プリンセスドール/メイドとして(2)

 しかし……。  これら何が行われるかがうっすらと想像にできた。  ベッドの上で裸になってすることと言えば一つしかないだろう。  あの男達の会話から、この黒猫館が売春を目的とした場所らしいことがわかる。  そして周囲にいる女性達は、メイド姿をしているとはいえ、全員その構成員の売春婦と いうところか……。  その周囲のメイド達は無表情に、静かに立ちすくんでいた。 「それでは儀式を始めましょう。この館の一員となるための通関儀式です」 「通関儀式?」  扉が開いて全裸の男が入ってきた。 「この男性のお相手をして頂きます。もちろんあなたの意思で」 「わたしの意志?」 「そうです。ここでは強引に性行為を強要したりは致しません。あなたがこの男性を受け 入れるまでじっと待ちます」  そう言われても、はいそうですかと肯定などできるはずがない。 「ちまたの売春宿などでは、こういう場合には調教と称して力ずくで辱め、時には覚醒剤 を使って、売春婦に仕立て上げて、客を取らせるようにするものですが……。この館では そのようなことは一切致しませんし、メイドを傷つけるようなことはご法度、お客様にも 十分に注意して頂いて貰っています。メイドは奴隷ではありません。お客様に満足して頂 けるように奉仕するために働いているのです。もちろん性行為が主たる ものではありますが、ただそれだけが目的のセックス人形ではないのです」  セックス人形という言葉が出て、思わず苦虫を噛んだような気分になるわたしだった。  そうなのだ。  わたしが生み出したプリンセスドールはセックス人形ではない。  人として生き、人としてあるがままに存続する。  だが運命のいたずらか、そのセックスをもって奉仕するメイドにならなければならない とは……。  哀しい運命だった。 「この屋敷からは絶対に出られませんよ。受け入れるしかないのです」  確かに逃げることはできないようだった。  強姦のように無理矢理力ずくで犯したりはしないが、性行為を拒否することはできない。  好むと好まざるとに関わらず、男性との性行為を受け入れるしかないのだ。  それも自らの意思で身体を開いて……。  黒猫館……。男性に奉仕するために存在するメイド達。その一員となるための儀式。  わたしは決断ができなかった。  時間だけが過ぎ去っていく。  喉が渇いてしようがなかった。  周囲のメイド達も相手となる男性も、ただ黙ってわたしが受け入れるのを待ち続けてい た。  彼女らも、今のわたしのように通関儀式を体験しているのであろう。  そしてメイドとなり、この館で男性達に奉仕を続けているのだ。  あきらめの心境に到達しつつあった。  どうすればいいのだろう。  声になって出ない。  身動きすらできない。 「お、おねがいします」  ひとこと、それだけ……言えた。  周囲から微かな吐息が聞こえた。  その言葉を理解した男は、ベッドの上に這い上がり、わたしの身体に被さった。  男の手が乳房に触れた。  秀雄以外には誰にも触られたことのない乳房だった。  秀雄……。  その面影が浮かび上がる。  もはや二度と会うことはないだろう。  思わず涙が溢れる。  静かに愛撫をはじめる男。  全身を男の手が舐めるように動き回る。  そしてもっとも女性らしい部分にも……。  秀雄以外の男性との経験のないわたしであったが、その男のテクニックは並外れたもの だったに違いない。  わたしのもっとも感じる部分を的確に探し当て、ソフトに、時としては荒々しく緩急織 り交ぜて、愛撫を続けていた。 「ああ……」  身体が愛撫に感応しはじめていた。  やがて喘ぎ声も無意識に発するようになっている。  全身を電気のような刺激が駆け巡っていた。  頃合良しと見たのか、男はわたしの両足を折り曲げ拡げて、間に割り入ってきた。  男の固いものが、最も女性らしいその部分にあてがわれた。  あ……。  それがわたしを押し広げて入ってくる。  そして、わたしは完全にそれを根元まで飲み込んでしまっていた。  秀雄以外の男をはじめて受け入れたわたしの部分が痙攣のように脈打つ。  やがて前後に腰を動かし始める男。  その動きに合わせるようにわたしの身体が動き、そして乳房が揺れる。  痺れるような感覚に襲われながらも、なすがままにされるわたし。  男の動きが早まった。  次の瞬間だった。  わたしの中に熱いものがどうっと流れ込んできたのである。  こうして儀式は終了した。  わたしは黒猫館のメイドの一員となったのである。
     
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