あっと!ヴィーナス!!第四章 part-1
2019.12.16


あっと! ヴィーナス!!


第四章 part-1

「さて、みなさん。恒例というか自己紹介をお願いしますね。出席番号順にしましょう」
 と言いながら出席簿を広げた。
 出席順だったら、弘美は相川だからいつも一番に呼ばれるはずだった。
 しかし……。
「相田康平君」
「はい」
 と呼ばれて立ち上がる相田君。
 はーっ……、とため息をつく弘美。
 どうやら男子から女子の欄に出席を移行してあるみたい。
 ヴィーナスに手抜かりなしか。
 やがて男子が終わって、女子の番となった。
「相川弘美さん」
 やっぱりね……。
 ちょっと悪戯してみたくなった。
「俺の名前は相川弘美だ。つい昨日の朝まで男をやっていた。こんなことになったのはそ
こにいる女神奇麗とか言う教師のせいだ。実は信じられないだろうが、ヴィーナスという
女神で男から女の子にされてしまった……」
 とここまで言いかけて異様な雰囲気を感じて、言葉を飲み込んだ。

 自分の声以外何も聞こえないのだ。

 生徒達のざわめき、運動場からの体育の掛け声、窓際に茂っている木々の風にそよぐ音。
 一切が消えていた。
 しかも教室を見回してみると、生徒達さえも動きを止めていたのだ。
 鼻くそをほじくっている生徒。
 背中がかゆいのかシャツの襟から手を突っ込んでいる生徒。
 髪の毛の手入れに余念がない生徒。
 あくびをして大きく口を開け、手で隠している生徒。
 みんな固まったまま微塵も動かない。
 自分のまわりだけが時間が止まっていた。
 すべてヴィーナスのせいか?


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