性転換倶楽部/性転換薬 XX (七)
2019.05.16


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(七)乳房ポヨヨーン

 娘三人集まればかしましい。というがそれが四人なのだ。
「うん。やっぱり先生のが一番大きいですね。サイズはいくつですか?」
「C85よ」
「85!」
「すごいアンダーですね」
「しかたないわよ。男性ならそれくらいよ」
「性転換薬注射しているとおっしゃいましたよね」
 里美が考え込んでいる風な感じで尋ねた。
「ああ……」
「一日でこんなになったくらいですから、身体もやがて、ほっそりと痩せてくるんじ
ゃないでしょうか。わたしはそう思いますけど」
 例のスーパー薬を注射されて、性転換の片鱗を体験しているからの発言だろう。に
しても、元々から華奢で美人だった三人娘と違って、私は男そのものの体形をしてい
るから、果たして里美の言う通りになるか心配だ。
「そうだといいんだがな」
「大丈夫ですよ。きっとそうなります。性転換薬というくらいですから、乳房だけ大
きくなるなんてことないです」
「でも大きいわあ、ねえ、触ってもいい?」
「真菜美ちゃん、だめよ。失礼よ」
「だってえ。お姉さんたち、みんなBカップ以上で、あたしだけAカップだもん」
「そんなに触りたいか?」
「うん。いいの?」
「かまわん」
「あはは、じゃあ……」
 と言って、恐る恐る触りはじめた。女の子というものは、とかく積極的で遠慮とい
うものがなかった。何せ、思春期真っ盛りの十六歳だ。おい、その何にでも首を突っ
込む性格をどうにかしないと、また男にだまされるぞ。まったく少しも懲りていない
雰囲気だな……。
 しかし、何だろう……この感じ……。くすぐったいけど……。ああ、たぶん母親が
乳児に授乳させている感じか……。
 乳児は母乳を飲んでいる時、無意識にその乳房を揉みしだいている。母親はそのち
っちゃな手の動きを感じながら微笑んでいる。そんな感じだ。
「わあ! 柔らかくてぷるぷるしてる。あたしもこんな風になるといいなあ」
 他の三人は呆れた表情で微笑んでいる。

「先生。記録映像は撮っておられますか?」
 響子が突然話題を変えて、尋ねてきた。
「記録映像?」
「はい。学術的な観点から記録を撮った方が良いとおもいます。薬の効果、経日的身
体変化の様子などです。それに女性になってしまったら、先生が黒沢英一郎であると
いう証拠を示すことができなくなります」
「それもそうだな。よし記録写真を撮ろう」
「あたし、デジカメ持ってるよ」
「デジカメはだめよ。記録写真として撮る以上は、ネガやポジのフィルムを使う通常
のカメラでないとね」
「どうして?」
「デジタルだと画像編集して、どんな風にでも加工できるからよ。警察の現場検証で
の証拠写真は、通常のカメラで行われるのよ」
「ふうん……そうなんだ」
「由香里。書斎からカメラ持ってきてくれないか」
「はい」
 由香里は婚約以来、我が家に来て部屋の掃除などをしてくれているので、どこに何
があるかを、ある程度知っている。
「じゃあ、撮りますよ」
「ああ、やってくれ」
 身体的全体像から、乳房や局部の詳細な写真を撮っていく。
 三女までの娘達は、元々は男性だったので、その股間の物を見ても恥ずかしがらな
い。懐かしいなという境地かも知れない。
 だが、正真正銘の女の子である真菜美だけは、
「へえ。男の人のってこんな風になってたんだ……。可愛いな」
 と真剣な眼差しで、食い入るように見つめている。
 真菜美の脳は、柿崎直人という男性のものを移植したものだったが、脳神経細胞活
性剤の投与により、男性脳から女性脳に切り替わってしまい、そこへ死んだはずの真
菜美の魂が乗り移ったのだ。

 二日目。
 乳房の発達は昨日のような急変はしていない。
 このままどんどん大きくなって、超巨乳になるのかと思ったが、余計な心配だった
ようだ。わたしは巨乳好みではない。アメリカ人などは巨乳好きらしいが、米国のT
Vなどで肩に担ぐほどの乳房を誇っている女性を見掛けると、大きな胸のせいで相当
な肩凝りに悩まされているんだろうなと可哀想に思った。
 たった二日なのに、筋肉は削げ落ちて脂肪に置き換えられてふっくらとして女性ら
しい丸みを帯びた体系にすっかり変わっていた。
 乳房は、性転換薬でなくても、普通の女性ホルモンを投与していれば、自然に膨ら
んでくる。脂肪沈着もそうだ。
 どうやら特殊な薬を使用しないでも、女性ホルモンだけで十分変化を見せる乳房や
体脂肪などは驚異的なスピードで進行していくようだ。ただし適当なところまで育つ
と停止する。一方、性転換薬の力を借りて、より複雑な行程を必要とする内性器は、
じっくりと改造が進められていると思われる。
「お父さん、若返っているんじゃありませんか?」
 由香里の言葉に驚いて鏡に姿を映してみると、確かに以前より若くなっていた。
 あ、そうそう。婚約以来由香里は、わたしをお父さんと呼んでいる。
「一体何が起こったのかな。もしかしたら副作用かな。まあ本当に若返っているとい
うのなら好都合だが」
「あの研究員にお尋ねになられたら?」
「そうだな。今度聞いてみよう」

 一週目の終わり。
 ペニスは、ほとんど赤ん坊くらいの大きさに縮小していた。これじゃあ、立つにも
立たない。もはや小水をするだけの機能しかない。
 睾丸はごく小さなしこり状の固まりとなっていた。精子生産能力・男性ホルモン分
泌能力共に消失しているものと思われる。
 男性としての生殖能力を完全に失ってしまったわけだ。


11
性転換倶楽部/性転換薬 XX (六)
2019.05.15


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(六)性転換初日

 一週目。

 初日。
 その夜は、寝苦しかった。
 睾丸がじくじくと痛み、乳首のあたりに圧迫感が広がっている。
 どうやら薬が効いているようだ。
 そして翌朝になった。
 ひどい寝汗だ。風邪の症状でもこれほどの汗はでないだろうというくらい。
 額を拭おうとして腕を動かしたら、異様な感覚を覚えた。
「そう言えば、朝には立派な乳房を見れると、言っていたな……」
 起き上がって確認してみる。
 それは感動的な眺めであった。乳房など飽きるほど見つめてきたはずなのに、それ
が自分の胸にあるとなると、思いははるかに格別だ。
「里美もこんな風に感じていたのだろうか……」
 もっとも彼女の場合は、自分の意志じゃなく強制的だったから、突然豊かな乳房に
なってさぞや驚いただろうな。そして追い撃ちをかけるように、性別再判定手術を施
されて、女性にされてしまった。だから。本当なら刑事告訴されても仕方がないとこ
ろを、元々から女性的な一面を持っていたから、何とか許してくれて私の会社で受付
嬢として働いてもらっている。実は、本人には知らせていないが、とある取引先の重
役から長男の嫁に欲しいとの話しもあるんだが……。由香里のことが済んだら話して
みようと思っていたが、こんな状況では英二に引き継いでもらうしかない。
「うん。乳腺はしっかり発達しているな。形状も弾力も申分ない。これならお乳も十
分に出るだろう」
 自分で自分の乳房を触診している。産婦人科医として数多くの乳房を触診してきた
から、張りがあってつんと上向き加減のこの乳房には満足している。
「サイズ的には85のCカップというところじゃないだろうか……。ブラジャーが必
要だな」
 歩く度に乳房がぷるんぷるんと揺れて具合が悪い。
 早速、由香里に頼んで買ってきてもらおう。

「まず、ストラップの間に腕を通して、身体を少し前屈みにしてから、バストを下か
らすくうようにしてカップに収めます……」
 というわけで、今ブラジャーの着け方を、由香里に教えてもらっている。
 検診に際して女性の乳房や、ブラジャーを付けたりはずしたりするのを見てはいた
が、自分で自分にブラジャーを着用するのははじめてのことだら、勝手が判らないの
だ。
「そうしたら後ろ手で、ホックを止めてください」
 おいおい。そんな後ろに手が回らないよ。歳のせいで身体が固くなっていているん
だ……。
 あれ? 楽に腕が後ろに回るじゃないか。
 薬のせいで身体が柔らかくなっているようだ。
 しかし、見えない後ろ手でホックを止めるのが、なかなか難しい。女性は毎日こん
なものを着けているのか。中高年になって身体が固くなったら着用できないのじゃな
いのか?
「カップに手を差し入れて、脇に流れた肉を寄せ集めてカップに収めます。次に身体
を起こしてストラップの調整をします。後側が肩甲骨の下あたりに来るようにして下
さい。ここでの注意点は、前中心が浮いていないかです。確認してくださいね。あ、
大丈夫です。これでOKです」
「なあ、フロントホックとかいうのがあるよな」
「ありますよ。でも品数が少ないし、デザインもいまいちなんですね。それにお父さ
んくらいのCカップだと探すのに苦労します。通販しかありませんね」
「そうか……」
「大丈夫ですよ。これは慣れの問題ですから、すぐにちゃんと楽に着れるようになり
ます」

 由香里から聞いたのか、響子に里美そして真菜美までが押し掛けていた。
 ためつすがめつ、わたしの乳房を眺めては、
「わたしもこんな薬を打ってほしかったですよ。ねえ、由香里」
 響子がため息をついた。
「そうですね。里美は薬打ってもらったんだよね」
 由香里も同意している。ニューハーフ・バーでは最初ブラパッドをブラジャーにい
れていたのだから。しかし、あの薬は大量生産ができないので、里美に打ったのが最
後だったのだ。
「ごめんね。わたしだけ……」
「いいのよ。気にしなくても。終わり良ければすべて良しよ」
 真菜美がじっと私の胸を見つめている。
「やだあ、真菜美より大きいじゃない。ずるいよお」
「大丈夫よ。真菜美ちゃんは、まだ若いからもっと大きくなるわよ」
「ほんと?」
「もちろんよ。恋でもすればね」


11
性転換倶楽部/性転換薬 XX (五)
2019.05.14


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(五)性転換の説明(長いぞ~)

 研究員は補足説明をはじめた。
「男性の場合のミュラー管は、退化はしたものの完全に消滅したわけではありません。
性転換薬は、その退化したミュラー管に直接働き掛けて、活性化を促して子宮と膣な
どを発生させます。そして反対にウォルフ管から分化した前立腺などを、強制退縮さ
せます。やがて男性内性器から女性内性器に一新されてしまうわけです」
 なるほど、ミュラー管に目をつけるとはさすがだな。女性に生まれ変わりたいと願
って、日頃から勉強と研究を重ねていたのだろう。
「もちろん内性器の再分化だけでは、それこそ半陰陽でしかありません。外性器も同
時に進行しなければいけません。内性器さえ出来上がっていれば、形成外科的に構築
する方法もありますし、生殖には何ら問題はないですけれどもね。しかしこの薬は、
それさえもやってのける万能薬です。まあ、その過程は実際に経験してご自分の目で
確認してください」
「なんだ、教えてくれないのか?」
「ええ。一切合財知ってしまったら、感動が薄れてしまうじゃないですか。本当に素
晴らしいというか、劇的な身体の変化を観察してください」
「観察ねえ……」
 内性器は、いくら変化しても外見からでは判断できない。だから研究員は説明して
くれたのだろう。それに比べて外性器は、一目瞭然としてその変化を逐一見る事がで
きるから、自分の目で直接観察してくれというのだろう。
 論より証拠というわけだ。
「チンパンジーの話しに戻りますね。観察では、三日目には外陰部が女性器に変わっ
てしまい、七日目には完全に性転換が完了しました」
「うーむ。チンパンジーで一週間なら、人間なら一ヶ月くらいはかかるかな……」
「性転換薬だけでも十分女性化しますが、念のために女性ホルモンを投与してくださ
い。効果がさらに発揮されるはずです」
「わかった。産婦人科医だから、それは問題ない」
「それと成長ホルモンが十分に分泌されるためにも、睡眠はたっぷり取ってください。
脳下垂体は、眠っている間に成長ホルモンを産生分泌しますから」
「そうだな。寝る子は育つというわけか」
「ここにその後に注意していただきたい事柄を、詳しく説明してあります。良く読ん
で、治療が必要な時は迷わず実行してください」
 と、厚めの冊子を手渡してくれた。
 ぺらぺらとめくって拾い読みしてみる。
 三食しっかり食べる事、喫煙・飲酒を絶つ事、十分な睡眠。日頃の生活上での注意
事項が綴られている。
 さらには、血中ホルモン濃度、血液凝固反応、骨密度、体脂肪率などなどの計測の
実施。産婦人科で日常的に行われることが記されている。
 その中でも特に注意を引いたのは骨盤計測の項目である。
 骨盤外計測(棘間経、大転子間経、外結合線……)
 骨盤腔(産科真結合線、骨盤峡……)
 その他項目。
 妊娠・出産が正常に行われるかどうかを確認する為に、産婦人科医は必ず妊婦の骨
盤の諸経を計測しなければならないが、そのなかでも胎児が通過する産道にある、骨
盤腔産科真結合線の計測は絶対必要な項目である。この計測結果によって自然分娩に
するか帝王切開にするかを判断する。なお骨盤腔は、開腹してみなければ実測は出せ
ないので、X線撮影法か、触診及び外経から推測するしかない。
「しかし、産婦人科医しか知らないこんな専門的なところまでも調べ上げているとは。
驚異としか言えないな」
 薬剤師にはほとんど必要のない事柄までを詳細に勉強している。
 まあ性転換薬を作り上げるには、女性の骨格から生理、外面・内面すべてのプロセ
スに渡って詳細に知り尽くしていなければ、完成させることはできないというわけか。
「他に何か注意事項はあるかね」
「いえ、以上です」
「そうか、ご苦労だった」
「それでは、失礼します」
 一礼して退室する研究員。
 彼女の役目はここまでだ。
 研究員の任務は薬を開発する事。完成された薬を、実際の患者に使用するのは医者
の役目であり、その後の患者の容体を見届けるのも医者だ。薬剤の使用によって患者
に何か起こった場合、責任を取らなければならないのは医者であり、研究員は免罪さ
れるのが常だ。薬剤を開発したことが問われるのではなくて、その薬剤の効能を十二
分に理解して投与した医者にこそ責任がある。
 つまり今回の性転換薬投与は、すべて私自身の責任であり、研究員には何の咎めも
受けない。
「お父さん、気分はどうですか?」
 由香里が心配そうに私の表情を伺っている。
「ああ、今のところ大丈夫だ。まあ、おそらく今夜辺りから何らかの症状が現われる
と思うがたいしたことはないだろう」
 そう答えた背景には、スーパー薬を投薬された里美の実体験のことが頭にあった。
「あたし、心配ですから。毎朝様子を見に行きます」
「そうか……。じゃあ、よろしく頼むよ」
 果たして今後どうなるものかと尋ねられても、誰も答えられる者はいない。何せ世
界初というべき人体実験なんだから。誰かがそばにいてくれれば心が安らぐ。由香里
は毎日来訪して夕食を作ってくれているので、都合朝夕の二回顔を会わせる事になる。

 それから私の身に起きた劇的な変化は、言葉だけではとても言い尽くせないもので
あった。自分では確認できない兆候もあるので、由香里の証言を含めて記述していこ
うと思う。


11
性転換倶楽部/性転換薬 XX (四)
2019.05.13


性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)


(四)性分化に関するながーい話デス

「社長、どうなさったのですか?」
 彼女が心配そうにしている。
 いかんいかん。また悪い癖が起きようだ。
「ともかく、六時間以内という限られた中では、探している暇はない。ここにいる者
から選ぶしかないだろうし、適任者は一人しかいない。この私というわけだ」
「わかったよ。そこまで意思が固いなら止めはしないが、責任は自分で取れよ。僕や
由香里には、世話かけるなよ」
「無論だ」

「社長、いいですか?」
「おう、やってくれ」
「では、袖を捲くってください」
 言われた通りに背広を脱いで、Yシャツの袖を捲くる。
 彼女は、薬瓶から注射器に性転換薬を移していた。
「では、いきますよ」
「お父さん、本当にいんですか?」
 由香里が心配そうに覗きこむ。
「いいんだよ、由香里。これは私の役目なんだよ。社長として最後の仕事だ」
「お父さん……」
 由香里は本当にやさしい娘だ。英二はああ言ったが、私がどんなになろうとも、世
話をしてくれに違いないだろう。
 研究員が腕をアルコールで消毒をはじめた。いよいよだ。
 彼女は薬剤師の国家資格しか持っていないから、注射のような人への医療的行為は
許されていないが、まあいいじゃないか。医師のわたしが許す。
「では、いきます」
「おお……」
 いざ注射される段になって、さすがに緊張して腕が震えた。
 ちくりと鋭い痛みがあって、性転換薬が腕の筋肉に注入されていく。
「もう二度と元に戻れないか……」
 言い知れぬ感覚が全身を駆け抜けていく。
 性転換手術を受ける寸前の患者も気持ちはこんな感じなのだろうな。
 もっとも手術によるものではなくて、薬による無傷性転換というのが違うところだ
が。
「明日の朝には、立派な乳房が見られる事でしょうね」
「そ、そうか」
「社長なら、ウォルフ管とミュラー管のことはご存じですよね」

「ああ、産婦人科医なら誰でも知っている。どちらも生殖原基細胞から分化したもの
で、男女の内性器を発現する元となる器官だ。胎児の発生の過程において、ウォルフ
管は前立腺や尿道管の一部などの男性性器に分化し、ミュラー管は子宮や膣といった
女性性器に分化する。受精においてXY染色体を持った者は、Y遺伝子からの指令を
受けて原始生殖細胞が睾丸となって男性ホルモンを分泌するようになり、ウォルフ管
を前立腺などの男性器へと誘導して、対するミュラー管は退化してしまう。一方のX
X染色体を持った者は、自動的に卵巣に発達して、ミュラー管が子宮や膣などの女性
器へと誘導されて、ウォルフ管が退化してしまう。ミュラー管は女性ホルモンで発達
し、ウォルフ管は男性ホルモンで発達する。その逆では抑制の方向に働くようになっ
ている。
 生殖原基細胞は女性型が基本となっていて、何の刺激も受けなければ自動的に女性
に分化してしまう。つまり発生の過程で、男性ホルモンがあるかないかによって性が
決定してしまうんだ。
 半陰陽というものがある。男女分化が中途半端に起こる現象だ。
 睾丸も卵巣も、微量だが反対の性ホルモンも分泌する。また副腎皮質からも両性の
ホルモンを分泌する。元が同じ所から発生したから当然だな。これらが時として多量
の性ホルモンを分泌することがある。そうなると正常な性分化が阻害されて、半陰陽
を産み出してしまうんだ」
「さすがですね」
「馬鹿にしちゃいけないよ」

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 X
2019.05.12


 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 X 撃沈

 ミネルバ艦首の三連装135mm速射砲が火を噴いた。
 砲口から飛び出したAPFSDS弾は、加速ブースターとも言うべき離脱装弾筒を
切り離して、後尾翼のついたペンシル状の弾丸となって敵艦を襲う。
 砲口初速は2100m/s(7560km/h)とハープーンの巡航速度(970km/h)とは桁違いの
速度であり、しかも電波を出さず推進用の熱源もないために、着弾時の終速値がかな
り低下していたとしても、これをミサイルで迎撃するのは至難の業である。
 余談だが、かつては大砲の砲身には砲弾を回転させ安定感を与えるための旋条砲身
というもの使われていたが、最近のAPFSDS徹甲弾のように、その直径と長さの
比が大きい(L/D比が6以上)弾種は、旋動させる方が飛翔中の安定性が悪くなること
が判った。そのため旋条のない滑腔砲身が使用され、弾丸の安定には翼が付くように
なった。なおラインメタル対戦車榴弾なども滑腔砲身用である。

 APFSDS徹甲弾はザンジバルの後部エンジンに見事着弾して炎上させた。
 炸薬がないとはいえ、凄まじい運動エネルギーの放出によって、衝撃波が生じ付近
一帯をことごとく破壊する。
 ザンジバル艦橋。
 大きな衝撃を受けてよろめく乗員達。
「後部エンジンに被弾しました!」
 オペレーターが金きり声で叫ぶ。
「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!!」
 火炎を上げながらゆっくりと降下するザンジバル戦艦。
 艦内では、消火班や応急処理班が駈けずり回って、何とか艦を立て直そうと必至に
なっている。
 やがて海上に着水し、加熱したエンジンに大量の海水が流入して、水蒸気爆発を起
こして火柱が上がった。

 艦橋に伝令が駆け寄ってきて報告を伝えた。
「艦長! 至る所から浸水が始まっています。艦を救える見込みはありません!」
「判っている。副長、総員を退艦させろ!」
「了解、総員を退艦させます」
「通信士。艦隊司令部に打電だ。『我、撃沈される。速やかなる救助を願う』艦の位
置も報告しろ」
「了解!」
 総員退艦の指令を受けて、艦の至るところで退艦の準備が始められた。
 救命ボートや救命艇が海上に降ろされて、次々と兵員が乗り込んでいく。
 艦橋からそれらの様子を眺めている艦長。
「だめだ! 敵艦は、エンジンから武装、その他すべてにおいて大気圏内戦闘のため
に特殊開発された特装艦だ。宇宙戦艦一隻が太刀打ちできる相手ではない」

 ミネルバ艦橋。
「敵艦、海上に着水。撃沈です」
 一斉に歓声が上がる。
「スチームの射出を停止。当艦はこのままカサンドラ訓練所のあるバルモアール基地
へ向かう。全速前進!」
「了解。進路バルモアール基地、全速前進します」

第三章 了

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