梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(十二)口付け?
2021.02.25

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(十二)口付け?

「24! どうだ?」
 慎二が首を横に振っている。
「リーチだあ!」
「俺もリーチ!」
 二人がカードを高く掲げて宣言した。
「おおっと! リーチが同時に二人も出たよ」
 場内がざわめきはじめる。
「さあて、次の巡でビンゴが出そうだ! みんな用意はいいかな」
「おうよ」
 ピピピとルーレットが動く。
「13!」
「ちきしょう! 穴がずれてる」
「64か22にしてくれよお」
「俺はリーチだぞ」
 生徒達が口々にぼやいたり、歓喜している。
「ビンゴはいないのかあ?」
 リーチ掛かりの三人に視線が集中する。
 後からリーチ宣言した二人は首を振っている。
 そして慎二は……。
 カードを確認し、再びゆっくりと手を挙げる。
「ビンゴ? ビンゴなのかあ?」
 こっくりと頷く慎二だった。
「おおっとお! ビンゴ成立だあ。美女の口付け争奪バトルの栄冠は、沢渡君のもとに輝いた」
「ちぇっ。三つもリーチが掛かってたのによお」
「それでは梓さん、沢渡君前にでてきてください」

「どうした、委員長」
「俺って結局、梓さんにセクハラを強要したんだな、って。あれ以降、彼女は部屋に引き込んじゃったし」
「しかし、男子女子共々大受けだったじゃないか。イベントとしては大成功だよ」
「だからって女の子一人を、人身御供にするのはやっぱりいけなかったと思う。梓さんが選ばれたのは、たまたまのくじ運だけど」
「もし君がそんな風に思っているのなら、謝りにいけばいいんじゃないか」
「無理ですよ。彼女は一般人の入り込めない36階のVIPフロアにいるんですから」
「あれ、35階建てじゃなかったの、このホテル」
「36階建てですよ。バスの運転手が丘の上で説明していましたよ。そこにパンフレットがありますから、写真の建物の窓の階数を数えてみてください」
「本当だ。36階ある」
「従業員に聞いたら、事務所になっているとのことですが、観光地のホテルで最も展望の良い最上階を事務所にするところなんてありませんよ。都心のデパートならそういう場合もありますけどね」
「だろうなあ」
「それで従業員が立ち話をしているのを、物陰で聞けるチャンスがありましてね。

 通路の影で従業員達の会話を立ち聞きしている鶴田。
「ねえねえ、お嬢さまのお顔見た?」
「見た見た、とっても可愛いのよ」
「今、最上階のVIPフロアにいらっしゃるのよね」
「うん。36階だけど、あそこって支配人か副支配人の持ってる鍵がないと、行けないんですって」
「ああ、そうそう。支配人の持ってる鍵は、竜崎麗香さんてかたが預かっているみたいよ」
「その麗香さんて、支配人より偉いってことなのかな」
「みたいよ。支配人がぺこぺこ頭下げてるの見たわ」
「バスのお湯や水がちゃんと出るかとか、空調設備はきちんと動いてるかとか、自分自身の目で調べていたらしいし」
「そりゃあ、お嬢さまがバスを使うのにお湯がでなかったら大変だものね。昔だったら切腹ものだよ」
「噂では、お嬢さまがお持ちになられている権限の、執行代理人ということらしいけど。企業グループの社長さえ更迭できるくらいの強大な権限を持っているらしいよ」
「そうそう。真条寺財閥グループのナンバー1が渚さま、その世話役の恵美子さまがナンバー3。お嬢さまはナンバー2で、その世話役の麗香さまはナンバー4、というところかしらね」
「その麗香さん。何でも二十歳の若さにして飛び級でコロンビア大学の経済学博士課程を終了したという秀才だとか」

「……とか言ってました。話しの筋を総合すると、どうやら梓さんはこの研修保養センターを所有する、真条寺財閥グループを統括する『渚』という人物のご令嬢というところでしょうか。どうりで宿泊先としてこのセンターを、簡単にしかも無料で手配できたわけです。それと、絵利香さんも、篠崎重工のご令嬢のようだし」
「そうか……ばれてしまったか」
「先生は知っておられたんですか?」
「ああ、一応担任だからな。家庭訪問で、彼女達の豪邸も訪ねた事がある」
「豪邸ですか。そういえばロールス・ロイスで通学する女子生徒がいるという噂を聞きましたが、梓さんでしょうね」
「鶴田くん、二人のことしばらく内緒にしておいてくれないか」
「いいですよ。どうやら財閥令嬢であることを知られたくないみたいですからね」
「ああ、いずれはばれることだろうけど。それまではな」
「財閥令嬢か……とんでもない生徒がクラスメートなんですねえ」
「ところで、沢渡君はどうしてる?」
「梓さんを探しまわってますよ。VIPルームにいること知らないから」

 普段着のままベッドの上をごろごろ寝転がる梓。
「なんか、やるせないなあ……」
「どうしたの?」
 ベッドの縁に腰掛けそんな梓をみつめている絵利香。
「女の子ってさあ、どうして男の子の飾りものにされちゃうのかなあ、って」
「ビンゴゲームのこと言ってるのね。でも、頬にキスするぐらいアメリカ人の梓ちゃんなら慣れてるでしょ。わたしのお父さんにしょっちゅうキスしてるじゃない」
「そうじゃなくて、ゲームに利用されるところが気にくわないのよ」
「でも公平くんを責めちゃ可哀想よ。クラスメートの親睦を深めるために一所懸命に余興を考えた結果だと思うから」
「わかってるけどさ……」
「こういう時はさ、身体を動かして汗を流すといいよ。ねえ、ボーリングでもしようか?」
「それ、いいかもしれない。麗香さん。副支配人を呼んでくださるかしら」
「はい。かしこまりました」
 インターフォン電話を取りフロントに連絡を取り継ぐ麗香。

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