」
 ヴィーナスが意外という表情をしている。
「ヴィーナスの手下にエロースがいるだろう?」
「ああ、アポローンの目の前でダプネーに鉛の矢を討って、アポローンをダプネーに恋慕させるようにした悪戯(いたずら)少年ですね」
「ああ、思い出したぞ。ダプネーはアポローンから逃げ回って、結局追い詰められて月桂樹にしてもらった、という奴だな。おい、アポローン。そうだろ?」
「あ、ああ……」
 苦虫を潰したような表情になるアポローンだった。
 アポローンは女漁りが日常の女好き。
 それがエロースの罠とはいえ、真剣にダプネーに惚れて追い回したのだから。
「ともかく、エロースを呼んでくれないか?」
「いいけど……」
 というわけで、エロースが召喚された。
「なんで僕が協力しなくちゃいけないの?」
 突然冥府に呼び出されて、協力を打診されたエロースは不貞腐(ふてくさ)れている。
「だいたい僕を嘲(あざ)笑ったアポローンの手助けもすることになるんだろ?いやだね!」
 エロースは、その弓と矢で男女の恋心を弄(もてあそ)んで楽しんでいたのだが、アポローンに叱責された恨みがある。
 その復讐で、アポローンを弓で射って操ったのだが……。
「そこをなんとか……」
 ハーデースが懇願する。

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