【初稿版】学園小説/梓 中後編
(十)練習試合
河川敷き野球グランド。
練習を続ける野球部員達。
副主将の武藤が指揮を執っている。
「よし、六四三のダブルプレー!」
おお! という内野手の返事。
「順平、内角低めに投げろ!」
「はい!」
ピッチャーマウンドに立つ順平が、指示されたコースへ投げ入れる。
「いくぞ、ショート」
「よっしゃー」
順平が投げ入れたボールを確実にヒットしてショートへ運ぶ武藤。ボールを確実に
ヒットし、打ちわけのできる武藤ならではの練習方法であった。もっとも相手がバッ
ティングピッチャーであり、コースも判っているからできる芸当である。順平にして
も、指示されたコースに放りこむことのできる技力が、かなり備わってきていた。
グランドの隅で投球練習している梓。その相手役の捕手を務めていた田中宏にむか
って、そばで見ていた山中主将が伝える。
「宏! 梓ちゃんをマウンドに上げろ」
「あいよ」
宏ボールを梓に軽く投げ返して、
「梓ちゃん、出番だよ」
それを受け取って答える。
「はーい」
それまでバッティングピッチャーをやっていた順平がマウンドから降りながら、声
をかけてくる。
「頑張ってください」
「うん」
軽く答える梓。
そして正捕手の熊谷相手に投球練習を開始する。
「梓ちゃん、しっかりね」
「ファイト!」
部員達からも声援がかかる。
それに軽く手を振って答える梓。
順平は、球拾いのため外野の奥に回る。
「うーむ……梓ちゃんがマウンドに登ると、みんなの表情がしまってくるなあ」
バッターボックス後方で梓の投球を見ている武藤に山中主将が語りかける。
「梓ちゃんにいいところ見せようって魂胆みえみえですけどね」
「まあ、それでもいいさ。練習に身がはいってさえいればな」
「しかし、ほんとにいいんですかねえ。女の子に投げさせて」
「しようがないだろう、梓ちゃん以外にまともにピッチャーつとまる奴、いねえんだ
からな。ピッチャーなしでどうやって練習しろってんだよ」
「そりゃそうですが……一応、順平はピッチャーなんですけどね」
「ありゃ、だめだ。まだまだ、バッティングピッチャーにしか使えん」
「やっぱし……」
「スピードとコントロールはまあまあになってはきているが、バッターとの駆け引き
では、梓ちゃんの足元にも及ばない」
「そうですね。梓ちゃんはスピードはないですが、コースを的確についてきます。相
手が打ち気を起こさせるようなコースなのでつい手を出してしまいますが、手元で急
激に変化します。あれじゃ、なかなか打てませんよ」
「そうだな。相手の好きな打撃ポイントを知り尽くしていなければできない芸当だ」
「ええ。仮に当てても、球速がないですから真芯で捉えない限り、ぼてぼてのゴロか、
内野フライがせいぜいです」
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