あっと!ヴィーナス!!第三部 序章・前編
2020.12.09

あっと! ヴィーナス!!


序章 前編


 ここはイタリアはローマの美術館である。
 深夜、そこへ侵入した二つの怪しい影。
 キョロキョロと辺りを探っている。
「この辺りだと思うんだが……」
「あれじゃないか?」
 広場の中央に設置された石像に駆け寄る。
 それは、ギリシャ神話で語られるアポロンの石像だった。
「これだ!これに間違いない!!」
 二つの影は頷くと、石像を台座から引きはがした。
 突然、鳴り響く防犯警報の音。
「やべえ!急ぐぞ」
 石像をヒョイと肩に担いで、運び出し始めた。
 しかし、さすがに石像だけにかなり苦労しているようだった。
 やがて聞こえてくるパトカーのサイレン。
「まずいな……」
「おい!あそこにあるのは、下水道じゃないか?」
 広間の隅に、マンホールの蓋を発見する。
「よし、ここから逃げようぜ」
 蓋を開けて、石像を慎重に下へと降ろす。
「蓋を閉めるのを忘れるな」
「分かってるよ」
 下水管に設けられた側道を伝っていずこかへと消える二つの影。

 ローマ郊外のとある洞窟。
 夕暮れとなり、たくさんの蝙蝠(こうもり)が出入りしている。
 その洞窟の奥の方に蠢(うごめ)く影があった。
「よっこらしょっと!」
 抱えていた石像を地面に横たえる影。
「何とか警察をまいて逃げてこれましたね」
 服の袖で汗を拭いながら安堵のため息を付いている。
「さてと……そいじゃ、取り掛かるとしますか」
 傍らに置いていたバケツから、何やら取り出して石像に塗り始めた。
「ちょっと臭いですね」
「我慢しろよ」
 それは、蝙蝠の糞だった。
「この方法で、本当に石化が解けるのでしょうか?」
「間違いないよ。冥界ジャンプで読んだ漫画に描いてあったぞ」
「それって確か……『Dr.石像』とかいう奴ですよね」
「おうよ。科学考証もかなり正確に描いているし、大丈夫だろう」
 さらに蝙蝠の糞を塗りたくる。
 石像の表面は糞だらけとなった。
「しかし……さすがに臭すぎます"(-""-)"」
「我慢しろよ」
 そして、一時間が経過した。
「変化ありませんね」
「ああ……」
 さらに、一時間経過。
「おかしいな……」
 と言いつつ、懐から一冊の本を取り出した。
「Dr.石像で確認してみよう」
 単行本だった。
 本を最初から読んで、石化を解く方法を改めて確認を始めた。
 石化解除薬は、硝酸と96度アルコールを3:7の割合で調合すると書いてある。
「やはり足りないようです」
「蝙蝠の糞だけではダメなのか?」
「でも石化した者が、強靭な意識を保てば硝酸だけでも可能と書いてあります」
「でもな……蝙蝠の糞が硝酸と言えるか?」
 石化が解けない像を見つめながら、意気消沈する二つの影。
「このままじゃ、帰れませんね」
「ああ、手ぶらで帰るとハーデース様に叱られて、最悪ケルベロスの餌にされちまうぜ」
「ひええ!堪忍してください」
 どうやら、この二つの影は冥府の神ハーデースの従僕のようである。
「何とかしなくちゃ。とにかくできうる限りのことをしようぜ」
「そうはいっても……」
 石像をじっと見つめる二つの影だった。
「なあ、ところで催さないか?」
「何をですか?」
「実はずっと我慢してたんだよ」
 といいつつ、ズボン?のジッパーを外した。
 そして、おもむろに石像に向かって放射したのである。
「ああ!そんな事したら……いいんですか?」
「何もしないでいるよりましだろ?何でもやってみる以外ないだろ」
「それはそうですが……」
「ほら、お前も出せよ。溜まってるんだろ?」
「分かりました。やればいいんでしょ」
 と、同じようにする。
 神の従僕に生理現象があるのかは謎だが……。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11
妖精伝説
2020.12.01

台本用の初校が見つかったのでアップします。
その後にかなり修正されてしまいましたが、
ストーリーはだいたい理解できると思います。

劇団朗読音声版です↓




妖精伝説


序幕 妖精伝説
地球の中世代のような世界。
恐竜が地上をのし歩いている。
空中には翼竜が飛び交い、海には海竜。

ナレーション(&字幕のスクロール)
それはまだ人類が誕生するはるか昔のおはなしです。
世界はドラゴンと呼ばれる種族によって支配されておりました。
地上はおろか、海の中から空中にいたるまでドラゴンはわがもの顔でのさばっておりました。その性格ときたらそれはそれはたいへんな凶暴もので、他の動物達は身を隠すように暮らしていました。
世界のすべてをお作りになった創造主は、これを嘆きとうとう天空の女神アルテミスにたいしてドラゴン退治をお命じになりました。
戦いの神でもあるアルテミスは圧倒的優勢にドラゴンを退治していきました。
しかしドラゴン族もそうそう負けてはいられません。ドラゴン族の中でも最強といわれるブルードラゴンの、さらにその族長ザラムートをおしたててきました。
ブルードラゴンの長、ザラムートは口からあらゆるものを溶かす灼熱の炎を吐き出すだけでなく、不思議な魔法を使いこなし、すべての神がかかっても倒すことが出来ないという不死の生命力をもった、史上最強のドラゴンでした。
創造主はアルテミスに一振りの剣(ドラゴンバスター)をお与えになり、これに対抗させることにしました。
ついにアルテミスとザラムートが対決するときがきました。
激しい戦いは七日七晩繰り返されました。
大気は渦巻き雷鳴がとどろき、大地は脈動し火山がいたるところで火を噴き上げ、海はとどまることなく荒れ狂っていました。
しかし、双方の力が互角であったがために、ついに決着はつくことなく互いに精神力・体力ともに使い果たしてしまいました。
力を失ったブルードラゴンは深い海の底に沈み、天空に昇る力すら失ったアルテミスも荒野に下落して、やがてその姿を消しました。
やがてザラムートの亡骸が沈んだあたりの海上に小さな火山島が突然出現し、満月の夜その島影から数え切れないフェアリーが飛び立ち四散していきました。
一方アルテミスの下落した荒野からは、やがてどこからともなくエルフ族が出現しました。
人間が現れたのは、さらに後のことでした。

気の遠くなるような長い時が流れ、アルテミスもブルードラゴンのことも忘れ去られていきました。
地上は人間の支配するところとなりました。
エルフやフェアリーもそれぞれに生活していましたが、人間のおおせいな繁殖力と貪欲さには、ついていけずに森の中においやれてしまいました。
そんな時です。どこからともなく魔の一族が現れたのは。
魔の一族は人間を見ると襲いかかってきます。人間は必要にかられて武器を作りだしこれに対抗しましたが、魔の一族は強力な魔法を用いて反撃してきます。
魔の一族を統率するのは魔将軍と呼ばれる魔界の支配者でした。
これに打ち勝つことのできる者は、アルテミスかブルードラゴンしかいません。
人間は窮地に陥りました。
はたして人間はこのまま滅ぼされてしまうのでしょうか。



暗転。


タイトル
フェードイン
軽快な音楽。
画面に大きく「妖精伝説」の横文字。
フェードアウト



第一幕 迷いの森
小鳥がさえずり、樹々がうっそうと繁るフェアリーの森。
彼方から聴こえる雷鳴。少しづつ近付いてきます
樹々の間を飛び回りながら薬草を集めているフェアリーのニーナ。
後方で地面に落ちた小枝を踏み折る音。
驚いて振り返るニーナ。
地面に落ちている小枝を踏んでいる足元。上へ(たてPAN)
あたりを見回しながら森を抜けて行く人間。
鎧を身にまとい腰には剣を吊しています。


ニーナ
樹の影に隠れて人間を監視しています。


ニーナ 「人間だわ」(そっとつぶやく)
人間の頭上を、身を隠しながら飛んで後をつけはじめます。
どうやら気づかれていないようです。
雨がぽつりぽつりと降り始めてきました。
ニーナの頭上を鳥が旋回しています。
人間に夢中で周囲に気が付かないニーナ。
鳥、ニーナに向かって急降下してきます。


ニーナ 「きゃあ!」
突然の急襲にたじろぐニーナ。
間一髪鳥のくちばしをかわしたものの、羽根の一部をむしり取られてしまい、樹から落下してしまいました。地上ではとぐろを巻いたへびが、傷ついてうごけないニーナに迫ってきます。


ニーナ 「た、たすけて」
その叫び声に気がつく人間。
腰からナイフを取りだし、ニーナに襲いかからんとするへびに向かって投げつけました。ナイフはへびの鼻先をかすめて地上に突き刺さります。
おどろいて逃げ出すへび。
呆然とするニーナ。
人間がニーナに向かって近付いてきました。
ニーナも逃げようとしますが、羽根が傷ついていて動けません。


騎士  「君、大丈夫かい?」
人間、やさしく微笑んでいました。


ニーナ 「この人間は大丈夫みたいね……」
身に危険がないと察知したニーナでしたが、羽根の痛みにそのまま気絶してしまいました。



第二幕 洞窟
森の一角。時折閃光と雷鳴がとどろく中、樹々の繁みに隠れるようにして、
洞窟の入口がぽっかりと開いている。
暗い洞窟。ところどころの壁から、水がしみ出ており地面に落ちて渇いた洞
窟内に響いている。その奥まったところより、明るい光が洩れている。
暖炉。まきがくべられてぱちぱちと音をたてながら、洞内を照らしている。
暖をとる騎士。暖炉の光に照らされて浮かぶその表情から苦悩の様子がうかがわれる。その傍らに毛布の切れ端にくるまわれるようにして横たわるフェアリー。その大きさは丁度そばの人間の手の平くらい。

ニーナ 「うーん」(気がついて起きる)
途端に人間の存在に気づいて身構える。

騎士  「おお、気がつきましたね」
おびえているニーナ。

騎士  「恐がることはない。何もしないよ」
ニーナ、毛布をはねのけて逃げようとするが傷ついた身体では飛び上がることができない。背中に激痛を覚えて苦痛にあえぐ。羽根の付け根から背中にかけて傷の手当がされている。それに気づき騎士に向き直り、こわごわと声をかける。

ニーナ 「あなたが手当を?」
騎士  「そうだよ。どう手当していいかわからないから、とりあえず傷薬をぬって当て布しておいた」
ニーナ、手当てされた傷口を眺めている。

ニーナ 「あ、ありがとう」(軽く会釈する)
騎士  「噂には聞いていたけど、本当に妖精がいたんだ」
ニーナ 「普通の人間にはあたし達は見えないのよ」
騎士  「でも僕には見えるよ」
ニーナ 「そうね。こころの美しい人間にしか見えないんだけど……」
騎士  「へえ、そうなんだ」
ニーナ、じっと騎士を観察している。

ニーナ 「信用していいみたいね」(にっこりと微笑む)
騎士  「ありがとう。僕の名前はアルフレッド」
アルフレッド、片手を差し出す。

ニーナ 「あたしはニーナよ」
ニーナ、差し出されたその手の平にひょいと飛び乗る。アルフレッドが、手の平を肩に持ってくる。ニーナアルフレッドの肩へ飛び移って、ちょこんと座る。

ニーナ 「ねえ、どうしてこんな森に入ってきたの? ここが迷いの森だってことも知らないわけじゃないでしょう?」
アルフレッド 「実は君達妖精を探していたんだ」
ニーナ 「あたし達を?」
アルフレッド 「そうなんだ。エルフに伝わる妖精伝説によると、竜の島を知っているのは君達だそうだから」
ニーナ 「妖精伝説ですって!」
アルフレッド 「なんだ君達も知ってるんだ」
ニーナ 「ええ」
アルフレッド「そうか、アルテミスの子孫であるエルフと、ブルードラゴンの子孫であるフェアリーの双方に、妖精伝説があってもおかしくないよな」
ニーナ 「それでどうして竜の島に渡りたいの?」
アルフレッド「ドラゴンバスターを手に入れたいからさ」
声   「それを手に入れてどうするつもりじゃ?」
突然背後から、声がかかる。驚いて振り返る二人。そこにはフェアリー族の長老であるニザムが恐い顔で空中を浮遊していた。

ニーナ 「おじいちゃん」
アルフレッド「魔将軍を倒すために必要だからさ」
ニザム 「魔将軍とな?」
アルフレッド「そう、それは地上最強の剣、一振りするだけで灼熱の炎が走り大地は裂けるといわれている。魔将軍を倒せるのは、ブルードラゴンさえ倒したというこの剣しかない。そしてそれは今、ブルードラゴンの身体に突き刺さったままだという」
ニザム 「甘いな」
アルフレッド「甘いとは」
ニザム 「剣を手に入れても、肝心の魔将軍のところへどうやって行くつもりだ。相手は魔界にいるのだぞ。人間のおまえには不可能じゃろう」
ニーナ 「じゃあ、どうすればいいの」
ニザム 「ブルードラゴンのザラムートを復活させることじゃ。ザラムートなら魔界だろうと天界だろうと自由に行き来できる」
アルフレッド「どうすればブルードラゴンを復活することができるのか?」
ニザム 「龍水晶を手に入れることだ」
ニーナ 「龍水晶……ザラムートの魂が封じ込まれているという?」
ニザム 「そうだ。龍水晶に封じ込まれた魂を解放すれば、ザラムートは蘇る」
アルフレッド「それはどこにあるのですか」
ニザム 「龍峡谷にいるドラゴン族の長バハムートが持っているはずじゃ」
ニーナ 「バハムートは極端な人間嫌いよ。龍水晶を渡してくれるわけがないわ」
ニザム 「おまえも行けば良いのだ。フェアリー族になら説得しだいでは何とかなるかもしれない。ザラムートはドラゴン族の神でもあるからな、復活させるとなれば協力してくれるだろう。なんとなれば龍水晶の中の魂を解放できるのは、他ならぬフェアリー族にしかできないのだ」
ニーナ 「あたしが説得するのね?」
ニザム 「そうだ、できるか?」
ニーナ 「やってみるわ」
ニザム 「いいか。魔将軍も黙ってザラムートを復活させるのを見過ごすわけがない。ありとあらゆる手段を使って妨害してくるはずだ。龍峡谷にも竜の島にもそれ相応の罠や強者どもが待ちかまえているはずじゃ。こころしてかかれよ」
ニーナ 「うん」
ニザム 「アルフレッドよ。おまえ一人では竜峡谷にたどり着くことさえまず無理だろう。もっと心強いたのもしい仲間を集めて万全の体制で事にあたることじゃよ」
アルフレッド「わかりました。仲間を集めて、なんとかやってみます」
ニザム 「さあ、行け! 二人とも」
アルフレッド「はい」
ニーナ 「行ってきます」


第三幕 セシル王女

こうして共に旅をつづけることになった二人が最初に訪れた村は、魔将軍の手下によって全滅させられていました。

兵士 「貴様! あやしいやつだ」
なんといあわせた兵士に捕まって、牢屋にいれられてしまいます。そこには同じように捕まっている、エルフの娘エミリーと、修道僧のパッドがいました。突然王様の前に連れ出されます。

王様  「もうしわけなかったな。アルフレッド王子」
なんとアルフレッドは隣国の王子だったのです。美しい王女がアルフレッドに駆け寄ります。

セシル 「アルフレッド様」
アルフレット 「セシル」
アルフレッドと王女セシルは婚約者だったのです。夕暮れ、バルコニーで抱き合う二人の影がありました。ところがその深夜。セシル公女が魔物に連れ去られてしまいました。王は、早速救出のための兵隊を呼び集めて、セシルが連れ去られた山岳地帯へと向かわせました。その中にはアルフレッドとその仲間もいます。途中にも魔物達は襲ってきます。それをなんとか振り払いながら山の中腹にある、魔物の館にたどり着きました。セシルを人質にした犯人が現れました。

ルシル 「遅かったな、待っていたぞ」
セシルを誘拐した犯人は、エミリーのお姉さんのルシルでした。ルシルは強力な魔法でアルフレッド達に襲いかかります。実は、ルシルは魔将軍の催眠術で操られていました。

エミリー「お姉さん。やめて!」
エミリーの叫びも届きません。

ニーナ 「無駄よ、操られているのよ」
ルシルはありったけの強力な魔法をアルフレッド達にあびせようとしました。その時です。後ろのほうで縛られていたセシルが、ルシルに体当りをして邪魔をします。

ルシル 「このお! 邪魔をしよって」
邪魔されて怒ったルシルは、セシルに魔法攻撃を与えました。すさまじい電撃に壁に飛ばされるセシル。

アルフレット 「貴様! セシルを」
ルシルが、セシルに気を取られたすきに、チャンスとばかりにアルフレッドは飛びかかります。

エミリー「お願い、お姉さんを殺さないで」
その叫び声に、アルフレッドの振るった剣がそれて、ルシルの身に付けていたペンダントの宝石を破壊します。すると今まであんなにも凶暴な顔をしていたルシルの表情がおだやかになってきました。かけられていた呪文が解けたのです。

ルシル 「ここは? あたしは何をしていたのかしら」
エミリー「お姉さん!」
ルシル 「エミリーじゃない」
それはいつものやさしい表情をした姉の喜びの顔でした。エミリーは、ルシルの胸に飛び込みました。久しぶりに抱きあう姉妹でした。部屋の隅にセシルが倒れています。アルフレッドが駆け寄ります。

アルフレット 「大丈夫か、セシル」
セシルは重傷です。それでも最後の力を振り絞ってアルフレッドに語りかけます。

セシル 「アルフレッド様……大丈夫ですか」
アルフレット 「セシル! 僕はなんともない」
セシル 「よかった……でもわたしは、もう……」
アルフレット 「なにもしゃべるな、すぐ医者のところへ連れていってやる」
セシル 「あなた様と結婚して幸せな……したかった」
セシルは最後の微笑みを浮かべると、静かに息を引き取りました。

アルフレット 「セシル!」
アルフレッドは、セシルを強く抱きしめながら肩をふるわせて泣きました。ニーナやセシル達も、まわりに集まった兵士達も泣いています。墓地です。セシルに別れを告げています。

アルフレット 「いつまでも、悲しんでばかりもいられない」
エミリー「そうよ」
パッド 「魔将軍と戦うしかないのです。死んだセシル公女のためにも」
一行は龍水晶を求めて龍峡谷へ向かうことにしました。



第四幕 龍の島


龍峡谷。険しい道を乗り越え、魔物の攻撃をかわして突き進みます。

バハムート 「よくきたな」
ニーナ 「龍水晶を渡してください」
バハムート 「いいだろう。すべては龍水晶によって存じておる」
バハムートが天井を仰ぐと、青白く輝く龍水晶がゆっくりと舞い降りてきます。アルフレッドの手元に龍水晶がおさまりました。

バハムート 「龍水晶に封じられたブルードラゴンの精神力はけたはずれだ。解放するときにはものすごい力を生じてフェアリーの命を奪うこともあるかも知れぬ。気をつけることだ」
ニーナ 「ありがとう」
バハムート 「我々の屈強な戦士を一人お前達に同行させよう。役に立つはずだ、連れていきたまえ」
こうしてドラゴン族の戦士リードが仲間に加わりました。再び迷いの森に戻ったニーナ達。森は魔将軍の手によって焼き払われ、見る影もありませんでした。呆然とするニーナ。

ニーナ 「おじいちゃんー。みんなどこにいるの」
ニザムや仲間達を探して呼び回ります。

声   「ニーナよ」
どこからともなく声が聞こえてきます。

ニーナ 「え、何?」
きょろきょろと見回すニーナ。

声   「わしじゃよ」
ニーナ 「その声はおじいちゃん!」
ニザム 「そうじゃ」
ニーナ 「どこにいるの?」
ニザム 「ここにはいない。今わしはお前の心に話しかけているのだからな」
ニーナ 「あたしの心の中に? みんなはどうしたの」
ニザム 「安心しろ、フェアリー達はみんな無事じゃ」
ニーナ 「ほんとうなの?」
ニザム 「魔将軍の攻撃があるのは予知していた。だから前もって避難させておいたのじゃ」
ニーナ 「おじいちゃん、教えて。龍の島に渡る方法を」
ニザム 「それはおまえの心のなかにあるはずじゃ」
ニーナ 「あたしの心の中に?」
ニザム 「祈ることだ……湖にむかって」
しだいにかすれていく声。

ニーナ 「あ、まって、おじいちゃん」
声は聞こえなくなっていました。気がつくと心配そうな仲間達の姿がありました。ニーナはニザムに教えられたとおりに湖にむかって祈りました。すると龍水晶がまぶしく輝きだしてきました。一筋の光が湖を渡ったかとおもうと、サーッと湖の水が引いて道が現れ、その先に大きな島が出現しました。

アフルレット 「あれが龍の島なのか?」
エミリー「こんなところにあったなんて」
パッド 「いきましょう」
一行は湖の道を渡って島へと渡ります。龍の島。洞窟の奥深く。巨大なブルードラゴンの亡骸が横たわっています。その首筋に一振りの剣が突き差さっています。

アルフレット 「あれが、ドラゴンバスターなのか」
ニーナ 「そうよ。あれを引き抜かないとブルードラゴンは生き返らないわ」
アルフレット 「よし」
アルフレッドはブルードラゴンに飛び移ります。剣に手をかけようとしたその時、突然すさまじいエネルギー波が襲ってきました。間一髪退避するアルフレッド。一行が振り返ったそこには、仰々しい姿の魔将軍が立っていました。

魔将軍 「そうはさせないぞ」
ついに魔将軍の登場です。

魔将軍 「その剣は、ブルードラゴンの魂を身体から引き裂くもの。それを引き抜かれてはブルードラゴンを復活させてしまうからな」
リード 「こいつは俺達にまかせて、アルフレッドは剣を抜くんだ」
リードが魔将軍に飛びかかっていきます。ルシルが魔法攻撃で応戦します。エミリーは精霊を呼んで、魔将軍の攻撃から仲間を守ります。パッドは傷ついた仲間を治療していきます。全員が一丸となって魔将軍に向かいます。その隙をついて、アルフレッドはドラゴンバスターを引き抜くことに成功しました。

アルフレット 「ニーナ! 今度は君だ」
ニーナ 「わかったわ」
龍水晶に全精神を集中するニーナ。輝きはじめる龍水晶。

リード 「地震だ!」
大地が大きく揺れはじめます。洞窟の壁という壁が崩れ落ちようとしています。

パッド 「見てください。ブルードラゴンの身体が!」
パッドが指さしています。ブルードラゴンの身体が輝きはじめました。

エミリー「龍水晶に封じられていた魂が、流れ込んでいるんだわ」
ルシル 「復活するのか」
魔将軍 「させるかー!」
魔将軍がありったけの魔法攻撃をニーナに向かって放ちました。龍水晶から解放されるエネルギーと、魔将軍が放った魔法のエネルギーとが衝突して、ものすごい光と轟音をたてています。目を開けていられません。

ニーナ 「きゃあ!」
ニーナの身体が輝きはじめました。

アルフレット 「ニーナ! そこを離れろ」
ニーナ 「まだだめよ」
アルフレット 「ニーナ」
ニーナ 「アルフレッド、好きよ……もし生まれかわったら」
ニーナはアルフレッドに微笑みを投げかけました。そして、ニーナは蒸発するように消えてしまいました。

アルフレット 「ニーナ!」
ブルードラゴンがゆっくりと起き上がりました。

魔将軍 「ちっ、遅かったか」
すっと消える魔将軍。

ルシル 「あ、魔将軍が逃げる」


第五幕


輝きを失った龍水晶が転がっている。それを拾いあげるアルフレッド。

アルフレット 「ニーナ……」
龍水晶を胸に抱いて、悲しみにうちふるえるアルフレッド。

パッドー「セシルにつづいてニーナまで……」
ルシル 「いつまでめそめそしてんだよ」
エミリー「お姉さん! そんなこと言ったって」
ルシル 「死んだものは生き返らないんだ」
エミリー「でも……」
アルフレッドが立上りました。

アルフレット 「わかっている」
エミリー「アルフレッド」
アルフレッド、ブルードラゴンに歩み寄る。

アルフレット 「ブルードラゴン、僕達を魔将軍のいる魔界へ連れて行ってくれ」
それに答えるようにブルードラゴンが輝いたかと思うと、一行は暗黒の世界に運ばれていました。目の前には魔将軍の居城「夢幻城」がそびえています。それはそれは地上とは比べものにならないくらいの魔物が一行に襲いかかってきます。しかしブルードラゴンの加護のもとドラゴンバスターという最強の魔剣によって魔物は追い払われていきます。ついに魔将軍の咽元まで突き進みました。ブルードラゴンによってその魔法のすべてを封じられた魔将軍。アルフレッドはドラゴンバスターを構えて突撃します。

アルフレット 「魔将軍! 覚悟」
断末魔の叫びとともに崩れ落ちる魔将軍。

エミリー「ついにやったのね」
パッド 「長い戦いでしたね」
ルシル 「なんて悠長なこといってられないよ」
リード 「夢幻城がくずれはじめている」
エミリー「魔将軍が死んだからね」
アルフレット 「ブルードラゴン!」
答えるように、ブルードラゴンが輝く。



第六幕 再生


あたり一体暗黒に閉ざされた世界。ニーナが宙に浮いて漂っている。

ニーナ 「ここはどこかしら」
辺りが輝いてブルードラゴンが出現しました。

ニーナ 「ブルードラゴン!」
青龍  「なあ、ニーナよ。どうしてそんなにまで、人間の男に肩入れする」
ニーナ 「え? その声はおじいちゃん」
青龍の身体からまばゆい光が放たれたと思うと、その身体からニザムが現れた。

ニーナ 「おじいちゃんがブルードラゴンだったの?」
ニザム 「ふふ、そんなにおどろくな」
どっこいしょとブルードラゴンの身体に腰を降ろす。

ニザム 「正確にいうとな。わしは、ブルードラゴンの意志体のごく一部なのじゃ」
ニーナ 「一部って?」
ニザム 「ほれおまえが解放した龍水晶に封じられていた精神体。あれがブルードラ
ゴンの精神体なのじゃ。神龍戦争で肉体精神ともに力を使い果たし、傷ついた身体を癒すためには数万年もの時間が必要だった。そのために自らの身体から精神を抜取り紫水晶に封じ込めることにしたのだ。紫水晶はエネルギーを吸収する働きがあるからな。数万年もの長きもの間に吸収されたエネルギーは膨大なもので、充分元の精神力を取り戻すことができた。そして紫水晶は龍水晶となった。あとは解放する時を待つだけじゃった」
ニーナ 「あたしがその役割を果たしたのね」
ニザム 「そうじゃ。わしは、その時のためにと精神体から一部を抜き出され、大切な龍水晶を守り続ける役割をおっていたというわけじゃな。わしは神龍戦争以来死ぬことなくずっと生きておる」
ニーナ 「じゃあ、あたしのおじいちゃんというのは……」
ニザム 「それを言われると心が痛む。村人の意志を操作してそう思い込ませてきたのじゃ。おまえはわしの孫ではない」
ニーナ 「そんな……」
ニザム 「悲しむでない。お前達フェアリーは、ブルードラゴンの鱗から生まれたのじゃ。おまえとわしははるかな時をこえて同じ血筋であることには違いないのじゃからな。こうしてな……ニザムとしてお前達と永年暮らしているせいか、わしの身体にもうひとつ別の意識体が生まれたようじゃ」
ニーナ 「別の意識体?」
ニザム 「そうじゃ。ブルードラゴンの精神体とは違う別の意識がな。それはお前達を慈しむ心。そして数万年の時を経て、それはいつしか生命力となった。その生命をおまえに託すことにしよう」
ニーナ 「あたしに?」
ニザム 「ブルードラゴンが復活した今、ニザムはもう必要がなくなったからな。わしは本来の姿に戻らねばならぬ。元々その一部なのじゃから。
ブルードラゴンが首をもたげあげた。

ニザム 「時間がきたようじゃ」
ニーナ 「おじいちゃん」
ニザム 「おまえと過ごした日々は永遠に忘れないよ。さあ、行くのじゃ。新しい希望がおまえを待っているのじゃ」
ニーナ 「新しい希望?」
ニザムそれには答えずに、にこりと微笑んでブルードラゴンに溶け込んでいく。

ニザム 「おじいちゃーん!」
まばゆい光があたりをおおいつくす。


終幕 森は生きている


小高い丘。目の前に大きな湖が広がり、湖底に夢幻城が沈んでいる。アルフレッド以下の戦士達がたちすくしている。

エミリー  「これで本当に終ったのかしら」
パッド 「信じましょう。そうでなきゃニーナが命を投げ出して救ってくれたかいがないですよ」
    アルフレッド、ニーナの持っていた龍水晶のかけらを、右手に握りしめている。

エミリー  「あ、ブルードラゴンが!」
エミリーが湖面のほうを指さして叫んだ。ブルードラゴンが突如湖面から現れて水しぶきを撒き散らしながら天空めざして昇って行く。

パッド 「昇天していく。きっと天空城にいくんだな」
エミリー「きっとアルテミスに替って、天空からこの世界を見守ってくれるのね」
アルフレット 「呼んでいる……」
パッド 「どうした、アルフレッド」
アルフレット 「ニーナが僕を呼んでいる」
エミリー「なにいっているの、アルフレッド」
アルフレット 「行かなくては、迷いの森へ」
エミリー「迷いの森ですって!」
アルフレッドゆっくりと歩き出す。

エミリー「アルフレッド!」
パッド 「行かせてやりなよ」
エミリー「でも……」
パッド 「最愛のひとを亡くしたんです。そっとしておいてあげましょう」
エミリー「そんな……あたしだって……」
丘を降りてくるアルフレッド。後方に仲間達の姿。迷いの森。魔将軍の攻撃にすっかり朽ち果て、かつてのうっそうとした森の姿は見る影もない。森を歩いているアルフレッド。誰かを探すようにあたりをきょろきょろと見回している。ふと足元に何かを見つけて立ち止まる。倒れた大木のそばから新しい芽が出ている。

アルフレット 「芽が出ている」
そっとなでるようにその葉にさわる。あたりを見回すアルフレッド。そこここから新芽が出ている。

アルフレット 「森が再生しようとしているんだ。この森はまだ死んではいなかったんだ!」
声   「そうよ、アルフレッド」
気が付くとアルフレッドのまわりをたくさんのフェアリー達が群舞していた。

アルフレット 「君達は! 生きていたんだ」
フェアリー  「私達は大丈夫よ」
フェアリー  「そう、この森が生きている限り。私達も永遠に生きていけるの」
そんなフェアリーの中にニーナの姿があった。

アルフレット 「ニーナ!」
ニーナ、にっこりと微笑んで森の奥へと飛んで行く。

アルフレット 「まってくれ、どこへいくんだ」
ニーナ、振り返り振り返りしながら、アルフレッドを誘導するようにずんずんと飛び続ける。洞窟のある丘。ニーナ、すーっとその洞窟の中に入ってゆく。

アルフレット 「ここは……」
その洞窟は、アルフレッドとニーナがはじめて言葉をかわした場所であった。アルフレッド、中にゆっくりと入る。暗い洞窟内。アルフレッドの足音が壁に反響している。その奥まった、焚火のあったところ。ニーナが空中で静止している。ボーッとニーナのまわりが薄明るく輝いてくる。そこには、はじめて二人が出会った時の情景が、走馬燈のように浮かんでは消えていった。やがて幻影の中のニーナがゆっくりと振り返った。徐々に光が増してゆく。光が最高に達したとき、その中に裸の人間の女性の姿が現れていた。そして光は再び減光しはじめてゆく。

女性  「アルフレッド」
女性はアルフレッドの名を呼んだ。

アルフレット 「き、君は……」
女性  「ニーナです」
アルフレット 「ニーナ! 君がニーナなのか」
ニーナ 「はい」
その顔をよく見つめると、なるほどニーナに間違いはなかった。ただあまりの変貌ぶりに目を疑うばかりであった。

アルフレット 「でもどうして」
ニーナ 「おじいちゃんが、あたしの願いをかなえてくれたんです」
アルフレット 「願いを? ニザムじいさんがか」
ニーナ 「フェアリーの長老ニザムは仮の姿、実はブルードラゴンの化身だったのです」
アルフレット 「ニザムが、ブルードラゴン!」
ニーナ 「はい。それであたしを人間にしてくれたんです」
アルフレット 「そうか、ブルードラゴンがか」
ニーナ 「あたし……あなたのそばにずっといたかった。だから人間になりたかった」
アルフレット 「いや、何も言わなくてもわかっている」
ニーナ 「アルフレッド」
アルフレッドそっとマントを脱いで、ニーナにかけてやった。

アルフレット 「行こう」
ニーナ 「はい」
洞窟の入口に向かって歩き出す二人。外からの光が逆行となって輝き、フェードOUT



森の結婚式

輝く太陽。
木漏れ日が差し込む森。小鳥が飛び交い、フェアリーが群舞する森の風景。二人のフェアリーが花束の環を抱えながら空中を飛翔している。ゆっくり降りていくフェアリー。そこに花嫁衣装を着たニーナの姿が現れる。フェアリー花束の環をニーナにそっとかぶせてやる。そばにはアルフレッドがやさしく立っている。ニーナ達仲間の姿もあった。ニーナ、幸せそうに微笑んでいる。フェアリー達のダンスがはじまっている。しずかに、フェードOUT


↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

にほんブログ村 本ブログ 小説へ
にほんブログ村



11

- CafeLog -