梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(八)未来に向かって
2021.05.11

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(八)未来に向かって

「なるほど、そこまでお考えでしたか」
 代わって麗華が説明を続ける。
「高出力原子レーザー発振器の開発は、AFC直属の機関として高エネルギー研究所を新たに設立して、すでに基礎研究に取り組んでおります。篠崎さんに担当していただきたいのは、恒久的な月面基地と原子レーザー発電機の開発ですが、もう一つ中間基地としての宇宙ステーションの建造があります」
「宇宙ステーションですか?」
「そうです。原子レーザーといっても、大気中では減衰が激しく実用には向かないでしょう。宇宙ステーションに搭載すれば、大気の減衰もなければ、BEC回路や超電導素子を作動させる極超低温も、宇宙空間という天然の冷却材が利用できます。原子レーザーの本格的な運用は、宇宙ステーションが完成してからになるでしょう」
「理にかなっておりますな。が、問題は人材の確保と資金面です」
 再び梓が答える。
「その点に関しましては、アメリカの大幅な予算削減であぶれたNASAなどの研究者を一部登用しますし、研究資金は当方で用意いたします。といいますのは、これらの計画実行にあたっては、篠崎重工とAFCの資金提携による合弁事業としたいのです」
「合弁事業?」
「はい。新たにアメリカ国籍企業としての篠崎重工アメリカを設立し、そこで開発していただきたいのです。これはアメリカ政府と軍の干渉を少しでも和らげる苦肉の策でもあります」
「つまりアメリカ国籍企業なら、アメリカの国益にもつながると判断すると?」
「そうあってくれるといいんですけど。それに莫大な金額になる研究開発費税額控除が、アメリカにおいては日本より格段に優遇されていますからね。例えばエレクトロニクス分野などは、法人税が五分の一ですみます」
「なるほど……。それで合弁事業のことですが」
「資本金は両者の折半でいかがでしょう。全額こちらで出資してもよろしいのですが、その場合はAFCグループの傘下に入ることになります。どちらにしても、実際の会社の運営は篠崎重工側におまかせします」
「AFCは金は出すが口は出さないというのが基本政策でしたな」
「もちろん計画の提案者がこちら側ですので、多少の諮問はするでしょうけど」
「わかりました。我々二人だけで結論は出せないので、重役会議にはかってみることにします。しばらく時間をいただますか?」
「結構です」

 莫大なる資産を有するAFC代表となった梓の最初にして壮大なる開発計画が始動しはじめた。
 今後二十年間の間に、宇宙に人類を住まわせるというコンセプトではじめられた、今回の新規事業組織の内訳は、主だったものだけでも以下のごとくである。
 高エネルギー研究所、原子力発電協会、極超低温冷媒製造保管基地。
 宇宙貨物輸送協会、スペースシャトルバス開発機構、月面調査開発協会。
 ロケット推進技術研究所、宇宙航行体構造物研究所、宇宙船内生命維持装置研究所。
 火星探査協会、スペースコロニー研究開発機構、宇宙移民局設置準備室、宇宙環境問題委員会、宇宙資源開発国際協力会議。宇宙飛行士養成協会。
 原子力兵器諮問委員会。
 そして篠崎重工アメリカ側の事業としては、
 宇宙ステーション開発事業部、月面基地開発事業部、原子レーザー発電事業部の三部門が設立された。
 などなど、今後二十年間で資本投下される金額は、真条寺財閥の総資産の三分の一に相当する二十兆ドルにおよぶ。
 そしてこれらの頂点に立つのが、一介の女子高生、AFC代表の真条寺梓十六歳である。

 ブロンクス屋敷バルコニー。
 午後のティータイムをくつろく渚が、美恵子からの報告を聞いている。
 話題は、梓の宇宙開発計画についてである。
『新たなるフロンティアスピリッツだと絶賛の声が上がっています。新企業に採用される従業員は総勢七十万人におよび、完全失業者がいっきに減少して産業界からは拍手喝采で歓迎されています』
『議会の方はどうなっていますか?』
『はい。例の「宇宙産業分野における研究開発費税額控除特別法案」をハンフリー上院議員を通して上申していましたが、まもなく法案は可決成立する見込みとなっております』
『政府に干渉することは、梓が嫌うところだけど、これだけは目をつぶってもらわなくてはね』
『そうですね。宇宙開発には莫大な研究開発費が必要です。今後最低十年間は研究開発のみが続くでしょうし、本格的な宇宙ステーション等の建設がはじまるのはその後十年間といいますしね』
『AFCの総資産の三分の一を投入するのですから、出来うる限りの策を施しておいておかなければ』
『しかしお嬢さまも、思い切ったことを決定されましたね』
『これからは梓の時代です。宇宙開発はその根幹となる事業となるでしょう』

第二章 了

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(七)新規事業
2021.05.10

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(七)新規事業

『とにかく、彼が十八歳になって正式にプロポーズしてきたら、あなたは断ることはできないの』
『お母さんは、慎二とあたしの結婚を認めているというわけね』
『まあ、反対はしないわよ』
 うなだれる梓。
『ねえ、お母さん……慎二は、このこと知っているの?』
『知らないでしょうねえ。自分が婚約者の権利を得たことも、花婿候補だったことすらも知らないはずよ。くわしい事情を説明する暇がなかったのよね』
『だったら、このまま黙っててくれないかな……』
『いいわよ。どうせ、彼もしきたりのこと知らなかったはずだし』
『ありがとう、お母さん』
『それはいいけど、しきたりの載っている家訓帖ぐらいちゃんと読みなさいよね』
『だってえ。漢字がのたくったように走っているみたいで、全然読めないんだもの』
『それをいうなら、漢字の草書っていうのよ』
『ねえ。あたしにも読めるように英文に翻訳してくれないかなあ。家訓帖』
『仕方がないわねえ。草書が読めたとしても、文語体で書かれているから、梓には理解できないでしょう』

『ところで、話しは変わるけど、あなた衛星事業部を視察したそうね』
『ほんとに、変わるわねえ……』
『その衛星事業部から新規の研究開発に関する企画議案書と融資依願書が提出されているわ。せっかくだから、この案件はあなたが決済しなさい』
『あたしが?』
『そう。企画議案書によく目を通して、自分の判断で決定していいわ。わたしは一切口を出さないから』
 二つの書類を渡されて当惑する梓。
『衛星事業部か……』
 麗香と視察した研究所を思い出しながら、
『予算が、五千億ドルねえ……』
 じっと書類に目を通している梓。
『ふうん。そうか……なかなか面白そうじゃない』
 と、ぶつぶつ言いながら、その詳細な説明書を読みはじめた。
『原子レーザー発振器ねえ。これが最大の課題みたいね』
 梓は麗華を呼び寄せると、二つの書類の決裁に踏み切った。
 法的に有効なる決済書類を梓が作成できわけもなく、麗華に手伝ってもらってことにする。
『はい、結構です。それでは、こちらにご署名をお願いします』
 言われた通りに決裁書に署名する。
 もちろん英文字によるサインであるが、印鑑などというものを押印せずともそれで書類が有効となる。
『これで完了です。AFC統括事業部に送達すれば、後は向こうですべてが動き出します』
『ありがとう』
『どういたしまして』

 真条寺邸バルコニー。
 いつものようにティータイムの渚と美恵子。
『お嬢さまは、衛星事業部の五千億ドルの研究開発を承認されたようですね』
『梓が決めたことですから、私のとやかくいう筋合いではありませんが、問題が一つ』
『問題と言いますと?』
『大出力の原子レーザー発振器は、ともすれば核爆弾にも匹敵する原子力兵器となりえます。軍事レベルでの極秘開発が必要となりましょう』
『そうですねえ。今まではSFだった、プロトン砲や粒子ビーム砲などの科学兵器が実現可能になりますからね』
『ここは大統領とも相談して』
『ちょっと、やめてよね。お母さん』
 背後にいつの間にかネグリジェ姿の梓が立っていた。
『梓! まだ、寝てなかったの』
『寝る前に挨拶しようと寄ったのだけどね……それより、何よ今の話し。お母さんたら何かっていうと、大統領とか太平洋艦隊司令長官とかの力を利用するんだから』
『そうは言ってもねえ』
『いつまでもアメリカ軍に頼ってばかりいては、真条寺家の独自性が失われてしまうわ。今後はAFCを軸として独自路線を切り開きたいの。AFC単独の宇宙ステーションを打ち上げ、さらには火星への移住だって考えているんだから。火星ロケットや火星基地にエネルギーを恒久的に伝達する方法としての、原子レーザー発振器の開発は急務なのよ。アメリカ軍の手助けはいらない』
 いつになく強い口調の梓だった。新規事業に対する意気込みからだろうと思われる。
『決済を任せる、一切口出ししないと言ったのだから、その運用もすべて任せてくれるんじゃなかったの?』
『ごめんね、梓。お母さんが、間違っていたわ。出過ぎたまねをしたわね。AFCの代表はあなただったのよね。あなたの好きなようにして』
『ありがとう。お母さん』
 後ろから渚に抱きつくように手を回す梓。
『これからはあなたの時代。好きなようになさい。困ったことがあったらいつでも相談に乗るわよ』
『うん、判った……』
 母と娘の仲睦まじい光景であった。


 さらに数日後の衛星事業部の所長室。研究所員が飛び込んで来る。
「所長! 例の案件、通りましたよ。AFCから融資決定の書類が届きました」
「ほんとうか! 五千億ドルの予算だぞ」
「間違いありません。そして、梓お嬢さまのお言葉も添えられてありました」
 梓の礼状を開いて読み始める研究所所長だったが、
「英語だな……」
 ぼそりと呟く。
「そりゃそうですよ。英語圏で育った生粋のアメリカ人ですからね。ちゃんとした文章を考え記述するのには、日本語だと自信がなかったのかも知れません」
「まあ、そうだな」

『所員のみなさん。先日はわたくしのために、忙しい中いろいろと案内やご説明を頂き本当にありがとうございます。研究成果というものは、一朝一夕で出来上がるものではないかとおもいます。些細な研究でも、毎日こつこつと積み重ねていけば、やがて大きな成果となって現れることもあるのでしょう。
 ただ、わたくしが危惧することは、利益だけを追求したり、特許申請の数を競うだけの研究であってはならないということです。もっと大らかに、社会に貢献したと誇れるような、素晴らしい研究をしていただきたいと思います。日々精進努力する姿は美しいと思います。
 わたしは、そんな所員の皆様方を心の底から応援したいと思います。ありがとう』

「よし、研究開発の大号令を発する。二十年計画の予定だったが、十五年いや十年で開発を完了してみせようじゃないか。社内報にお嬢さまのお言葉を添えて号外で載せろ」
「わかりました!」
「わたしは、所員の皆様方すべてを心のそこから応援します、か。さすが、梓お嬢様だ」

 それから数日後。
 篠崎重工の社長室のそばにある特別応接室。
 梓と麗香、篠崎良三と花岡専務が一同に会していた。麗香だけが梓のそばで立って、商談の成り行きを見守る立場にあった。執行代理人としてグループ内でもナンバー3として強大な権限を持つ麗香でも、梓本人が同席している場では秘書的な地位しかなく、直接商談には加われないのだ。
 総資産六十五兆ドルを自由に動かせる梓と、二十億ドル程度の自由決済予算しかない麗香、主従の関係にある二人にはおのずと踏み越えられぬ垣根が存在するのだ。梓にしてみればたった二十億ドル程度かも知れないが、それを自由に動かせる麗香には、目の前の篠崎・花岡ですら頭が上がらないのである。
 梓がいかに雲の上の人物かがよくわかるだろう。
「しかし梓さま自らお出でになられるとはいかなご用でございますかな」
「麗香さん、あれをお見せして」
「かしこまりました」
 麗香が書類ケースから取り出して、二人の前に差し出した。
 それは衛星事業部が梓に提出した、
『高出力原子レーザー発振器による、月面移動基地への高エネルギー伝送実験の企画議案書』
 であった。
「目を通していただけますか?」
「拝見いたします」
 書類に目を通してしばらくすると、二人の表情がこわばるのが手に取るように見えた。
「高出力原子レーザー発振器ですか……」
「ぶっそうな代物ですな」
 二人は、それが何物であるかをすでに理解しているようで、その危険性を指摘してきた。
「確かにこれが開発できれば宇宙開発における画期的な進歩が訪れるでしょう、反面として、将来における宇宙戦争の強力な武器をも手に入れることにもなります。戦争と平和両面における慎重な検討が必要かと存じますか」
「原子力兵器への転用は、私どもも苦慮しております。しかし、核爆弾と原子力発電、戦闘機とジャンボ旅客機、大陸間弾道弾と宇宙ロケットなどにみられますように、新技術には必ずと言っていいほど、戦争と平和の両面性を兼ね備えております。 今のコンピューター時代も、有名な『エニアック』という弾道計算に使われた電子計算機が最初です。戦争のために開発された技術が平和利用されて、わたし達の暮らしを支えているものも数多く存在します。
 この高出力原子レーザー発振器も、善と悪が紙一重でありますが、だからといって開発を躊躇していては、未来はいつまでたっても訪れてはきません。人類の歴史がそうであったように、たとえ宇宙戦争を引き起こす要因となったとしても、その後に来たるべく明るい平和と進歩が約束されるならば、わたしは開発に着手すべきものだと信じています」

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(六)結婚許諾か?
2021.05.09

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(六)結婚許諾か?

 数日後。
 ブロンクス本宅のバルコニーで、お茶の時間に会話する梓と渚。第一・三土日は、母親のもとで過ごすことにしている梓だった。もちろん真条寺家の執務も休みである。また世話役の二人も水入らずの母娘の会話を邪魔しないように席を外している。
『梓、眠くないの?』
『大丈夫よ。飛行機の中でぐっすり寝たから』
『無理して、私達に合わさなくてもいいのよ。会いに来て元気な姿を見せてくれただけで、母親として嬉しいんだから』
 渚が心配しているのは、日本とニューヨークの時間差、昼と夜がほとんど正反対になっているからだ。今こちらでお茶を楽しんでいる時間は、日本ではぐっすり眠っている時間であるからだ。本来なら眠っている時間に無理に起きていて、体調を崩して欲しくないと切に心配しているのだった。
『そうは言ってもお母さんが寝てる時に起きてて、起きてる時に寝ていたんでは、こちらに来た意味がないわよ。麗香さんには、寝ていなさいと言ってあるけどね』
『しようがない娘ねえ……』
『時間の問題がなければ、絵利香も連れて来るんだけどね』
『慎二君とは、その後うまくいってる?』
 突然話題を変えて切り出す渚。
『なんで慎二が出てくるの?』
『だって、好きなんでしょ』
『だ、誰が、好きなものか。ただの喧嘩相手だよ』
『でも喧嘩するほど、仲が良いっていうじゃない』
『そんなこと……』
 否定できない梓だった。
『ともかく、あなた一人だけでなく彼もたまには一緒に連れておいでよ』
『なんでなのよ。どうしてそんなに肩入れするの?』
『一応、沢渡君はあなたの婚約者ということになってますからね』
『こ、婚約者……、いつからそんな話しができてるのよ』
『あなた誕生日に、招待された俊介君と彼を戦わせたじゃない。そして彼は、見事俊介君に勝ったわよね』
『それがどうしたのよ』
『しきたりのなかにあるのよ。真条寺家の娘を嫁にしたき者は、娘が指名した者と戦って打ち勝つべし、さすれば望みをかなえよう。とね』
『そんなしきたり、知るわけないじゃない』
『真条寺家の娘と花婿候補の男性が決闘することを承認することは、すなわち結婚を許諾したことになるのよ。そういうわけだから、彼はあなたと結婚する権利を持っているわけ』
『承認ったって、単に決闘に立ち会っただけじゃない。それに花婿候補ってどういうことよ』
『立ち会えば承認したことになるのよ。神条寺家が婿候補として西園寺俊介君を送り込んできていたのは知ってるわよね』
『知ってるわよ。馴れ馴れしくて嫌気が差してたんだ』
『そもそも、真条寺家の娘が十六歳になるということは、法律上結婚が許されると同時に、花婿候補選びがはじまることを意味しているのよ。家督長であるあなたに限らず、一族郎党すべての娘がね。あのパーティーに出席した若者の大半が、真条寺家にゆかりのある由緒ある血筋の中から厳選された花婿候補だったのよ。麗華さんが一人一人あなたに紹介していたはずだけど。その最後に沢渡君が紹介されたはずよ。彼は私の推薦として特別に候補に入ってもらっていたの。一応命の恩人として、その権利があってもいいでしょ』
『そうだったのか。どうりで馴れ馴れしいやつらと思った。自分が花婿に選ばれようと精一杯だったんだ。その中に紛れ込んできたのが俊介というわけね。もっとも慎二はえさに釣られてやってきたんだろうけど』
『まあ、そういうことね。一応血筋には違いないから、向こうからの祝辞を持ってきた俊介君を断るわけにはいかなかったののよ』
『祝辞ねえ……それ持ってると、誰でも受け入れるしかないんだな』
『まあね、社交上の礼儀よ。例え「村八分」を受けていても冠婚葬祭なら参加しようということね』
『なにそれ? 村八分って、どういう意味?』
『日本の古いしきたりの一つでね、直訳すれば「Ostracism」追放ということになるのだけど。意味が違うわね。八分の残りは葬式と火事の二分ということ。仲間はずれにはするけど、葬式と火事には助け合うという精神よ』
『でさあ……でさあ。その村八分はともかく。決闘に立ち会っただけで、なんで結婚を承認したことになるわけ?』
『それも真条寺家のしきたりよ。決闘して勝った者を花婿とすると決められているのよ。それを知ってか知らずか、あの二人が決闘をはじめて、それにあなたが立ち会った。その他の花婿候補の人たちも、沢渡君が花婿候補だと知らされていたはずだから、決闘で勝利したのをみて、しきたりということで、諦めて全員途中で帰ってしまったわ』
『決闘の後、急に閑散としたような気になったのはそのせいだったのか。でも、たかが決闘ぐらいで、花婿が決められるなんて……』
『真条寺家の跡取り娘でなければね。梓、あなた、自分の立場がどれほどのものかということ、真剣に考えたことあるの? 一国の王にも匹敵する財力と権力を持ち、世界経済を自由に動かすことができるのよ。こんなこと言いたくないけど、一般庶民が手を触れることすらかなわないあなたの御前で戦われた決闘の勝者に、祝福を与えるつまり結婚を承諾するのは当然の義務なのよ』
『そんなこと……』

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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(五)研究開発
2021.05.08

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(五)研究開発

 研究所応接室。
 一通りの視察を終えてくつろぐ梓たち。
「最新の研究施設を拝見できて、とてもためになりました。今後もより一層の研究開発の努力をお願いいたします」
「もちろんです。所員一同、梓さまのために精進努力を惜しまないつもりです」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 所長の秘書が差し出したお茶をいただきながら質問をする梓。
「ところで、研究開発となると、いろんな企画案件が提出されていると思いますが、何を選出基準にしていらっしゃるのですか」

「最新の目玉とかいうのはないのですか?」
「そうですね。今一番力を入れているのは、高出力原子レーザー発振技術ですかね」
「原子レーザー? 普通のレーザーとは違うのですか?」
「簡単にご説明致しましょう」
 所長が梓にも判るような範囲で説明を始めた。

 内容は量子理論から導かれる技術の集大成でもあった。
 原子レーザー発振技術は、ある種の原子を絶対零度に近い極超低温状態にさらした時、原子の固有振動の波長と位相が均一にそろって、いわゆるレーザー状態を呈してくる現象を利用している。レーザーとしての性質を持つに至った原子をビーム状に増幅収束して射出する。
 通常のレーザーが光子(フォトン)であるのにたいし、重粒子である原子を利用するためにエネルギー効果値は桁違いに大きく、その破壊力はすさまじい。なおかつレーザー特有のエネルギー減衰ロスが小さく拡散しないので、宇宙通信やエネルギー伝達の主役になると見込まれている。なお、悪用すれば超新星爆発{BozeNovaと呼ばれている}に匹敵する破壊力をも実現することも可能である。
 原子レーザーを可能にする極超低温状態にある原子がとる特異現象は、二十世紀前半において、インドの物理学者ボーズの理論をもとにアインシュタインが予言したもので、両者の名をとってBEC{ボーズ・アインシュタイン凝縮}と呼ばれており、
1997年1月27日、MIT{マサチューセッツ工科大学}において最初のレーザー発振実験に成功している。

「じゃあ、例えばウランやプルトニウムを原子レーザー化して月とかに掃射すれば、遠距離核爆発を引き起こすことも可能ですか?」
「まあ……すべての原子をレーザー化できるというものではありませんが、不可能とも断言できませんね。しかし、原子レーザーそのもののエネルギーが、ものすごい破壊力を持っていますので、核物質にこだわる必要はありません」
「ふうん……そうなんだ」
「科学小説でプロトン砲とかいうのを聞いたことがありませんか?」
「あるある。聞いたことあるよ」
「早い話が、水素原子核の陽子だけでも、それを原子レーザー砲として利用すれば、陽子の特異作用によって、対象物を破壊することが可能なのです。場合によっては核融合反応を凌ぐエネルギー効果を発生させることもできます」
「プロトン砲が実用化してるのですか?」
「まだ研究段階ですが、陽子レーザー砲による破壊実験には成功しております。厚さ一メートル程度のコンクリートブロックならほんの数秒で破砕できます」
「すごい! すごい! 科学小説の夢物語が実現すぐそこまで来ているんだ」
 小躍りするように感激している梓。

 それから小一時間ほど所長の解説に夢中になって聞き入っていた梓。
「お嬢さま、そろそろご帰宅のお時間です」
「あら、もうそんな時間なの?」
 麗華の言葉で、研究報告ともいうべき所長の解説の時間が終わった。
「とてもためになりました。また今度お伺いしてもよろしいですか?」
「いつでもお越しくださいませ。歓迎いたしますよ」
「ありがとう」

 玄関前にてファントムⅥに乗り込む梓を見送る研究所員。
「みなさん、お忙しい中、どうもありがとうございました」
「どういたしまして、またのお越しをお待ちしております」
 白井が後部座席ドアを閉める。
 窓の内側から手を振る梓。
 それに応えて手を振る所員たち。
 やがて静かに、ファントムⅥが滑り出すように走り出す。
 その後ろ影を見送りながら、所長が呟くように言った。
「高出力原子レーザー発振器による、月面移動基地への高エネルギー伝送実験の企画議案書を提出してみるか」
 それを聞きうけて別の所員が答える。
「これまでは、原子レーザー発振器の開発と、無人月面移動基地と原子レーザー発電装置の開発に、莫大な予算が必要でしたから、本格的研究は棚上げになっていた計画ですよね」
「ああ、高出力原子レーザービーム発振器の開発には、高電力を連続供給する原子炉と、超電導回路及びBEC{ボーズ・アインシュタイン凝縮}回路を維持するための極超低温発生装置など、最低でも五千億ドルを越える予算が必要だからな」

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梓の非日常/第三部 神条寺家の陰謀 part-1
2021.05.07

第三部 神崎家の陰謀
ノベルアドベンチャーゲームシナリオ(小説版)


part-1

 目が覚めると、何も見えない暗闇だった。
「ここはどこだ?」
 どうやらベッドの上に寝ているようである。
「くうっ!頭が痛い……」
 どうやら、誰かに催眠剤のようなもので眠らされて、ここへ運び込まれたようだ。
「……」
 思い出そうとするが、何も思い出せない。自分が誰なのか?名前さえも覚えていない。
 いつまでもこうしていても仕方がない。彼は、ベッドを降りて辺りを探り始めた。
「出口はどこだろう?」
 何も見えないので、慎重に足を運ぶ。
「痛い!」
 何かに躓(つまづ)いて転んでしまう。


 ともかく、この現状を打破するためにも、
 調べる以外にないだろう。
 床をまさぐるようにして、
 躓いた何かを触ってみる。
 何か生暖かい物に触れた。
 さらに場所を変えて触っていくと……。
「足だ!」
 人間の足のようだった。
 なんで人間が倒れているのか?
 生きているのか?
「あの、あなた……」
 声を掛けてみるが、返事はない。
 足から胴体へと移っていく。
「服を着ていない?」
 裸のようであった。
 胸のところにきた時、なにかヌメヌメした液体に触れた。
 裸でヌメヌメした液体……。
「血だ! 死んでいる?」
 どうやら、血を流して倒れている。
 驚いて、その身体から離れ引き下がってしまう。


 人死には怖いので、部屋を調べることにする。
 四つん這いで壁際にたどり着いた。
 立ち上がり壁沿いにドアがないか調べはじめる。
 手を一杯に上へ伸ばしたり、
 床付近まで降ろしたりして感触を頼りに、
 丁寧に壁を調べて回る。
 ドアが見つかった。
 しかし鍵が掛かっているようで、
 ドアノブをガチャガチャ動かしてみたり、
 体当たりして開かないかチャレンジしたが、
 びくともしなかった。
 鍵穴らしきものはあった。
「鍵が必要だな」
 念のため四回、部屋の角を回ったが、
 他に出口らしきものは見当たらなかった。
 鍵ならば、床に倒れている人物が持っているかもしれない。
 もう一度、人物を調べてみるしかないようだ。
 人物の所に戻ってみる。
 手探りで調べると、胸にナイフのようなものが刺さっていた。
 やはり死んでいるようだ。
 血液が完全に固まっていないところをみると、
 死んでからそう時間は経っていない。
 結局何も身に着けていないことが分かった。


 他に調べられるとしたら、
「俺の寝ていたベッドか……」
 自分が寝ていたベッドに戻って調べ始める。
 鍵が見つかれば良いが、
 なければせめて明かりが欲しいところだ。
 暗闇の中、手探りでは見つかるものも見つからない。
 布団を退けたり、枕の下を探ったりしたが、何も見つからない。
 つと、つま先にコツンと何かが当たった。
 コロコロと転がる音。
「何だ?」

 音を頼りに、その何かを探し求める。
「確か、この辺で止まったような気がするが……」
 手探りで床をくまなく探すと、それは見つかった。
「百円ライターか!」
 千載一遇(せんざいいちぐう)の好機。
 これの火が点けば現場がはっきりと見渡せるはずだ。
 ただし、遺体の惨状も目に飛び込んでくることになる。
 しかし躊躇していられない。
 ここから出るためには、そんなことは言っていられないのだ。

 無臭の引火性ガスが漂っていたら一巻の終わりだが……。
 しかし、明かりがなければ解決の糸口を見つけることも叶わない。

 ライターの火を点ける。
 真っ暗闇の中に、ライターの火が辺りを照らした。
 床に倒れている人の姿が浮かび上がる。
 どうみても裸で死んでいるとしか思えない。
 人の方には意識しないようにして、周囲を見渡す。
 部屋の中は、殺風景なまでにベッドしかなかった。
 窓はなく、出入り口はあのドアだけなのか?
 そのドアの壁際に照明用のスイッチらしきものがあった。
 暗闇で調べた時には気がつかなかった。

 スイッチを入れて照明が点いたら、 犯人に察知されるかも……。
 そう思ったが、心細いライターの灯りだけでは、物を探すのは辛い。
 スイッチを入れてみると点かなかった。
「電気が通じていないのか?」
 天井の照明に向けて、ライターをかざしてみる。
 蛍光管が入っていなかった。

 ずっとライターを点けていたので、手元が熱くなってきていた。
 ガスが無くなっては大変だ。
 火を消し、ベッドに腰かけて考えることにする。
 これまでのことをまとめてみる。

・そもそも、自分がここに運ばれた理由や経緯。
・そして何より、床に倒れている遺体。
・遺体のナイフはいずれ役に立つかもしれない。
・ドアを開けるには鍵が必要。
・部屋をくまなく捜索するには、やはり天井の照明が重要だろう。
 点くかどうかは不明だが。
・ライターのガスには限りがある。


 考えても分からないので、捜索を再開することにする。
 ライターを点けて、もう一度部屋の中を見渡した。
 ベッドと遺体の他は何もない。
「……? ちょっと待てよ」
 彼は気が付いた。
 遺体から流れ出た血液が、一部途切れていたのだ。
 それも直線的にだ。
 まるで吸い込まれるように……。
 よく見ると床に正方形の溝があり、埋め込み半回転式の取っ手が付いていた。
 台所によくある床下収納庫のようなものではないのか?
 遺体のナイフを不用意に抜いて、さらに血が流れていたら、溝を埋めて気付かなかったかもしれない。
「もしかしたら、この下に何かあるのか?」
 遺体に怖がって注視していなければ、完全に見落としていた。
 ただ、遺体が上に乗っているので動かさなければ、蓋を開けられない。
 触るのは怖いが……。
 遺体を動かして、床下収納庫を調べることにする。

 蛍光管と懐中電灯があった。

 懐中電灯のスイッチを入れると、点いた!
「やったあ!」
 思わず声を出して喜ぶ。
 さらに天井の蛍光灯が点けば、この部屋全体をくまなく調べられそうだ。
 蛍光灯を点けたまま床に置いて、ベッドを蛍光灯の真下に動かし、蛍光管を取り付けた。
 そしてドアそばの照明スイッチを入れた。
「点いたぞ!」
 蛍光灯の明かりが、こんなにも頼もしく感じたことはない。


 ライターに比べれば、眩いばかりの光によって、捜索は捗るかと思われる。
 今まで気づかなったことも明らかになるだろう。
 もう一度念入りに部屋の中を探し始める。
 壁に色が変わっている場所があった。
 手のひらを当てて、右にスライドさせると、中は戸棚となっていた。
「鍵だ!」
 十本くらいの鍵の束が入っていた。
「これで扉が開くか?」
 小躍りしてドアの所に駆け寄る。
「だめだ! 合わない」
 いずれの鍵もドアの錠前には合わなかった。
 消沈するが、鍵は後で役に立つかもしれないと持っていることにした。

「待てよ。床下収納庫って確か……」
 思い出した。
 床下収納庫は、ボックスが外せるようになっていて、
 床下に入れるようになっているはずだ。
 ここにはもう何もないようだ。
 床下に降りることにする。
 ボックスを枠から外して床下に降りる。
 遺体に突き刺さったナイフが目に入った。

 そうだ!
 自分を閉じ込め、殺人を行った犯人がまだどこかにいるかもしれない。
 身を守るためにも、武器は必要かも知れない。
「なんまんだぶ……」
 ナイフを引き抜いた。
 血液がいくらか流れたが、広がるほどではなかった。凝固が始まっていた。

 懐中電灯片手に、床下へと降りる。
 念のために床下収蔵庫の蓋を閉めておいた。
「ここにも遺体がありませんように」
 殺人事件ではよくある話で、床下や天井裏に隠すものだが。
 上の方で、ドカドカと大勢の人間の足音が聞こえて来た。
 どうやら警察官が入ってきたみたいだ。
「人が倒れています! 死んでいます。 なんだこれは! 毒ガスだ、一旦退避しろ!」
 そんな叫び声が聞こえてきた。
「危なかったな。いずれここも見つかるだろうが、しばらくは時間稼ぎができる」
 祈りながら、床下を懐中電灯で照らす。
 這いずり回っていくが、本当に別の出口があるのか心配になってくる。
 そもそも、今は何時なのだろうか?
 昼なのか夜なのか……。
 今のところ完全に閉ざされた空間ばかりなので、外からの光が入ってこないから、判断不能であった。

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