学園長編小説/梓 第二部
 第五章・別荘にて(6)

 その夜、軽井沢一帯は激しい雷雨に見舞われた。
 折りしも遊びに来ていたクラスメート達にとっては、はじめて経験する豪雨だった。
 梓たちは、リビングでくつろいでいたが、窓に打ち付ける大きな雨音に打ち消されて、会話の声も届かない。
 そして突然の停電。
 一瞬真っ暗闇となったが、すぐにバッテリーによる非常灯に切り替わった。
「停電ね」
 非常灯の薄暗い部屋の中、成り行きを見守るしかない一同。
「大丈夫よ。もうじき自家発電機が動きだすわ」
「自家発電機があるのか」
「落雷による停電は日常茶飯事みたいなもの。しかも一度停電すると、二三日は復旧しないこともある。だから自家発電機が必要なのさ」
 だが、五分経っても停電は復旧しなかった。
 別荘内をメイド達が火の灯ったローソク片手に、行き来している。別に驚いた風でもなく、いつものことといった表情であった。
「どうしたのかしら?」
 その時、電話が鳴った。
「停電なのに、電話機が使えるのか」
「バッテリーが内臓されていますし、回線が切断されていなければ通じます。でも、これは内線みたいですね」
 おもむろに麗華が送受機を取る。
「機械室からです」
 梓邸の地下には、機械室が設置されていた。
 停電時の給電を担う自家発電装置、調理室や各部屋のシャワー・風呂そして冷暖装置に温水を供給するボイラー室などがあり、それぞれに国家資格を持った技術者が待機している。
「電機技師が、まだ帰ってきていない?」
 内線による連絡によると、電機技師が街へ用事で出掛けたものの、途中の道ががけ崩れにあって帰れなくなったというものだった。
 電気技術者がいなければ、自家発電装置の始動もままならなかった。
「がけ崩れ?」
「はい、電話回線も切断されたらしく不通です。衛星電話から連絡がありました」
「つまりこの別荘は孤立してしまったということ?」
「そういうことになりますね」
「じゃあ、自家発電は無理?」
「電機技師による通電試験を行わないと危険ですから……。無理です」
「しようがないなあ……」
 バッテリー供給による非常灯も次第に暗くなって、やがて真の闇夜がやってくる。
 この別荘は都会から遠く隔たれた森深い山間部の中にある。
 隣の別荘は何キロも離れていて遠く、周囲には街灯一つなし。例えあったとしても停電では同じことである。
 雷雨はさらに激しさを増し、嵐の様相を呈してきていた。
 テラス窓の前に佇んで、外の様子を伺っている相沢愛子。
「しかしこんな夜には幽霊がでてもおかしくないかもね」
 と、梓が呟くように応えた。
「出るわよ」
「え?」
 喉の奥底から搾り出すように声を出す梓。
「実は、この別荘が立つ前は……」
「いや! 聞きたくないわ」
 絵利香が耳を塞いだ。
「あはは、絵利香は、幽霊とかオカルトとかいった話しが苦手なのよね」
「百物語をしようよ」
 慎二が提案した。
 すると、
「うん。やろうやろう」
 と、賛同の声があがった。
 青くなる絵利香。
 メイドに人数分のローソクを用意させて、じぶんのテーブルの前に立てた。
 ローソクの揺れる炎に照らされて、各自の表情が不気味に変化する。
「それじゃあ、あたしからね」
 梓が一番乗りした。